かすみ姫

 昔々、山に囲まれた小さな村に、お爺さんとお婆さんが暮らしていました。
 お爺さんは毎日のように山へ山菜を取りに行っていたので、山の事は何でも知り尽くしていました。
 ある日の事、お爺さんが山を登っている途中に霧が出始め、やがて、ほんの数歩先までしか見通せなくなるほどに霧が濃くなってしまいました。
「こりゃまいった……道が分からん」
 流石のお爺さんもここまで濃い霧は経験がありません。やみくもに歩くと道に迷ってしまうので、お爺さんは霧が晴れるまでその場にとどまる事にしました。しかし、霧はなかなか晴れません。
 お爺さんが地面に座り込み、のんびりうたた寝をしながら霧が晴れるのを待っていると、どこからともなく声が聞こえてきました。
「――――おぎゃぁ――――おぎゃぁ」
 お爺さんはハッとして、周囲に目を向けました。相変わらず何も見えませんが、声は確かに聞こえてきます。どうやら赤ん坊の声のようです。どうしてこんな山奥で赤ん坊の声が聞こえてくるんだろう、しかもよりによってこんなに濃い霧が出ている時に……。お爺さんは薄気味悪く思いましたが、もしも赤ん坊がこの近くに捨てられているのだとしたら大変です。お爺さんは勇気を振り絞って声の主を探す事にしました。
 聞こえてくる声を頼りに濃密な霧の中を歩き回ります。歩くほどに声が大きくなっていくので、どうやら声の主のところに近づけてはいるようなのですが……
「おかしいのう。このあたりのはずなんじゃが」
「おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!」
 声はかなり大きくなっています。恐らく、すぐ近くに赤ん坊がいるはず。ですが、お爺さんがどれだけ探しても、赤ん坊はどこにもいません。赤ん坊が泣く声だけが聞こえてきます。
「おーい!! どこにいるんじゃあ!!」
 お爺さんは気味の悪さを押し殺して、大声で赤ん坊を呼んでみました。
 次の瞬間、お爺さんは驚きで思わず腰を抜かしてしまいました。辺りを覆っていた濃密な霧が一気に消え、お爺さんがいつも山菜狩りに勤しんでいる山の風景に戻ったのです。
 呆然としていたお爺さんは、ふとある事に気づき、目を丸くしました。腰を抜かしたお爺さんの足元で、可愛らしい赤ん坊が目に涙をいっぱいに溜めて、こちらをじっと見ていたからです。
 とてつもなく濃い霧の中で赤ん坊の声を聴き、声の元に行くと、たちどころに霧は消え、代わりにこの赤ん坊が現れた……。お爺さんは混乱する頭を整理するため、ぶつぶつと呟きました。
「この子は霧の化身か何かじゃろうか……?」
 お爺さんは酷く気味の悪いものを感じましたが、赤ん坊の顔を見るとどうしても放ってはおけなくなりました。お爺さんは赤ん坊を抱きかかえ、口に空気をいっぱいに溜めておどけて見せます。すると、赤ん坊はきゃっきゃと笑いました。その顔を見て、お爺さんの顔も思わず綻びました。
「この子は女の子じゃろうか……。さて、どうしたもんかのう。うちは貧乏じゃが、何とかなるかのう……」

 お爺さんは赤ん坊を家に連れて帰り、畑仕事をしていたお婆さんに事情を説明しました。
 とてつもなく濃い霧の中で泣いていた事、霧が霧散するのと同時に赤ん坊が現れた事から、二人は赤ん坊に『かすみ』という名前を付け、我が子のように大切に大切に育てました。
 他の村人に頼んでかすみを養ってもらう事も考えましたが、どの村人も貧乏で、赤ん坊を養うことなど出来ません。お爺さんの村は山奥にあるため、人の往来が少なく、村自体が貧乏だったのです。お爺さんとお婆さんも他の村人と同じく貧乏でしたが、二人は遥か昔に子供を亡くしており、かすみを見捨てる事がどうしても出来なかったのです。
 こうしてお爺さんとお婆さんとかすみの三人の生活が初まりました。ですが、かすみを育てるのは普通の赤ん坊を育てるよりも遥かに大変でした。お爺さんが言った通り、かすみは紛れもなく霧の化身だったのです。

 ある日、お爺さんはいつものように山菜狩りに出かけ、お婆さんはかすみを寝かせた後、畑仕事に勤しんでいました。畑仕事が一段落し、軒下に置いてある籠へと目を向けました。その籠の中でかすみが眠っているのです。ところが、籠の中にかすみはいませんでした。代わりに猛烈な濃霧が家を取り囲むように立ち込め、その霧の中心辺りからかすみの泣きじゃくる声が聞こえてきました。
 この声はお腹が空いている時の声だ、とお婆さんはすぐに気づきました。
「かすみー! 赤ちゃんに戻りなさい! ご飯ならあるよー!」
 お婆さんは大声で叫びましたが、かすみは赤ちゃんには戻らず、霧になったまま、わんわんと泣き叫びます。
「霧から赤ちゃんに戻りなさいー! 霧のままだったらご飯を食べさせてあげられないよぉ!」
 どうやらかすみは自分の意思で霧になったり人間に戻ったり出来ないようです。その後もしばらくの間、かすみは霧のまま、お腹が空いたと泣きじゃくりました。ようやく赤ん坊に戻ったのは陽が暮れた頃で、かすみはやっとありつけたご飯を夢中で頬張りました。
「そんな事があったのか。うーむ……、やっぱり普通の赤ん坊ではなかったんだなぁ」
「ご飯を用意しているのに食べさせてあげられませんでした。生きた心地がしませんでしたよ……」
 お婆さんは溜息交じりに言ってから、すやすやと幸せそうに眠るかすみに目を向け、くすりと笑いました。

 かすみが歩けるようになってからいくらか経ったある日の事です。畑仕事をしているお婆さんの傍で、かすみは地面に大きなウサギの絵を描いて遊んでいました。かすみは絵を描くのが大好きでした。ウサギの絵は特に得意で、お婆さんが畑仕事をしている傍ら、数え切れないほどの絵を地面に描いてきました。ただし、虫の絵だけは絶対に描きません。かすみは虫が大嫌いだったからです。
 お婆さんが畑仕事をする手を休め、ふとかすみに目をやると、かすみがいません。かすみはまた霧になっていました。この頃になるとお婆さんも慣れてきており、かすみが霧になっただけでは特に動じる事もありませんでした。
 しかし、次の瞬間、お婆さんの顔が真っ青になりました。突然、強い風が吹いて、霧になったかすみが飛ばされて行ってしまったからです。かすみが歩けない頃は、家の傍でずっと遊んでいたため、風が吹いても家に守られ、かすみがどこかへ飛んでいくこともありませんでした。歩けるようになり、家から離れた場所で遊んでいたため、かすみは飛ばされたのです。
「かすみー!! かすみー!!」
 強い風に乗ってどんどん流されていくかすみを必死に追いかけながら、お婆さんは叫びました。
「ばあばー!! ばあばー!!」
 かすみも泣きじゃくりながらお婆さんに助けを求めます。どうやら風に逆らって飛ぶことは出来ないようです。霧になってしまったかすみは、風の流れに任せて漂うだけです。
 風はおさまらず、かすみはどんどん飛ばされて行き、お婆さんはとうとうかすみを見失ってしまいました。
「村の者に頼んで、みんなでかすみを探すぞ!」
 山菜狩りから帰ってきたお爺さんはそう言いました。お婆さんは青くなったままの顔で頷きます。二人が村の者に事情を説明すると、親切な村人達は皆、快くかすみ探しに協力してくれました。
「小さな女の子か、猛烈に濃い霧を見つけたらすぐにわしに教えてくれ!」
 村中総出で探した結果、夕暮れ頃にかすみは見つかりました。かすみは人間の姿で、山と村の間の茂みに蹲り、ぐすぐすと泣いていました。かすみを見つけた後、お婆さんは涙を流しながら力いっぱいかすみを抱きしめました。
 それから、お爺さんとお婆さんはかすみが霧になってしまった時に備え、大きな箱を用意しておくことにしました。最近のかすみは霧になりそうな時は、いつも決まって大声で泣きます。風に流された事がつらい思い出になっているのでしょう。かすみが大声で泣くと、お爺さんとお婆さんは大急ぎで大きな箱の中にかすみを入れてやります。箱の中に入れてやれば、かすみが霧になっても風に流されることはないからです。風に流される恐怖で泣きじゃくっていたかすみも、箱の中に入れられると安心するのか、ぴたりと泣き止みます。
 ですが、大きな箱はやがて用済みになりました。かすみは成長し、霧の状態で飛び回る力を身に付けたからです。風が吹いても、風に逆らう方向に飛べば、風に流されてしまう事はありません。
 かすみは、霧になった時は村や山の色んな所に飛んでいくようになりました。人間の姿では行けないような所でも、霧なら簡単に行けます。
「あまり遠くには飛んで行くな。山の中で人間に戻ったら帰って来れなくなるぞ」
 お爺さんが厳しい顔でそう言うと、かすみは素直に頷きました。
 霧になった時に自由に飛び回る事が出来るようになりましたが、霧になりたい時に霧になったり、人間に戻りたい時に人間に戻ったりすることは出来ません。かすみはいつも突然、霧になったり、人間になったりするのです。
 霧の姿で山奥に遊びに行っている時、もしも突然人間に戻ってしまったら大変な事になるでしょう。かすみはお爺さんの言いつけを素直に守り、霧になった時も村の外には出て行かなくなりました。
 この頃、お爺さんもお婆さんもかすみ本人も気づいていない事がありました。それは、霧になる頻度が少しずつ高くなっている事です。お爺さん達が気づかないほど少しずつ、人間でいる時間が減り、霧になる時間が増えていきました。お爺さんやお婆さん、そしてかすみ本人がこの事に気づいたのは、随分後になってからでした。


 月日が経ち、かすみはすくすくと成長し、美しい娘になりました。
 消えてしまいそうなほどの透き通った肌、見ていて心配になるような細くしなやかな体、そして、内気で大人しい性格と小さな声は、文字通り『かすみ』のような印象を見る者に与えました。存在感がおぼろげで、今にも消えてしまいそうな娘でしたが、かすみの場合、消えてしまいそうという言葉は比喩ではなく、本当に消えてしまうのだから驚きです。
「かすみ、ちゃんとご飯を食べないといかんぞ」
「はい、お爺さん」
 お爺さんとお婆さんは自分が食べる飯をかすみに分け与えました。お爺さんとお婆さんはかすみの細い体が心配だったのです。かすみはとても小食でしたが、二人の気持ちを無下にすることなく、与えられた食事は全て食べ切りました。途中でお腹がいっぱいになっても、米粒一粒、汁一滴も残さず、時間をかけてゆっくり食べ切るのです。
 しかし、かすみは決して太る事はありませんでした。それどころか、年を追うごとに少しずつ痩せていき、肌はますます白くなっていきました。

 体が細く体力の少ないかすみは、お爺さんの山菜狩りやお婆さんの畑仕事を手伝う事は殆どできませんでした。ですが、かすみはお爺さんやお婆さんとはまた別の形で働いてはいました。小さい頃から大好きだった絵を描き、それを売る事で、お金を稼いでいたのです。
 大人になった今、かすみの描く絵は見る者を驚かせるほどに上手くなっていました。最近では、ウサギや鳥、栗鼠(リス)などの動物の絵に加え、旅人から都の話を聞き、都にいるであろう御姫様の絵を想像して描いたりもしました。
 お婆さんの畑仕事を手伝う傍ら、村に立ち寄る行商人から紙を買い、それに絵を描きました。山菜を売りに都へと出かけるお爺さんに着いていき、絵を売りに出すと、飛ぶように売れる……とまではいきませんでしたが、家計を助けるのに十分なほどの稼ぎになりました。
 村でもかすみの描く絵は評判でしたが、かすみの絵を買ってくれるのは、かすみの絵を特に気に入ってくれている一人の若者だけです。他の村人は誰も絵を買ってくれません。かすみはそのことを少しも残念には思わず、、当たり前だと納得していました。かすみ達が住む村は貧しく、絵を買う余裕がある家は一軒もないのです。むしろ、一人でも買ってくれる人がいる事に、かすみは大変な喜びを感じていました。

 しかし、かすみは最近、絵の事で悩んでいる事がありました。霧になってしまうと筆が持てず、絵を描けないのです。最近、かすみはかなり頻繁に霧へと変身するようになっていました。絵を描いている途中で霧になってしまう事も多々あり、かすみは絵を描く時間が十分にとれない自分の体質を嘆きました。もっと人間でいられたら、もっともっと絵の練習が出来るし、お金を沢山稼いでお爺さんとお婆さんを助けることも出来るのです。
 かすみが子供の頃より頻繁に霧に変身するようになっている事に、お爺さんもお爺さんも気づいていましたが、それほど深刻に考えてはいませんでした。かすみが霧になるのは当たり前の出来事で、もう慣れてしまっていたからです。

 ある日、山菜狩りから帰ってきたお爺さんは、家の裏でうずくまってしくしくと泣いているかすみを見つけました。どうしたんだと声をかけると、かすみは涙ながらに話し始めました。
「私の体は段々と細く、色も薄くなってきています。霧になる時間も目に見えて増えてきました。もうすぐしたら、私は完全な霧となり、消えてしまうでしょう。そうなると、もう絵は描けなくなるし、お爺さんとお婆さんの事も忘れてしまいます……。私はそれが悲しくて泣いていたのです……」
 お爺さんは涙するかすみの背中をさすってやりながら、どうすればお前が霧になるのを止められるだろうか、と尋ねました。かすみはしばらく黙って考え込みます。
「私が十歳になった頃、お婆さんがありあわせの布で綺麗な着物を編んでくれました。その着物を着ている間だけは、霧になる間隔が減っていたように思います。でも、この前、引き出しからその着物を取り出し、着てみたのですが……、霧になる間隔は何も変わりませんでしたが……」
 かすみが十歳の頃にお婆さんが編んだ着物は、ありあわせのボロ布を組み合わせた貧相な物でしたが、かすみの普段着よりはいくらか綺麗で、かすみは大変喜んでいました。
「お婆さんが編んでくれた着物はとても鮮やかな色をしていました……。あの鮮やかな色が、私の……細くて薄い体……すぐに霧になってしまうような体に色を付けてくれていたのでしょう……」
 お爺さんはなるほど、と頷きました。
「婆さんが編んでくれた着物よりも、もっと鮮やかで綺麗な色の着物を着れば……、もしかしたらお前は霧にならずに済むかもしれんな……」
「でも、着物はとても高価と聞きます……」
 かすみは涙ながらに首を横に振りました。
「心配するな。確かにうちは貧乏で高価な着物は買えんが……、何とかしよう」
 お爺さんはかすみの背中を軽く叩き、そう言いました。

 お爺さんとお婆さんとかすみの三人は村中にお願いし、出来る限り綺麗な着物を貸して貰いました。かすみはそれらの着物を順番に着ましたが、かすみが霧になる事を止められはしませんでした。
「かすみちゃん、すまんなぁ……。こんな貧しい村じゃあ、ろくな着物はないからのう……」
 かすみ達に協力してくれた村長が申し訳なさそうに言いました。村長の言う通り、集めてきた着物は、今、かすみが来ている着物よりは綺麗でしたが、それでも安物の着物に過ぎないものでした。
「都に出て錦の着物を買うしかないのう……」
「しかし、この前行商人から聞いたが、高い着物は本当に高いらしいぞ。村から集めた着物よりいいものとなると……、値段が跳ね上がるらしい……。これくらいに」
 村長はそう言って、地面に着物の値段を書きました。そのあまりの高さに、かすみ達はぎょっとしました。
「お爺さん、お婆さん……、私、あきらめます……。こんなお金を用意するなんて、どうやったって無理です」
 かすみの言葉にお爺さんは、それでも買うんじゃ、と力強く言い返しました。

 お爺さんとお婆さんはかすみのために、これまで以上に一生懸命働きました。かすみも人間でいる間はひたすら絵を描いてお金を稼ぎました。三人は必死になって働きましたが、かすみが霧になってしまう時間は急速に増えていき、とうとう人間でいる時間よりも霧でいる時間の方が長くなってしまいました。
「駄目だ……。間に合わん」
 都で着物を買うために必要なお金はまだ一割も集まっていません。親切な村人がかすみにお金を貸してくれたりしましたが、全く足りません。以前から村で唯一かすみの絵を買ってくれている若者も、いつも以上に沢山の絵を買ってくれましたが、全くもって足りないのです。着物を買うお金が集まるよりも、かすみが完全な霧になって消えてしまう方が早いのは、火を見るよりも明らかでした。
 お爺さんとお婆さんとかすみはどうしようもない事を悟り、家の中で三人で寄り集まり、泣き崩れました。

 その時です。家の戸がサッと開きました。かすみ達三人がハッと顔を上げると、そこには村でただ一人、かすみの絵を買ってくれた若者が、大きな袋を持って立っていました。
「お金ならここにあります」
 その袋の中には、目も眩むような大金が入っていました。これを貰ってください、と若者は言いました。
「あ、ありがとうございます。ですが、そんな大金、私には一生かかっても返せるとは思えません。頂くわけにはいきません……」
 かすみは申し訳なさそうに言いました。
「いいえ。貴方なら返せます。このお金は、今までに僕が買ったかすみさんの絵を売って手に入れたお金なんです」
 かすみは目を丸くしました。
「私の絵がそんなに大金で売れたんですか……?」
「私が買った貴方の絵を、まとめて一冊の本にしました。この前、都に出かけた時に、その本を往来で宣伝したのです。私はこんなに可愛らしく生き生きとした動物の絵を見た事がありません。都で多くの人に見て貰えば、誰かがきっと高値で買ってくれると信じていたのです。案の定、貴方の絵は絵に詳しい豪商の旦那の目に留まり、これだけの値がついたのです」
 若者は呆然としているかすみにお金を押し付けました。
「受け取って下さい。貴方の絵には、これだけの金を稼ぐ魅力があるのです。この金で着物を買って、絵の才能をもっともっと磨いて下さい」
 若者はそう言うと、踵を返してかすみ達の元から去って行きました。

 紺色に染められ、つやつやと美しい光沢のある絹の生地。鮮やかな金色の花の刺繍が着物全体に散りばめられ、肌触りはすべすべとしていて素晴らしい心地良さ。かすみは見る者全てに溜息をつかせるような美しい羽織をまとい、お爺さんとお婆さんに向かって小さく微笑みました。
 絹織物の高価な羽織をまとったかすみは、もう二度と勝手に霧になる事はありませんでした。それどころか、かすみは自分の意思で霧になったり人間になったりする技を身に付ける事ができたのです。やり方は簡単です。霧になりたい時は羽織を脱ぎ、人間に戻りたい時は霧の姿で羽織に触れれば良いのです。羽織の鮮やかさが、かすみに色を与え、霧から人間へと戻してくれます。もう二度と、勝手に霧になってしまう事はありません。
 かすみはその技を使って、自分の好きな時に霧になり、山に行って様々な動物を見たり、都へ行って様々なものを見ました。色々なものを見て、それを絵にする事で、かすみは絵の才能をますます開花させていきました。

 数年後、かすみは着物を買うお金をくれた若者と結ばれました。若者には商才があり、かすみの絵を高値で売りました。そのお蔭でかすみ達の家は栄え、貧しかった村自体もかすみの絵の影響で活気に満ち、栄えていきました。『絵描きのかすみ姫』として名前が売れたかすみは、若者とお爺さんとお婆さんの四人で、末永く幸せに暮らしました。

かすみ姫

かすみ姫

日本昔話風のお話に挑戦したくて書いてみました。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-09

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