ライオ・バディヌリー 

ライオ・バディヌリー 

人が宇宙に上がり長い年月が経った。地球は最早辺境の地と化し、宇宙のあちこちで独立政府が成立した。
これはそんな宇宙の片隅に生きる一人の男の物語

スペース・シャンソン

スペース・シャンソン

深夜―ユーバーシュヴェンメン宙域フリュスターン星―
 廃墟、廃墟、廃墟。どこを見ても廃墟だらけでまともな建物などほとんど無い。
それもそのはず、このフリュスターン星ではつい数日前まで大きな戦いがあったのだから。
「仕事、終わったー!」
 まるで受験に受かったように叫び爆走するこの男、名をライオという。一応この物語の主人公の冒険家だ。
「とりあえず寝て、近くのでっかい都市で遊び倒すぞー!」
 彼の気が狂った訳で無いことを記しておく必要があるだろう。彼は、この星で先程まで依頼をこなしていたのだ。内乱の鎮圧、及び首謀者の拘束だ。凡そ冒険家なぞに任せる仕事ではないが、この男、並の冒険家とはわけが違う。
「とりあえず夕方までゆっくりして、近くのでっかい都市でパフパフするぞー!」
 …違う、違うのだ!彼は本当に並の冒険家とは違うのだ。だがそれは決して性に関することでは無い。開始二言目がこれなのは、今が仕事終わりだからだ。
「まあとにかく今は宿へ帰って…」
 言い終える前にライオは言葉を失う。何故か、理由など簡単だ。今日の自分の寝床、この街で現()数少ない建物である宿の方面で火事が起こった。その周辺に他に建物は無い。確実に宿での事だ。
 言ってしまえば、それだけの事だ。この宙域ではよくあること、あの宿にはライオ以外にも、冒険家がいたのだから。そして、あの突然の炎では、宿の主や、この時間眠っているであろう一般の宿泊客は、もちろん助からない。腕利きの冒険家であり、共に仕事をした事もある、あの宙族無双のダッチでさえも、先日の傷の状態では逃げ切れてはいまい。それもまた、よくあることだ。
 冒険家とは、かくも因果な商売である。恐怖、怨嗟、禍根、虚無。この仕事を続ける限り、付いて回るもの。創作の世界では時にスタイリッシュに、時に面白おかしく宙を駆ける存在、しかし現実はそれ程優しくなどない。倒した惡には恨まれて、助けたはずの人間には恐れられる。残党による報復行為、報酬の踏み倒し、それらが重なり、実力ある者が死ぬ。そんなことは日常茶飯事だ。今日の一件もまた、その内の一つでしかない。
 こんな時、ライオは決まって煙草を喫う。今は亡き先達が喫んでいた、安い葉巻。煙草の銘柄などよくわからない自分でも、もっとましなものがあると分かる物。
 ただひたすらに苦いだけで、そこに煙草の旨みなど無い。まるで自分達の仕事そのもののような一服だ。そしてライオは在るはずも無い神に祈るのだ。
「どうか哀れなボンクラ共の魂に、亡後の救いがあらんことを」
 紫煙が、彼らの魂を宙に還すことを願って。

アカペラ編第1話

―???研究所―
暗い、黒い、研究所に、おどろおどろしい音が響き渡る。
「漸く、ようやく完成した。長い月日を懸け、私は成したのだ!」
 一人の老人の声が、響く。
薄暗い研究所の地下室で、陰気に、不気味に、孤独な男の声が木霊する。
まるで幼い子どものように、且つこの世の終わりを伝えるように、響く、響く。
「私は、これを使い貴様らを滅ぼす。
            待っていろよ、ユーバーシュヴェンメンの狸よ!」
 狂った老人の、寂しくも決断的な侵攻が今、始まろうとしていた。





―宙港依頼斡旋所―
「なあ丸メガネ、仕事ねぇかな」

「ええありますとも、この宙域には面倒事が絶えませんから」
 お決まりのやり取りが、画面越しに交わされる。
それが若き冒険家ライオと、その担当者たる丸メガネの男の普段のの朝だった。
冒険者は、一般的にこの宙港の依頼斡旋所で、専任の担当者と連絡を取り依頼を斡旋される。
 しかし、その担当者を冒険家が選ぶことは許されず、冒険家リストに登録する際、
ランダムで決められる。だからという訳ではないが、ライオは今、目の前に映る顔が好きではなかった。この男、職務に真面目でもない上に面白味もない。
 つまらない奴だ、と出会った当初から思っていた。
しかしだからと言って担当変更することも出来ないのでやりにくく、ライオと彼の会話は、いつもこの切り出しに始まる。そして
「では今回のお仕事も、よき成果がありますように」

「そちらも健勝であることを、私が信ずる神に祈ります」
 このいつもの流れで、終わり。本当に、つまらないものだ。
ライオは何度か定型を壊し、個人として
の話をしようと試みたのだが、相手は一向に乗ってこなかったのである。
 
もう限界だ。それが、ライオの率直な気持だ。当たり前だろう、考えてみて欲しい。
ライオと斡旋者は、もう5年ほどの付き合いになるが、定型以外の会話をしたことなど両手の指で足りる程度、さらに補足すれば、それすらも事務的な内容であった。
 
冒険家を因果な商売と断言していながらも、まだ仕事に対し未練を捨てきれないライオが、何の面白味も感じない相手と5年も顔を合わせ続けなければならないのだ。
仕事の際には、枷を外したくもなるだろう。

 そう、ライオにとってあの男はまさしく枷であった。自分を制限する枷、
やりにくいことこの上ない。持ってくる依頼もいまいちスリルに欠け、満足出来ない日々が続くことも多い。
 星を侵略せんとするスペースマフィアだとか、星全体に広がる恐れのあるバイオ兵器だとか、ライオはもっとこう、規模の大きなものを欲する。
それになにより、並の賞金首の拘束や、傭兵の真似事では稼ぎも良いとは言えない。
 
 彼には、夢があった。いや、夢などという大きなものではない。もっと小さな目標、いつか絶対に届くもの、自分の商売道具の新調を望んでいた。
ライオ ことライオ・リカルドは、5年以上も冒険家をしていながら自前の移動手段及び機動戦力が、買った当時2世代前のモビル・ブースターという残念な男だった。
それは彼に金がないことを意味しているが、同時にそれなりの修羅場を潜っていながら、そんな装備で生き残ることが出来る程度には腕があるということともいえる。
「もう、専属の仲介屋を雇ってしまおうか」
 ライオは冗談とも、本気ともとれるトーンで呟いた。そう、報酬の一部を渡すという条件で良い仕事をとってくる「仲介屋」と呼ばれる者を雇えば、あの男とは会わずに済む。斡旋所は宙港により運営されるため、職員も自ずとそこで働くものから選ばれる。
 
 しかし、仲介屋は違う。彼らは依頼の斡旋が専門だ。裏社会ともそれなりに繋がりがある者も多く、そちら関係の依頼も舞い込んでくる。腕の確かな奴に斡旋を頼めばそれなりに報酬は差っ引かれるが、それでも割の良い仕事をとってくる。それなのに利用する者が多くないのは、彼らが持ってくる依頼が総じて危険な物だからだろう。だがライオなら、それらの依頼すらも完遂して見せる事だろう。
 
 しかし、残念な事に、ライオには仲介屋とコンタクトをとる伝手が無い。
結局この話は夢物語という訳だ。
普段のライオは、無理な事はすっぱりと諦める男だ。しかし、
「まあ無理なことをとやかく言う前に、とりあえずお仕事しましょうかねっと」
しかしライオという人間は、時に無理なら無理でどうにかしてみせると言ってのける男でもあった。
 
 ライオは、口笛を吹きながら骨董品とすら呼べる自身の愛機、かの英雄アーサー
が駈っていた機体にあやかり名を付けた
「エクスカリバー」に搭乗し、目的の星へと向かうのであった。


だが、彼は知る由もなかった。

自分がこれから宇宙全体を危機に陥れる事態に巻き込まれようとしていた事を。

アカペラ編第2話

―ベテラン冒険者の不運―
 駆ける、何処までも駆ける。生きるために、駆ける。
こんなはずではなかった。ただ、ちょっと危険な研究をしている爺さんを捕まえるだけの、簡単なミッションだった。                 
自分は、この業界に7年も身を置いて生き延びているベテランだ。うぬぼれでもナルシズムでもなく、ただ純然たる事実として、優秀なのだ。
窮地にだって、何度も遭遇した。経験的に何か明確なミスをしたということも、無い。相手の情報も、集めた。   
その情報が不足していたかと問われれば、それもまた、ありえない。高い金を払って、腕のいい情報屋から買った情報だ。          
あの女情報屋はいけ好かない奴だが、今まで仕事で利用してきた。これまでにあの女がガセを掴まされていたという事もなかった。     
 しょうもない仕事にも、最善を尽くす。この業界では常識だ。出なければ死ぬ、それだけのこと。
だがそれは、最善を尽くせば死なないという事では決してない。かの有名なユリウスでさえもそうだった。
彼が長年バディを組んでいた、ブルトゥスの裏切りの前にあっけなく斃れたのは、あまりにも有名な話だ。
どんな優秀な冒険家だろうと、死ぬときは死ぬ。つまりはそういう事であり、その順番が自分に回ってきたという事だろう。
思い至れば、動揺も自然となくなっていた。自分は死ぬ。その事実を受け止められたのだろう。
 思えばいろいろとやってきたが、思い出せるのはヤクの運搬やらに始まるマフィアの脚、小国の王の暗殺など汚い仕事ばかりだ。
もう少しまっとうな仕事も受けて、神様とやらに媚びを売っておけばよかったかもしれない。
とうとう追いつかれてしまった。折角逃がしてやったあのバカは、こいつの情報を届けてくれただろうか。
奴の職種が近づいて、今、捕まった。吸われていく。自分が溶けて、流れて、なくナっテしマうyoうナ…

酒場の店主とはとてもいい商売だと、ライオは常々思っている。
それは、そこに冒険家が集まるからに他ならない。
冒険家が集まれば、それに目を付けたフリーの情報屋やら何やらが集まる。
自然、人が集まり繁盛するのだ。そして彼らは酒を呑み、足早に去ってく。
一人出ていき、また一人入っていく。開店から閉店まで、人が途切れることはない。
 冒険家にとってはそんな、商売の地であると同時に、交流の場でもあった。
仕事を終えた冒険家が集まり、ちょっとした宴を開く。それに便乗してさらに人が集まり、騒ぎだす。
ライオもそれは嫌いではないが、、賑わいの中に、忌むべき輩も集まってくる。
「だからって、アレはどうにかならんのかいオヤジ」
「すまんな、新人共が初仕事を終えてさわいどるのだ。見逃してやれ」
質の悪い輩、新人冒険家。冒険家の間に存在する暗黙のルールも知らずにいる迷惑な存在。
冒険家には、自分たちの信用を保つための暗黙のルールが存在する。
件の新人たちは今、正体不明のローブを纏った人間に絡んでいた。
もっとこう、悪酔いして冒険家同士での喧嘩に発展するとかならば、自分も見て見ぬふりをする。
むしろ混ざることすらあるかもしれない。
しかし、奴らが今絡んでいる推定人間は、ローブの上からも分る程ヒョロヒョロだったのだ。
店に入ってからの動きを見ても、喧嘩慣れしていないのは明らかであったし、一般人の可能性すらあった。
冒険家の禁の中でも、最も重い所に、一般人に危害を加えないというものが存在する。
それを破った者は、場合によっては他の冒険家による『掃除』の対象にされてしまう。
酒場の店主は流石にそんなことは知らないし、多少手荒くなってもここで止めてやるのが彼らのためだろう。
そう思って立ち上がろうとした瞬間、事態が動いた。
「何とか言えや!」その言葉とともに、先ほどまで無抵抗、無言を貫いていたローブの人間が張り倒された。
何を言っても無反応でローブの内側の素顔を見せる気の無い者に苛立ったのだろうが、これはいけない。
絡むどころか暴力、本格的にやばい事態に周囲でも騒めきが起こる。
今日はとんだ厄日だ。そう思いながら、立ち上がった人の群れを跳び越える。
目指すは騒ぎの中心、狙い通り倒された奴の横に降り立ち、酔っぱらった新人共に足払いをかけた。
意表を突かれた新人たちはあっさりと全員将棋倒しになる。そして自分は、ローブの奴を脇に抱える。
「オヤジ、代金はカウンターに置いたから!」
最後にそういって、跳んだ。今頃突然の出来事にモブ共はどよめいている筈だ。先程の小競り合いを忘れる程に。
冒険家とは単純なもので、大きなことがあれば直前のことなど忘れる者が大半なのだ。
とりあえず退避できたと思い、そういえば先程から脇に抱えた者から反応が無い事に思い至り、足を止める。
様子を見て、気絶していることに気付く。頭にけがが無いことを願いながらフードの部分を剥いで、絶句した。
女だったのだ。それも自分はこの女を知っている。しかしなぜここにいるのか、皆目見当がつかない。
だから気づかなかったのだ。この再会が、とんでもないことのトリガーになるなんてことは。

ライオ・バディヌリー 

初投稿です。人の読むのたのちい、書くの辛い。
感想欲しいです。読みづらいとかでもいいので、その場合はどこが読みづらいかなども書いてくださるとありがたいです。

ライオ・バディヌリー 

ここは「ユーバーシュヴェンメン宙域」、最上級のバカ共が群がる無法の宙。政府は恐怖し、何もできない。付いた異名は宇宙の火薬庫。 公僕は頼りにならない。ならば無法には、同じく無法で対処するしかないだろう。悪と戦う荒くれ者こそ、冒険家。 火薬庫に生きる一人の男、彼もまた荒くれ者、その名をライオといった。彼の周囲は、導火線だらけ。 さあ、こんな辺鄙な星に流れ着いてしまった不幸な諸君よ、ライオの奏でる危険なバディヌリーで暇を潰してもらおうか。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-09

Copyrighted
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  1. スペース・シャンソン
  2. アカペラ編第1話
  3. アカペラ編第2話