一斤染

一斤染

幾度も繰り返したのに
何もかもが真新しく見える
彷徨う綿埃が
軒下に安住の地を定めたような
遠い昔に失くしてしまった宝物を
机の裏から見つけたような
長い夜が明けて
目映い朝日が昇るような

その肌は初雪のようで
その指はガラス細工のようで
その髪は新芽のようで
抱き締めた君は相変わらず
悲しくなるほど綺麗で
伸べど返す
それだけで良かったのに

すべては
この時のためにあったのかもしれない、とさえ
すべては
明日にも消えてしまうのかもしれない、とさえ
歯車が噛み合う音があまりにも大きくて
目の前に現れた世界があまりにも美しくて
生まれたばかりの人間が、ふたり

何かが間違えば何にもならなかった
何かを持ち過ぎればすべてが通り過ぎた
僕を成すひとつひとつの構成物と
君を形づくるひとつひとつの奇跡と
世界を彩るひとつひとつの偶然が
ただ其処に在った、きっとそれだけなのに

こんなにも嬉しくて
こんなにも恐くて
こんなにも満たされて
こんなにも愛おしくて
こんなにも愛された
こんなにも大事な今日を
現実主義に壊されないように、
一斤染のハンカチで優しく包もう

一斤染

一斤染

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted