黒き馬

星のない、石の道
たてがみをなびかせ、
我が黒き馬よ、恐れることはない。
もうすぐ見慣れた庭園のそばに
いつもの水飲み場を見るであろう。

そこの城壁の角に、
あの人が待っている。
昨日約束を交わした。
誰も知らぬこと。

我が黒き馬よ。
道を迷わせる獣の叫びに
慄くことなかれ。
そら、そこだ。
わが愛しき人が、
灯籠を傾け、道を照らしているぞ。

今宵でなければ、
二度と会うこともあるまい。
明日にも、共に出立するのだ。
我が黒き馬よ、我が千年の王国のために。

あゝ、愛しき人。
その手を最後に見せておくれ。
今一度、我が震える胸に、
汝が名を忘れぬように。

明日は、遠く熱風の街道を、
遥か異国の地に向け、
進むのだ。何があろうとも。
何人であろうとも。

明日、我が千年の王国のために。
今宵のみは、我が愛しき君の願いのために。

黒き馬

黒き馬

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-06-21

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