いぬカレ!
三題話
お題
「いつもの癖で」
「犬」
「一瞬の出来事」
私とこいつが付き合い始めてもうすぐ半年が過ぎる。
最近では手を繋いでいるだけで感情が読めるようになってきた。
それは単に感情が顔に出るというか仕種に出るというか、とにかくわかりやすいやつなのだ。
ほら、今だって私の手をにぎにぎしたりして落ち着きがないし、ひんやりとしている。
緊張している時のサインだ。
「ねえ、そんなに緊張しなくても大丈夫だって。ミラは少し変わってるけど良い子だから」
「……だ、だいじょーぶだよ、ゆーちゃん」
「ほらほら、緊張してるの丸分かりだから」
さっきから妙に静かなのもそのせいだろう。受け答えは単調で、声も小さい。
安心させるために優しく手を握り返して、笑顔を見せてあげる。
こういう細かな気配りを忘れないように心掛ける。私がいないと全然ダメなんだから、世話が焼ける。
そうこうしているうちにミラとの待ち合わせ場所へ到着。この駅前の広場は多くの人の待ち合わせに利用されるためいつも混雑している。
きょろきょろしながら歩いていると、壁際に立っているミラとちょうど目が合った。ミラはこちらに気付くと笑顔で走り寄ってきた。
「やっほー、ユイ。久しぶりだねえ」
「いや、先月に会ったばかりでしょ」
「一ヶ月ってなかなか長いのですよ。で、この人が愛しのコウくんね。写真で見るよりかっこいいじゃん」
ミラは私の後ろで静かにしていたコウタの顔を覗き込み、肩をぺたぺた叩く。
「ふむふむ。こんにちは、コウくん」
「こここ、こんにちは、粟本さん」
「ちょっとちょっとー、その呼び方はよそよそしくて泣けちゃいますー。ミラでいいよー」
そう言いながらコウタの顔へ手を伸ばそうとしたミラの腕を掴み、私はそのまま歩き出す。この辺で止めてあげないとかわいそうだからね。
「ほらほら、予約した時間過ぎちゃうから行くよ」
私達は予約しておいた居酒屋へ入り、席へ案内された。私とコウタが並んで座り、向かいにミラが座る。
ドリンクなどを注文し終わったところで、ミラは不満そうに私を見る。
「どうかした?」
「なんでユイは最初からソフトドリンクなのさ。ここは居酒屋だよ」
「だってアルコールはあまり好きじゃないから。それにまだ未成年だもん……ミラもね」
「う、来月には二十歳になるからいいの!」
今日のメンバーで二十歳になっているのはコウタのみ。年齢確認が適当だなあ、と思うけどどこもこんなものか。
私はすぐに気持ち悪くなっちゃうから、二十歳過ぎても飲まないかな。
ドリンクが運ばれてきたところで乾杯をして、三人の飲み会が開始された。
…
「うぁぅ、それで、うちもコウくんみたいなかっこいい彼氏がほしいわけですよ」
「そんなかっこいいだなんて……ねえ、ゆーちゃん?」
「はいはい。コウくんはかっこいいですよー」
ミラは酔うと彼氏がほしいと連呼する。いや、酔っていなくても言うのだが、酔うと特に自身の理想的な恋愛についての話ばかりになる。
コウタは酔いが回ってミラに慣れてきたのか、今では普通に会話が出来ている。
ミラは顔がほんのりと赤くなっているけど、コウタは見た目に変化はない。
でもよりやっかいなのはコウタのほうだったりする。
「ほらほらゆーちゃんもぐぐっと飲んで」
こうやって私にもたれかかってきたり、人前でも平気でべたべたしてくるのだ。
「おおー、ラブラブですなー。羨ましい! コウくんを貸してよ。一ヶ月くらい」
「ミラさんだめです。僕はゆーちゃんしか愛さないのです」
「くはー、言うねえ。うちもこんな風に愛されたいわー」
初めは合いの手を入れていた私も、だんだん面倒くさくなってきてミラとコウタの会話を横で眺めるだけになる。適当に料理を追加して、べたべたしてくるコウタをあしらいながら時間を過ごす。
「なんかゆーちゃん静かだね。どうしたの?」
コウタは私の頭を掴んでぐにぐにと揺らしてきた。振り払おうにも力の差で負けてしまう。
たぶん撫でているつもりだとは思うけど、強すぎて首が痛い。
しまいにはキスまでしてこようとしてくるものだから、私はついにキレてしまった。
「あー、もう! コウタ、おすわりっ!」
私が怒鳴ると、ようやくコウタは大人しくなった。
「おお、すごい。見事にしつけられてる。コウくんってなんだか犬っぽいもんねー」
「…………」
今日は家じゃないしミラもいるからこれはやらないように気を付けていたのに。いつもの癖って怖い。
私はごまかすように店員を呼んでカルーアミルクを注文。
それは私が唯一飲むことが出来るアルコール。もちろん一杯だけしか飲めないけど。
…
「ゆーちゅわーん」
居酒屋を出てミラと別れ、コウタの家に来た。今日はこのまま泊まるのだ。
玄関をくぐるなりしなだれかかってくる。外ではなんとか我慢させたが、中に入った途端いつもこうなってしまう。
「んん、先にシャワー浴びといで。その後なら好きにしていいから」
いちゃいちゃするのは恋人同士の特権だし、私も嫌いじゃないというかむしろ好きだし。
ソレに関して文句を言うことはないしあえて拒否することもない。
コウタの後で私もシャワーを浴びる。髪を軽く乾かしてから、バスタオルを体に巻いてベッドへ向かい、腰掛けているコウタの横へ私も腰を下ろした。
ギシと沈み込み、コウタへもたれかかると私の肩に腕を回してきた。
「お酒くさい」
「しょうがないだろ」
そのまま私達はキスをする。そこから先はコウタにされるがまま。
一瞬の内に押し倒されて、バスタオルを剥ぎ取られて、アレやコレやソレをしてなんたらかんたら。
半月振りだからか、休み無く二回連続でされてしまった。
「……ちょっと、今日は激しすぎ」
「だってゆーちゃんがかわいいから」
「……もう」
ぐったりとして横になっている私とは対照的に、コウタは元気な様子。どちらの意味でも。
案の定コウタは私の上に乗ってキスをしながら体を触ってくる。
「ん、ちょっと、さっきしたばかりじゃん。二回も」
「まだまだ足りないよー」
「まま、待って。私の体がもたないよ!」
…
その後、朝になるまで三回も襲われてしまった。計五回。どんだけ元気なんだこいつ。
でも、いいかな。体は疲れたけど心は満足だったし。
隣で眠っているコウタのかわいらしい寝顔を見て、私は幸せを噛み締めていた。
「そうだ。今度首輪を着けてみようかな」
いぬカレ!