普通

ああ、神様、どうか僕の懺悔をお聞きください。
僕は今まで偽りだらけの人生を送ってきました。
人を愛したことがないのに結婚をし、働きたくないのに仕事をし、幸せじゃないのにさも幸せなそうなふりをして生きてきました。
僕は幼い頃から『普通』の人間になることに憧れていました。
普通ほど幸せなものはないと子供の頃から知っていたからです。
でも現実は自分の思う通りにはいきませんでした。
本当の僕は人間が嫌いです。
人間は裏表が激しく僕のように表面上は笑っていても腹の中では何を考えているのかわからない生き物です。
だから僕は人をすきになったことがありません。
でも世間は人を愛することができない人間を異常者のような目で見ます。
国は子供を沢山産めと言います。親は結婚して孫の顔が見たいと何度も僕に要求してきます。
だから僕は普通の女性と結婚し、子供も作りました。
しかし妻も子供も一度も心から愛したことはありません。
彼女と抱き合ってキスをしても、子供が無邪気に笑っていても、何の感情も湧いてこないのです。
寧ろそれを気味悪いとすら思えて仕方ないのです。どうして他人にそこまで心を許せるのかわかりません。
しかし僕は『普通』でいるために何処にでもいるような優しい父親をついつい演じてしまいます。
そのお陰で彼らの僕に対する信頼は一度も揺らいだことはありません。
本当は仕事だってしたくありません。
だけど無職は世間に社会不適合者というレッテルを貼られてしまうので仕方なく働いています。
毎日行きたくもない会社と家との往復で時折とても死にたくなります。
『普通』の生活をするために大学へ行っていい会社へ就職して家庭を持ち誰もが望むような普通の暮らしを手に入れたのにも関わらず僕は一度もそれを幸せだと思ったことがありません。
自分じゃない何者かに勝手に体を乗っ取られて使われているみたいでとても気持ち悪くなります。
そんな僕が唯一僕でいられる時間があります。
僕は人の死体を見るのが好きです。
だからネットで自殺志願者を募って沢山殺しては近くの山に埋めています。
死ぬ前にその人とどうして死にたいのか、今までどういう人生を送ってきたか等、沢山の話をします。
最終的には皆涙を流して僕に死にたいと訴えてきます。
学校や家庭や社会の何処にも居場所がなく行き場のなくなった人たち。
僕と同じように、心の中で苦しみもがいている人たちを楽にしてあげるのです。
そういう人たちが目を閉じて安らかな顔で眠っている顔を見ると落ち着くのです。
そのとき初めて僕は心に幸福を感じることが出来ました。
僕はおかしいのでしょうか。
それともこの世界が狂っているのでしょうか。
そもそも普通って一体何なんでしょうか。
どうして皆僕に普通を求めるのでしょうか。
わからなすぎて死にたくなってしまいます。
その前に、神様どうかお願いです。
僕を『普通』の人間にしてください。

普通

普通

  • 小説
  • 掌編
  • 成人向け
  • 強い反社会的表現
更新日
登録日
2016-08-14

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