はい、いいえ

罪からは逃げられない

 夜、スマホからの着信音が部屋中に鳴り響いた。友人のアヤからの電話であった。アヤからの通話を取ると
「ねぇ、ミサ。“はい、いいえ”女を知っている?」
と開口一番発した。突然な主旨が掴めない質問に呆気に取られた。唐突な質問や声のトーンが低いことも気になったが、まず私は質問に答えようと考え、アヤに
「知らない、その人は誰?」
と答えた。
「そう、なら、その人に出会ったら五つの質問をされるけど、すべて”はい”と答えてね。あと、質問後三秒以内に答えてね。そうしないと…」
と言い残し、通話が切られた。すぐにかけ直してみたが、繋がらなかった。
「え?どうゆうこと?」
と不安と疑問を感じたが、アヤのいたずらで納得してしまった。明日学校で聞いてみるかと思い、スマホを机に置いた。

 翌日、登校するとアヤの姿はなかった。
「どうしたのだろう?」
昨晩の奇妙な通話のこともあり、胸騒ぎがした。放課後にアヤの家に寄ってみることにした。

 放課後、アヤの家に向かう路で路を塞ぐように女が中央に立っていた。漆黒の長い髪で黒ワンピースを着ており、冷たい空気を漂わせていた。長い前髪が顔を覆っているため表情を伺えなかったが、唇が乾燥し、割れていることが伺えた。本能で関わったら何かが起こると感じた。早く通り過ぎようと思いながら、私は女の脇を抜けようとしたところ、女は乾いた声で
「“はいか、いいえ”で答えなさい」
と語りかけてきた。“はいか、いいえ”のフレーズが昨晩のアヤとの会話と重なった。突然のことで戸惑い、思慮を巡らすが、私の都合を顧みず質問が開始された。
「質問一、あなたは同級生をいじめたことがある?」
なぜ、いじめについての質問か不明だが、“三秒”以内に答えなければならず、私はアヤの助言通り「…はい」と答えた。
「質問二、あなたは同級生を自殺に追い込んだことがある?」
間髪をいれず淡々と質問が進んでいくことを理解した。私も機械的に答えることにした。
「…はい」
「質問三、あなたは後悔している?」
「…はい」
「質問四、あなたは罪を償いたいと考えている?」
「…はい」
アヤの話によると次が最後の質問である。答え終わり次第、この場から立ち去りたい思いが頭の中を満たした。すると、女の口が動き出した。
「最後の質問です。あなたは死を受け入れることができる?」
「…え?…」
最後の質問が耳に届いた瞬間、崖から突き落とされた感覚になった。瞬きする間もない落下速度だが、頭の中はゆっくり流れていくように感じた。機械的に“はい”と答えるはずだったが、頭の中が渦巻き、、“はい”と答えるべきかを考えてしまった。そして、我に返り慌てて“はい”と答えようとした頃には”三秒”という時が流れた後だった。

 「今日ミサが昨晩アヤの様子が変だったから家に行ってみると言っていたけどどうだったのかな?」
と自室のベッドで寝転がって物思いに更けていた。噂をするとミサから電話がかかってきた。
「ねぇ、カナ“はい、いいえ”女を知っている?」

はい、いいえ

はい、いいえ

突然友人のアヤから電話で「”はい、いいえ”を知っているか?」と質問される。そして、私は翌日女と出会い、五つの質問をされる。昨晩アヤから質問されてもすべて”はい”と答えれば大丈夫と助言される。私は助言通り、すべて”はい”と答えたが…。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-18

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