火を灯せ

図らずも、火を受け取ってしまった。

「お前には、あの火が見えないのか!」彼はそう叫んだ。

私が絶望しかけたとき、誰もそばにはいなかった。

そうそう自分で立ち上がるしかないんだった、人生とは。
私が諦めてぱんぱんと手を払い、立ち上がると、そこに彼が偉そうに立っていた。

「偉人とは、斯くも無残な目にあうが、どこまでもその灯は続いていく。お前には、あの火が見えないのか」

そう言って彼が指さす先に、えんえんと続く明かりの列があった。
その番は私で止まっている。

松明が手渡された。
いいえ、私は普通の人生でいいんです、そう抗議したら、「お前には後に続く者が見えないのか」と怒られた。
はっと後ろを見ると、これまた列の数。

なんで私なんかが、こんな列に。
そう思いながら火を継いだ。

この火を絶やさないように、そうしていれば、私の人生は開けるそうだ。

なんだか思ってたのと全然違う人生になったぞ。
そう思っていたら、「あ、どうも」となんだかひょろひょろしたふざけたような人が来て、私の肩を叩いた。
何、と言ったら、「いやあ、君の才能はまさかこんな風に開花するとは思ってなかったんだけど、図らずも、面白くなったよねえ」と言う。

はあ?と怒ったら、「とにもかくにも、励みなさい」とぽんと背中を押された。

どうやら偉い人だったらしく、皆が頭を下げる。
あいつにしてやられたのか。

私は怒りも甚だに、全然普通の人生が良かったわ、と毒づいた。

「しかし君の人生は、面白いよ」

その人がくるっと振り向いてまた言った。

私はこの言葉に、恥じることのないように生きねばならぬ。
そう思って、松明を大きく振りかざした。

赤く火の粉が散った。

火を灯せ

なんかできました。

火を灯せ

全然意識してなかったのに、図らずも。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-20

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