いちごの思い出

いちごの思い出

こんにちは、一久一茶です。久しぶりに小説を載せたいと思います

『親愛なるあなたへ

お元気ですか?

私は元気でやってます。

何となくだるいと、この前のあなたからの手紙に書いてありましたね。

私は、あなたがそう感じる時、心が疲れているんだと思います。

何をしても、心にもやがかかったみたいで。

でも、どうしてもやもやしてるのかわからなくて。

不意に昔を思い出して。

そしてまた、急に心がギュッと締め付けられて。

私はそんな時、いちごを食べるようにします。

いちごの甘酸っぱさと、何とも言えない香り。

そのあじわいに、心にあたたかな風が吹く感じがします。

是非試してください。


そう言えば、私がいつもいちごを買う青果店の隣に、小さなカフェが出来ました。そこはとても、あなたの好きそうな雰囲気のお店です。木の香りのする机に、ちょっぴりガタガタしそうな木の椅子。でもとても味があっていい感じのお店です。私はいちごを買うと決まって、そこのお店によってパンを買います。そして決まって、中では食べずに家に持って帰ります。そこのお店は、先に食べるものを買えば、中で食べても持ち帰ってもどちらでもいいらしいので。そこのパンはすごく美味しくて、いちごと、家で淹れた紅茶と一緒に食べるととても落ち着きます。

あなたがイタリアへ引っ越す前は、いちごを買って、あなたのお家でよく一緒に食べましたね。その時のあなたは決まって紅茶とパンを一緒に出してくれたので、ひとりになった今でも同じようにしてしまいます。そうすると、あなたと一緒にいちごを食べた時の気持ちを思い出して、幸せな気分になります。紅茶の甘い香りの湯気の向こうに、あなたの笑顔が見えるような気がして。

そう言えば、イタリアのイチゴは日本のいちごとは少し違うらしいですね。種が少し大きくて、酸味が少し強いと聞いたことがあります。私は酸っぱすぎるものは苦手なのですが、食べてみたいなぁとたまに思う時もあります。でも、日本のあの青果店では売っていないので残念です。

初めて私があなたとあの青果店で会った時、私はあまりいちごが好きではありませんでした。時々すごく酸っぱい粒があるし、そうじゃなくても子どもだった私は酸っぱいものをあまりたべられなかったから。でも、その時は私のワンピースが引っかかって陳列されていたいちごのパックを落としてしまって、どうしても買わないといけなくなってしまったのを覚えています。そこにあなたが来てお店のおじさんに一言、「いちごありますか?」と聞いたんですよね。ちょうどお盆の時期、次の日からお店がお休みだったのもあって、私が落っことしたのが最後だったらしくて、おじさんは「その子の持ってるが最後なんだよ、ごめんよ」とあなたに言いました。そしたらあなたは残念そうな顔をしたので、私はとても緊張しながら「これ、落としちゃったんですけど、あげます」と言うと、あなたは「いや、悪いよ」と言いましたね。私は「いちごを買いに来たわけじゃなかったからいいですよ」って言うとあなたは
「じゃあ、一緒に食べますか?」
と唐突に問いかけてきたので、私は面食らっちゃってまたそのいちごを落としそうになったんでしたっけ。
そのあと、公園まで行って私たちはいちごを食べたわけだけど、その時のいちごの味は今でも忘れません。今まで嫌いだったあの酸っぱさが気にならないほど甘くて、でもちょっぴり酸っぱくて。あの時、私はその甘酸っぱさに幸せを感じました。あなたも美味しいと言いながらいちごを頬張っていましたね。いちごが好きなくせに、ちょっぴり下手くそなな食べ方で、大粒のいちごにかぶりついたときに果汁があふれて服にこぼしたこともよく覚えています。そんなときでも、あなたが幸せそうな顔をしていたことも。

そして、何年か経って、同じ高校で再会した時も、あなたはいちごを食べていました。昼休み、同じ教室で、ふとみた男子生徒がいちごを食べていたから、男の子なのに珍しいなぁと思いつつも素通りしそうになって、でもその食べ方が、あの時のあなたのままだったから私から話しかけたんですよね。
するとあなたは
「え、もしかしてあの時の?」
と目を丸くしてましたっけ。

あなたがイタリアに旅立つその日も、あなたはいちごを食べていました。空港に着いて、あなたはパックからいちごを一つ取り出し少しかじると、
「また、一緒にいちご食べられるといいな」
と言って、私にかじったいちごを渡して、微笑んでいましたね。
私は、「いいな、じゃなくて絶対に。約束だよ?」というとあなたは大きく頷いて、
「今度食べるときはうんと甘いいちご買ってくるよ」
と言っていました。そのかじりかけのいちごの味は、とても優しい甘さと、すこし寂しげな酸味が印象的でした。ちょうど、あの時のあなたの笑顔みたいに。


この前、あの青果店のおじさんとちょっとお喋りしました。おじさんは、あなたとことを「久々に顔出せよー」とおっしゃっていましたよ。もうすぐこちらはいちごが美味しくなる季節です。あなたがもし、心が疲れていると感じるならば、そっちのイチゴじゃ甘さが足りないかもしれないので、こっちのいちごを食べてみるといいかもしれません。
その時は、私のことを思い出してくれれば幸いです。

いちごの好きな私より』


「なんだ、『いちごの好きな私より』って。普通そこ自分の名前だと思うんだけどなぁ」
思わずクスッと、俺は笑った。そして、便箋とペンを用意して、返事を書くことにした。
「なんて書こうか・・・つか、あいつ約束忘れてないか?」
自分で手紙の中に書いてるくせに。

『親愛なる霧香へ
返事ありがとう。いちごかぁ。こちらのイチゴは酸っぱいから最近じゃあまり食べないな。それじゃあ試してみるよ、いちごと紅茶とパンと。あ、そういや霧香、俺との約束忘れてない?
まぁ、いいや。霧香の言う通り、いちごを試してみるよ。
それじゃ、霧香。オススメのパン頼んだよ。俺はうんと甘いいちご用意するから。

いちごの好きな俺より』

いちごの思い出

読んでいただきありがとうございます。一久一茶です。
いちご、美味しいですよね。私はこの中のふたりみたいにいちごに思い出はないですけど、好きですね。
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いちごの思い出

わたしとあなたの「いちご」を通じた思い出を綴った甘酸っぱい物語

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-08

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