プロポーズの後で
【登場人物】
日向夏 瑛(31)
大学病院の小児科医。
水無月 くるみ(27)
有名ホテルのコンシェルジュ。
愛しています────
瑛(あき)に出会って1年。何度もケンカはしてきた。けど、今日のようなケンカは初めてだった。
『だから!!どうしてお前はそうなんだ!いい加減分かれよ・・・』
「もーっ!そうやって怒鳴らないでよ!そんな様子じゃ話にならない。」
くるみは、瑛に冷たい視線を送りその場を後にした。
瑛はずっとくるみが見えなくなるまで姿を見ていた。
『はぁ・・・どうしてこうなるんだ。こんな事望んでない』
(仲直りしたい・・・こんな事で終わるのは嫌だ。俺らには・・・未来が・・・)
少なくとも瑛にはくるみとの未来が見えていた。
いつも前向きな瑛。落ち込むことなんてめったになかった。くるみとの日常が瑛の生活の一部で、生活の軸でもあった。
この日から数日間、くるみからは連絡はなかった。瑛も安易に連絡はできなかった。でも、考えなかったわけじゃない。連絡とれない日もずっとくるみの事を考えていた。
本当は連絡したい・・・
ちゃんと会って話したい・・・
会いたい・・・
キスしたい・・・
抱きしめたい・・・
謝りたい・・・
くふみとの日常を失いたくない・・・
くるみと・・・この先ずっと一緒に居たい・・・
そんな事が頭の中でグルグルとまわっていた。
瑛は『くるみなしでは生きていけない』と、そう自分の気持ちを確認した。
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ケンカしてから1週間、瑛はいてもたっても居られず、くるみの家へ行った。
ピンポーン・・・
(ん?誰だろう・・・モニターを見るとそこにはスーツを着た瑛の姿があった)
「はい・・・何の用?連絡もなしに・・・」
『突然申し訳ない。話がしたい、入れてくれ・・・』
瑛はいつもの自信満々な様子とは違い、少しやつれて元気のない姿だった。
くるみは何も言わず玄関のドアを開けた。ドア越しに顔を覗かせ、こう言った。
「どうせ入れなくても、そこでずっと待ってるつもりでしょ?・・・そんな事されるの困るから・・・どうぞ、入って!」
『ありがとう。おじゃまします』
瑛はリビングへ通された。
「待ってて、寒かったでしょ?ココアいれるね」
くるみは2人でいつも飲んでいたココアをいれた。
「はい。どうぞ」
ココアを瑛に渡すと、自分も瑛と向かい合わせに座った。
ふたりして1口飲み、瑛は重い口を開いた。
『単刀直入に言う。この前は・・・ごめん。つい感情的になって怒鳴ってしまって。この1週間、俺はお前のことばかり考えてた。そして、気づいたんだ。俺はお前なしじゃ、生きていけないって事に。』
「ふぅ〜ん。そうなんだ。・・・私だって、ずっと瑛の事考えてたよ!・・・考えないわけないじゃない。ケンカしたって・・・好きなんだもん、瑛の事」
くるみは泣きながらそう言った。
『気持ちは一緒だったんだな。それが分かってホッとした。』
「ねぇ、瑛。この1週間でなわか雰囲気変わったよね?・・・痩せた?元気もない・・・」
『そりゃあそうだろ、気が気じゃなかった。このまま関係が終わりになったらどうしようとか・・・色々考えて・・・食事もなんだか不味くて・・・恥ずかしい話、とても落ち込んでいた』
「そうだったんだ。悩ませたりここまでなるとは思ってなくて・・・」
『もういいんだ。今、こうして分かり合えた。もうそれで十分だ。そして、この1週間の愛の埋め合わせ・・・今日してもいいかな。連れて行きたいところがある。』
瑛はそう言うと、椅子から立ち上がりくるみのそばへ行き、手を取り椅子から立たせた。
くるみは久しぶりの瑛のエスコートにドキッとした。
『お前が一緒じゃないと・・・意味がない。一緒に来てくれるか?』
くるみを見つめながらそう言った。
「・・・はい。今日はどこまでも瑛について行くっ!連れてって私を・・・一緒行きたいよー!」
くるみはとても嬉しくて、瑛をギュッと抱きしめた。
「ねぇ、瑛・・・私もあなたなしじゃ、生きていけない。だから・・・この先のあなたの時間を・・・」
『おい、待て・・・言わなくていい。ごめん。そらはこのあと俺から言わせて欲しい。今は・・・頼むから言うな』
と、くるみの言葉を遮るように瑛は言った。
「わかった、ごめんね」
くるみは、ニコッと微笑んで、瑛の手を握った。
「ほら、行こう?」
『ん。目的地まで少しドライブだ。』
ふたりは部屋をでて、停めてあった瑛の車へ向かった。
瑛は助手席のドアを開けて・・・
『はい、どうぞ?』
「ありがとう」
くるみは瑛のエスコートで助手席へ座った。
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「ねぇ、東京タワーキレイだよ〜」
くるみは瑛に話しかけた。
『・・・』
瑛は聞こえていたが返事せず運転に集中していた。
「ねぇ、瑛ーっ!」
『ったく、何だよ!運転してるんだよ、すこし黙ってろ!』
「・・・ごめん・・・・・・そんなに怒らなくても。」
『あ・・・・・・悪かった、ごめん。』
「いいよ、別に。なんか慣れたって言うか・・・」
『こんな事、慣れさせてしまって・・・ごめんな』
「何言ってるの〜!瑛の性格でしょ、仕方ないじゃない!瑛の全てを受け入れてくって決めたの。何でも・・・受け入れて理解するって決めたの」
『そうか、ありがとう。』
「だ・か・ら!瑛も同じように努力してね〜」
そう言うとくるみは瑛の頬をつねった。
『いでーっ!この!・・・何するんだ!』
「これくらいいいじゃない?今までの私に対する酷い仕打ちを思えば・・・」
『なっ・・・覚えてるのかよ。』
「忘れるわけないじゃない!」
『だからって・・・脅しに使うな、アホ』
「私、バカでアホで力も弱いし・・・?脅しネタ掴んだから使わなくちゃね!」
『はぁ・・・そんな事言えないくらい俺の愛で埋め尽くしてやる、覚悟しとけ』
瑛は、フッと鼻で笑うように、自信満々に言った。
そうやって話しているうちに、連れていきたかった目的地に着いた。
『おい、着いたぞ。この公園からの夜景がとてもキレイなんだよ。この前ケンカした夜、夜風に当たりたくてたまたまここに来た。その時にここからの夜景を見て、お前を連れていきたいって思ったんだ。お前とまたこの夜景を見たいって・・・思ったんだよ。』
「どんなキレイな夜景なのかな〜楽しみ!」
ふたりは車から降りて、夜景がよく見えるスポットまで歩いた。
夜景スポットに着くと、瑛は両手でくるみの目を覆った。
『ごめんね。このステキな夜景、もっと楽しんで欲しいから。俺の合図でこの手どけるね。』
瑛は深く深呼吸して、もう一度口を開いた。
『この夜景を、プロポーズの指輪の代わりとして、お前に贈る。』
くるみはそれを言われ、ドキドキした。
そして、瑛は両手をどけた。
くるみの目に飛び込んで来たのは、今までに見たことのない夜景だった。
「とても、、、キレイ。こんな夜景初めてだよ!」
『気に入ってくれて嬉しいよ。もう、ケンカ一つで辛い思いはさせたくない。今この時間からこの先の時間もずっと、お前と一緒居たい。だから・・・俺と結婚してくれ!』
くるみは夜景と瑛のプロポーズに嬉しくて涙が溢れた。
「・・・もちろん。私だって同じ気持ちだよ。ありがとう、瑛」
くるみは泣きながら瑛を抱きしめた。
『もう二度と離さないぞ。今からお前は俺のものだ。』
瑛は、くるみの唇に自分の唇を重ね合わせ、優しくキスをした。
「分かってる・・・そんな事言わなくても、もうどこにも行ったりしないから。ずっと瑛のそば居るよ」
『まぁ、離れられるわけないか。俺なしじゃ生きていけないんだもんな』
「・・・そうだよ。そうさせたのは瑛だよ。ねぇ、指輪・・・は?・・・欲しいなぁ」
『それ、言われると思ったよ。明日空いてるか?一緒選びたい。一緒に買いに行こう』
「ないのかと思った〜うん、一緒に行く!買いに行く!」
『よし、じゃあこの後・・・俺の家に・・・来ないか?どうせ明日も一緒なんだ、今夜からずっと一緒居たっていいだろう?』
「そうだね、このまま"また明日ね〜"って別れるのは寂しい・・・」
『よし、行くか!今夜は覚悟しておけよ。今日の俺は最高に気持ちが高ぶってる。理性突破らってお前を愛して俺の愛で埋め尽くしてやるって決めた』
そう言うと、くるみをお姫様抱っこして車へ向かった。
くるみはその行動になんだか恥ずかしくて、瑛の胸に顔を埋めた。
〜end〜
プロポーズの後で