うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(2)
二 大王公園に行く
「おっ、あそこは公園か」
大王が声を上げた。近所の中央公園だ。僕たち子どもたちにとっての遊びの場所だ。キャッチボールをしたり、サッカーボールを蹴りあったり、ドッジボールを投げあったり、バスケットボールをゴールに入れ合ったり、鬼ごっこをしたりしている。僕らの遊びのディズニーランドであり、ユニバーサル・スタジオだ。しかも、入場券はいらない。
「ほう、それはいいな」大王は僕の説明を聞いて感心した。
「どんどん遊んで、どんどん体を動かせば、どんどんお腹が減るし、どんどん食べられる。わしたちの仕事はどんどん忙しくなるが、主がどんどん成長するためには、どんどんと食べたらいいんだ」
「わかったよ」大王はどんどんが大好きらしい。
朝が早いせいか、公園には子どもたちはいない。代わりに、おじいさんやおばあさんたちが集まっている。何をしているんだろう。音楽が聴こえてきた。ラジオ体操だ。おじいさんたちが手や足を動かし始めた。ラジオ体操は夏休みにしかしたことがない。今でもやっているんだ。
「ラジオ体操はいいぞ。お腹も減るし、便通もよくなるぞ。わしにも毎日会えるぞ」大王がうん、うんと自分で納得している。毎日、トイレに行くのはいいことだけど、毎日、大王に会って、お説教は受けたくはない。
公園を過ぎ、池にやって来た。この地域は、雨が降らないため、あちらこちらにため池がある。そのため池の土手を利用して、散歩やジョギングをしている人は多い。
「おっ。いい風だな」池の上の空気と土手の上の空気に温度差があるため、空気が移動する。それが、風だ。
「たまには、こんな空気も吸ってくれよ。お腹の中は、食べ物の匂いなんかで、空気が淀んでいるんだ。新鮮な空気だけでも美味しいぞ」大王が腕を広げて、ここぞとばかりに深新呼吸をしている。
そんなものかな。自分のお腹の中には行ったことがないから、大王の言うことを信じるしかない。でも、部屋にこもっていたりして、家の外に出ると、気持ちいがいいことは確かだ。僕も大王を真似て大きく息を吸い込んだ。
「そうだ。そうだ。それでいいんだ」大王が頷いている。
「近所も一回りしたな。さあ、家に帰って、朝食を食べよう。腹が減ったぞ」
僕のお腹のことなのに、大王は、まるで自分のことのように言う。公園の時計を見た。午前七時だ。パパやママは、まだ、起きていないだろう。
「起きてなかったら。起こせばいいんだ。折角の休みだぞ。有効に使わないと損するぞ」
大王にとっては久しぶり?の外の世界だから、張り切るのはわかるけれど、パパやママは、平日、仕事で忙しいので、折角の休みの日くらいはゆっくりと寝坊したいのだろう。人によって、折角は異なるんだ。
「さあ、帰ろう。帰ろう」大王が急がす。大王は、早く朝食を食べたいみたいだけど、今から帰れば、好きなアニメの番組の放送が始まる。それを観てからでいいだろう。
僕は家に帰ると、テレビを点けた。やってる、やってる。アニメの番組が始まっていた。ちょうど、主題歌が終わろうとしているところだった。
「なんだ、それは」大王が胸ポケットから顔を出した。
「そう言えば、日曜日の朝は、目ざまし時計の代わりに大きな音が聞こえてきて、目が覚めるんだった。。なんだ、その音だったのか」
「お腹の中なのに、音が聞こえるの?」僕が不思議そうに尋ねた。
「もちろんだ。人間の耳や鼻、口、喉、食道、胃、小腸、大腸まではホースみたいなものだ。小さな音は聞こえないけれど、大きな音はちゃんと聞こえているぞ。特に、笑い声はな」
「ふーん。そうなんだ」別に聞かれて悪いことは言っていないつもりだ。でも、大王たちに聞かれているとは思わなかった。都合が悪い時は、口をふさいでおこう。でも、それじゃあ、しゃべれないか。
僕は、テレビを観続ける。画面には正義のヒーローがやってきて、悪い奴らをやっつける。最初は、ヒーローが優勢だが、途中から、悪い奴らが正義のヒーローを追いつめる。危ない。もう駄目だ。僕は手を握り締める。汗がにじむ。その時、ヒーローが必殺技を繰り出した。悪い奴らは倒れた。勝った。毎回、同じパターンだ。だけど、悪い奴らが、あの手この手でヒーローを倒そうとして、ヒーローも苦戦するけれど、最後には勝つのが面白い。
「なんだ。そんなものを観ているのか」大王も僕と同じようにテレビを観ていたらしい。
「そんな作りものの話よりも、本当の話の方がいいだろう。それだったら、わしが話をしてやろう」
「どんな話?」パパやママはまだ起きそうにないので、大王の話を聞くことにした。
うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(2)