あじさい

その花と出会ったのは偶然であった。
すっかり一目惚れをし、虫に喰われている所も全てきれいに見えて、一方的だがあじさいの傍に居るだけで満足を感じている。もう他のあじさいには目もくれず、唯一無二、一期一会の運命を悟った。
しばらくして、私は噎せるような甘ったるい匂いに誘惑された訳でなく(いや、恐らくされていたのだが)あのあじさいに安らぎを求めた。
だが、つまらなく強靭な意地と羞恥で、一歩に戸惑い続けた。
嗚呼、男という私はそうなのだろう。意地を言い訳にしておいて、嫉妬や羨みなんかで出来た激情の渦を、埒も明かずに延々唸らし続ける。そうして二度と来ないもう一度に、盤石の構えをしてしつこく待つ。何日、何ヶ月、何年。
ある時、私はあじさいの健気を知った。身近を、素朴を知った、とても(呆れるくらいに)大切であった。
今更知った後悔と、今知れた喜びを同時に同じくらい感じた。
同様、あじさいにも、私という虫が、又あじさいに見えるらしい。そこには、境界線は無かった。
ただあったものと言えば、かの意地と羞恥、戸惑いだけである。

あじさい

あじさい

ある人に言われた。人を幸せにする話を作りなと。これが、私の、出来る限りである。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-06-17

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