君とみる花火

西木眼鏡

 まさか今年の花火は君とみることになるなんて思ってもみなかった。
 今日はお盆前最後の土曜。都と県の境目を流れる川の河川敷で行われているこのあたりでは大規模な花火大会の日だ。
 私は空に咲く大輪に驚きながら、隣で座って大人しく花火を見ている彼と付き合い始めた春からの出来事を思い返した。大学四年生になる前日、私たちは都内でショッピングをして、いつものように帰る時間も忘れて夕食を食べていたらいつの間にか日付の変わる一時間前になってしまっていた。田舎から出てきている彼は、帰る電車が無くなってしまい、仕方なく私の家に泊めた次の日の朝、私に今までの思いを告白してきた。私はそれほど深く考えず、特に強い好意を抱いていたわけではないが、嫌いではなかったからという理由で、彼の告白に応えた。それからすぐにお互い就職活動が始まり、なかなか会えずにいた反動なのか最近は一週間に一度、少なくても二週間に一度は合うようになった。
去年も彼に花火大会には誘われていたが、本当にどうとも思っていなかった私は、夜は出歩きたくないからと適当な理由をつけて断ってしまっていたのだが、今年は誘ってきてくれたことが嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。これまで一度も近くで花火を見たことがなかったということもあるのかもしれない。
「こういう時、理系の人は花火の色の解説をしてくれるんでしょう」
 私は言った。
「ああ、リチウムが黄色で、ナトリウムが赤ってやつか」
「違う。リチウムが赤でナトリウムが黄色ね」
 そうそれそれと言って君は笑った。大雑把な正確な私と君にとって花火の色の表し方など大した問題でない。綺麗な花火をただ互いを好いている人と一緒に見ることができればそれでいいのだ。
「ねえ、来てよかったでしょ。どう、初め近くで見る花火の感想は」
「うん。すごくきれい。来年もその次の年も一緒に来たい」
 照れくさくて私の頬はきっと赤く染まっていただろうけど、花火の映える夜であり何より花火に夢中の彼はきっと気づいていなかっただろう。
 花火大会の終わった帰り道、駅を目指す人ごみに流されないように彼は私の手をぎゅっと握り、迷わずに駅を目指す頼もしい姿に惚れ直す、というわけにはいかず、花火を見ながら飲んでいたお酒に若干負け気味の彼がふらふらとどこかへ行ってしまわないように手をぎゅっと握っていた。
 いつもよりも私たちの距離が近づいた気がした花火大会は、今年の夏のかけがえのない思い出になった。

君とみる花火

君とみる花火

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted