ラ・カルチェ!
手品とは、こういうものをいうのである。
これは私の手品のまじないである。
別に何てことはない。ただ水晶に映されるカードに意味をつけてデタラメを言うばかりである。
私はこれを食扶持に、今日まで生きてきた。
詐欺師と人は言うだろうか。しかし私にもこういう才能があっただけのことであって、別に他の誰かに同じ芸当がてきるとも思えない。
今日も集まってくる、ほらほら蟻さん寄っといで。見てって安いよーと私は笑いかけた。
娘さん、はにかんでよろしくお願いしますと座り込んだ。
私はしめしめと腕を鳴らしてから、「で、ご用向きは?」と聞いた。
「実は、父の会社の運営が上手くいっていなくて・・・」
なるほどそう来たか。
ほうほう、ではここは。
「して娘さん、あなたの近くに猫はおりませんか?何通いで猫がいつも来る?ではその猫を大切になさい。その猫は招き猫ですよ、金運を呼び幸運を呼びお父様の健康運ももたらしてくれるでしょう。いいですか、何事も、猫を、猫を大切になさいませ。さすればお家は繁盛なさるでしょう」
では、とカードを占って見せ、見事ダイヤのエースが水晶に移されたところで、「ラ・カルチェ」と叫んで相手に見せた。
「ほら御覧なさい!水晶も金運が出ると言っていますよ。すべてはあなたの、あなたの細やかな心遣いに寄るのです。お父様の肩を毎日もんであげて、いつもお疲れさまとお茶でも入れて差し上げなさい。それで万事うまくいくはずです。」
よいですか、猫を、猫を大切に。
そう言ったのはほんの一か月前のことである。
私がいつもの通り客を捌いていると、目の前にクラウンが止まり、中からシャララーと音が着きそうな美脚の夫人が下りてきて、私の前に座った。
「こんにちは、覚えていらして?」
すっかり様変わりしていたが、あの慎ましやかだった娘さんである。
「あれから、猫友達の御曹司と出会って、結婚して、なんやかんやで・・・お蔭で万事うまくいきましたわ」
ほほほ、と笑うその指にはさらりとダイヤが着けられている。
私はぽかんとしていたが、はっとして、「なんの、水晶の導きのままに、あなたに助言したまでですよ」とほかの客の手前、取り繕った。
すると娘さん、ハンカチを取り出し、つまんで見せて、ワン、ツー、スリーと唱え、パッと鳩を取り出して見せた。
「手品とは、こういうものを言うのですよ」
ごめんあそばせ、と私の頭上に鳩を残して、娘さんはまたクラウンに乗って走り去った。
以来、この鳩は私の幸運のシンボルである。
「いいですか、猫を、猫を大事にしなさい」
鳩を傍らに置きながら、私はあくまで、猫推しである。
ほらほらこの水晶をよーく見て・・・ラ・カルチェ!
ラ・カルチェ!
ワンツースリー!