天使狩人 7
前回と同じ
軽やかに流れるミュージックで恵は目を覚ました。
「ここは?」
ーーあれ? 確か、チンピラのような服装をした二人組と乱闘して……気を失って………。
「医療場よ」
声のした方向へ体を向ける。
「大丈夫? 痛いところはない?」
白衣に身を包んだ女性が声の主だった。女医といったところだろう。
「あの女の子が連れてこなかったら、ちょっと危なかったかもね」
ーーあの女の子?
誰だかわからない、という表情をしていたのか女医が教えてくれた。
「ほら、あそこに座っている子よ」
「あっ!!!!」
思わず声を上げてしまった。それは、恵が助けた女だったのだ。
先程の女医と同じく、白いズボンに服……恵に天使狩人の勧誘をした男と同じ格好をしていた。ただ、色が違うだけで。そして、茶髪のロングヘアー…。
「大丈夫だったんだね、よかった」
声を掛けてみた。
「私は大丈夫だけど、君は大丈夫なの?」
「ああ、俺は大丈夫」
そう言って体をねじ曲げてみたが、痛みが走った。
「嘘つかないの、というより何で助けたのよ?」
「何でって、そりゃあ危なそうに見えたからだろ」
「それで《洗礼》も無しで助けようとしたの?」
ーー洗礼……?
「あなた、ほんと何も知らないのね。まさか、さっき天使世界に来たばかり?」
コクコクと頷いた。
「それで《洗礼》も浮けてないわけね~、じゃあ、名前も無いか」
「名前はあるぞ! 長峰恵だ!」
「それは、前の名前でしょ。平和世界と天使世界じゃあ名前も変えるの。てか、つけられるんだけど……」
「へぇ~」
「へぇ~って、君も今から行くんだよ!」
「え? 行くの」
「行かなきゃ天使狩人には成れないよ」
正確に言うと成りたくないんだけどな。
「わかった。ところで君の名前は?」
「私……? 私の名前はねぇーーー」
一瞬の間が空いた。
「シーラよ」
恵はシーラに連れられて、最初に来た広場を抜けて大きな塔に入った。
「ここで《洗礼》するの?」
「そうよ、もう少し奥で《洗礼》してもらうわ」
「え? 誰に」
「そんなことも知らないの? あんたってほんと新人すぎよね」
そりゃあ、逆に天使狩人を侮辱してきましたから。
「んで、誰なの?」
「メシア様よ。救世主って書いてメシアって読むの。優しい方だよ」
「ふ~ん」
「ふ~んって、聞いてるの? ぁ、着いたわよ」
そこは、大理石で造られたホールだった。そして中心には噴水が、脇にはシスターのような格好をした女性がいた。恵はシーラの耳元で囁いた。
「あれが、メシア様…?」
「そうよ、はやく」
シーラに背中を押されて体勢を崩してメシアの前に行った。一言述べるとシーラが押した背中の部分は傷口だった。恵はしかめ顔でメシアに聴いた。
「ここで、あの……あれをするんですか?」
「そうです。そのまま噴水に上がって下さい。そして、頭をこちらに預けて下さい」
メシアは、穏やかな口調でそう言った。恵は、素直にその指示に従った。
頭の中を覗かれているような感覚……心を見透かされているみたいだった。恵は、自分が天使狩人を嫌っているという気持ちだけは隠そうとしたが。何故か、隠し事をするのはいけない、と思った。
「暗い……暗い…あなたの心は暗く、黒い……それゆえ、光を見失っている。暗く黒い……あなたの名前はダーク……。暗黒の象徴………」
不意に頭が軽くなった。洗礼が終わったのだ。
「え あ、これで終わりッスか?」
「あなたは、選ばなければならない。次へ行くが良い」
「え? 次」
シーラが答えた。
「バトルスタイルよ」
天使狩人 7
続く