気骨隆々
昨日ビート武が「暑い中お父さん可哀想ですね」と言って笑いを取っていた。
骨身のある人たちだということだろう。
この地に越してきてから、なんだか周りの様子ががらっと変わった気がする。
暑い中、犬を連れて歩いていれば「犬可哀想やろ」と声を掛けられるし、走っていれば「倒れても知らんでえ」。
とっても、世話焼きさんが多いのだ。
あの薄情者の田舎じゃこうはいかなかったなあ。私は従姉たちを虐めぬいたその土地の人の薄情さを思い、一人歯噛みする。
あの町は老人が跋扈し、コネが物を言い、頑張っても頑張っても報われない。社会的に地位や学歴がないと認められないのだ。
その点、大阪は楽であった。
色んな人がいるから、差別などもないし、たまにMrオクレみたいな人が「アホー」とかあいさつ代わりに言ってくるのみで、それも考えようでは愛嬌があって面白い。
向こうは至ってまじめに言ってる人もいれば、こちらが了解していると知っていてわざと言って「今日も元気やのう」と笑う人もいる。
こちらでは学歴なんかは関係なく、会話やお笑いのセンスが物を言う。
私はこのとびぬけて阿呆な頭を使い、様々な主に右隣の陰湿な家族からの猛攻に耐えてきたが、今じゃそれすらどうでもよくなって、手放しに無視している。
我が家の前の新築の家の嫁さんは面白そうだが、旦那さんは私を見るとくちゅっとした顔をして、多分真面目に「アホー」と言ってきている。
そんだけ反骨精神がたくましいということだろう。
気合いの入った「アホー」に出会う度にそう思う。
その隣の魚屋の家族は、奥さんが至って真面目でぶきっちょで、しかし挨拶をすれば返してくれる。
娘と息子は大概ふざけており、私と言う暇人を使って遊びに遊びぬいている。
若いっていいなと思う。
私は事実働けておらず、遊び人の体たらくなので、怒られることは多分にある。
こないだも、叔母から電話で「あんたなー、働いとかな、後は知らんで!」と言われたばかりだ。
いやね、障碍者年金をもらってるから、というと、「何それ、そんなん貰えんの」と、興味津々なところが叔母らしく可笑しかった。
「叔母さんだって、死にたくなることもあった、大変なこともあった、あんた、気持ちで頑張らんかい!」
と、こうである。
それから、私は求人情報をくまなくチェックし、し終えるころには頭からもくもくと煙が出ていた。
母に「落ち着け」と促される。
自分では清掃なんかで、しごいてもらいながら働こうと思っているのだが、年金が下りるのならば貰ってこうと言う心境。
別にずるしてるわけではなく、街に出れば罵詈雑言が聞こえるし、こないだなんか、マクドに入ったら小さな子が駆けてきて、私を指さして「みんなで虐めしよう!」と叫んだ。
幻想なのか?現実なのか?どっちなんだ。
こんなことがあるから私は混乱し、心の迷路にまでは迷い込まないが、やはり働いてもなんらかの弊害はあるだろうな、と身構えてしまう。
それでも働くということがもしできたなら、本当に喜ばしいことだ。私は死ぬまで頑張るだろう。
嫌がらせなんかはどうでもいい。ただ首にする流れに持っていかれたり、盗難に遭ったりするのが耐えられない。
私の今まで務めてきた職場と言うのは、常にそんな要素を孕んでいた。
良い人スタンスで行くからいけないんだろうか。
それとも周りに、悪意を持った人間が?
まあ私の勤めたところはすべてブラックで有名だったのだけど、それにしても舐められる時点で情けない。
やっぱりな、先生に言われた。お笑いのボケ担当です、あなたは。頭がよくないから面白おかしく切り返せないし、恋愛がガチで苦手だから、男の人を見ると警戒してしまう。
まあみんな、行った先で恋愛してるみたいだけどね。私には、運命の相手レベルじゃないと、無理です。信じられないです。
ここに人間不審者あり。というか、恋愛なんてめんどくさい。一人で犬と戯れていたいのだ、私は。
それに昨今、恋愛ごとで揉めて人殺しまで出ているではないか。そんなもんに巻き込まれる気持ちはない。私は空気が読めないので、そうなる可能性は無きにしも非ずだ。殺されたくないし、金も盗られたくない。
一銭も金を掛けなくてもよくて、ただ単にたまに出会って遊ぶ程度の男がいるというなら付き合ってみたいが、そこまで手の離れた相手もそうそういないし、出会いがない。
第一この、金を掛けなくてもよいという面をクリアする男がなかなかいないだろう。最近の男は女を騙してばっかりだ。
金を払ってまで追いかけたくはない。ちょっと正直すぎるだろうか。
とりあえず、これからも気持ちだけは一人前。一人でも恐れず進むのみだ。
まあ、人は情け深いし、大丈夫だろう。
どいつもこいつも、笑かしてやるー。
私はそう思いながら、ハト麦茶をくぴりと飲んだ。
気骨隆々
もうそろそろ、働けないかしら。