夜泣き鳥

夜の(とばり)が下りると 柳の小枝の影に 

音もなく静かに 蛍が小さな灯をともす


(さら)しの手拭(てぬぐい)に顔を隠して

(こも)を片手に伸ばす指の先から

薄緑の光を放ちながら

闇の彼方に飛んで行った


あの頃の私はただその美しさだけを

追い求めて何処までも駆けて行ったっけ

それがどうしてこんな私に・・・

いいわさ それが浮世だもの


今はあの金魚の絵の団扇(うちわ)

ひと巻きの敷物に変え

人目を(しの)ぎ柳の影に身を隠して

ひと夜契りの誰かを待っている


蛍さん あんたはいいねえ

好きな相手と一夜を過ごし

その(あかし)を草の根に残して消えちまうんだろう

短い命だけれど まだ幸せかもよ

いつ終わるとも知れぬ命を生きながらえて

毎夜毎夜鳴きながら暮らす夜泣き鳥になっちまった

こんな私に(くら)べりゃあさあ



 

夜泣き鳥

夜泣き鳥

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-06

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