今昔物語からの創作 その1 『月(つき)に行(い)ったウサギ』 (今昔物語 巻第5第13話より)

斎藤星孤

芥川龍之介が今昔物語から「鼻」や「芋粥」を創作したように、私も同物語から童話を創作してみました。

今昔物語からの創作 その1 『月(つき)に行(い)ったウサギ』 (今昔物語 巻第5第13話より)

 今昔物語からの創作 その1 『月(つき)に行(い)ったウサギ』 (今昔物語 巻第5第13話より)

  『月(つき)に行(い)ったウサギ(うさぎ)』ってお話(はなし)だよ。
 昔(むかし)昔(むかし)ね、山奥(やまおく)に広(ひろ)い広い林(はやし)があったんだって。
 その林の真(ま)ん中(なか)には清水(しみず)の湧(わ)き出(で)る小(ちい)さな池(いけ)があってね、  そこからはきれいなきれいな水(みず)が湧き出ていたよ。それが小川(おがわ)のようになってサラサラサラサラ流(なが)れるんだ。
 広い林の中を流れる小さな川。それは林の動物(どうぶつ)たちののどをうるおす大切(たいせつ)な水を運(はこ)んでくれる流れなんだね。
 そんな林の中にね、とっても気(き)の優(やさ)しいウサギさんがいたんだって、そのウサギさんはね、優しいだけじゃなく知恵(ちえ)もあっておりこうだから、森(もり)の動物たちはいろんなわからないことや不思議(ふしぎ)なことを聞(き)きに行くんだ。
 ウサギさんはね、何(なん)でも答(こた)えてくれるよ。知(し)らない事(こと)なんかないみたいなんだけど、でもそれで偉(えら)そうになんかしないんだよね。たまに知らないことがあったりすると、とっても恥(は)ずかしそうにして、だんだん悲(かな)しくなって、それで眼(め)を真(ま)っ赤(か)にして泣(な)き出(だ)しちゃったりするんだ。
 だからみんなは、分(わ)からないことあったらウサギさんに聞きに行くんだけど、決(けっ)して困(こま)らせたりはしないようにしようねって約束(やくそく)したんだよ。みんなも優しいね。
 あるときね、その林の中にみすぼらしいお坊(ぼう)さんが迷(まよ)い込(こ)んだんだよね。 衣(ころも)はぼろぼろ、わらじもすり減(へ)ってほとんど裸足(はだし)だよ。 もう何日(なんにち)も何日も何(なん)にも食(た)べていないらしくって今(いま)にも倒(たお)れそうにトボトボトボトボって歩(ある)くんだ。
 そんなお坊さんをね、リスさんが木(き)の上(うえ)から見(み)つけたよ。  リスさんはじっと見て、かわいそうって思(おも)ったから、すぐ自分(じぶん)の家(いえ)に行ってドングリなんかの木の実(み)をたくさん持(も)ってきてあげたんだけど、お坊さん食べないんだよね。
 お坊さん人間(にんげん)だから、ドングリなどはそのままじゃ食べられないよね、でもリスさんそういうこと知らないから、なぜ食べないんだろうって首(くび)をかしげたよ。
 そしたらシカさんがやってきたから、  リスさんがシカさんに話(はな)したら、じゃ僕(ぼく)がおいしい草(くさ)や木(こ)の葉(は)を持ってきてあげるよって言って、たくさん持ってきてくれた。
 でもやっぱりお坊さんは食べないんだよね。ニコニコしてありがとうありがとうってお礼(れい)を言うだけで、食べないんだよ。
 そこにキツツキさんが飛(と)んできたよ。  何(なに)してんのって言うから、リスさんがわけを話すとね、じゃ私(わたし)がおいしい虫(むし)をもってきてあげるって言って毛虫(けむし)やらいも虫やらをたくさん持ってきてくれた。
 でもやっぱりお坊さん食べないんだよ。そしてとうとうがっくりひざを突(つ)いて、もう起(お)き上(あ)がれないくらいになった。
みんな心配(しんぱい)したんだけど、どうしたらいいかわからない。
 そうだウサギさんに相談しに行こう、って、そのときキツツキさんが言ったよ。あ、そうだそうだってみんなもうなづいてね、ウサギさんを呼(よ)びに行ったんだ。お坊さんはもう動(うご)けないからウサギさんに来(き)てもらうことにしたんだよね。
 急(いそ)いでやってきたウサギさんは、じっとお坊さんを見ていたよ、どうしたらよいか考(かんが)えていたみたいだった。だけどなかなか良(よ)い考えが浮(う)かばないらしくって、首(くび)を傾(かし)げては考え傾げては考えしていた。みんなは心配(しんぱい)そうにウサギさんを見たりお坊さんを見たりしていた。
 やがてね、ウサギさんの眼が赤くなって一しずくの涙(なみだ)がながれたあと、ウサギさんはフッとため息(いき)をつくと、ニッコリしてリスさんやシカさんやキツツキさんに枯(か)れ木(き)を集(あつ)めてきてくれるように頼(たの)んだんだね。
 みんなは林の中を走(はし)り回(まわ)っていっぱい枯れ木を集めてきた。
 ウサギさんは枯れ木に火(ひ)をおこすとみんなに言ったよ。さあ私がこの中に飛(と)び込(こ)みますから、焼(や)け死(し)んだら私の身体(からだ)をお坊さんに食べさせてあげてね、って。そしてあっという間(ま)に炎(ほのお)の中に踊(おど)りこんで焼け死んでしまった。
 とそのときね、倒(たお)れこんでいたお坊さんがいつの間(ま)にかすっくりと立(た)っていてね、 火をフッと吹(ふ)いて消(け)すと、静(しず)かにウサギさんの身体をすくいあげて抱(だ)いたよ。お坊さんの後(うし)ろには後光(ごこう)がさしていて仏(ほとけ)様(さま)の姿(すがた)になっていた。そしてその腕(うで)の中で、ウサギさんは白(しろ)く輝(かがや)いていたよ。
 仏様はね、ウサギさんをそのまま抱いて天(てん)に昇(のぼ)り、月(つき)のゆりかごの中(なか)にそっと寝(ね)かせてあげたんだ。
 今(いま)でもウサギさんは月のゆりかごの中でみんなに優しい光(ひかり)を投(な)げかけてくれているね。  
 そして時々(ときどき)、幸(しあわ)せのお餅(もち)をついてみんなに降(ふ)り注(そそ)いでくれているんだよ。冬(ふゆ)になると空(そら)から白(しろ)い雪(ゆき)が降ってくるだろう。  あれはね、幸せのお餅が砕(くだ)けてから、やわらかくなって降ってくるんだ。
               じゃ またね

今昔物語からの創作 その1 『月(つき)に行(い)ったウサギ』 (今昔物語 巻第5第13話より)

今昔物語からの創作童話 その1の終わりです。

今昔物語からの創作 その1 『月(つき)に行(い)ったウサギ』 (今昔物語 巻第5第13話より)

日本の古典『今昔物語』からの創作童話です。 毎回一話完結です。 芥川龍之介が同物語から「鼻」や「芋粥」という作品を生みだしたように、私も同物語から童話を創作してみました。

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