さよならしないで
みんなの願望。
辛いのは別れの際。
今までどこでどうやって生きてきたのか、はっきりと思い出せないように、あたりまえに日常は近くにあって、そして遠かった。
ここは駅のプラットホーム、誰か迎えに来たのか、それともお別れを言いに来たのか、覚えていない。
ただ、母からの手土産を手に、こうして待っている。
連れているのは子犬。赤い紐でくくられている。
プァーンと音がして、かぼちゃ列車がやってきた。
私の客はいないらしい。
クン、と紐を引っ張る子犬。
お前、まだ小さいのに、行ってしまうの?
そう聞くと、涙をぽろぽろ流して、私を見上げた。
私は。
私は、好きで人の別れを見てきたのだ。薄暗い瓶の底を覗くように、何かしらノスタルジーなものを探して。
私は今思い出した。
別れを告げたのは、私だったのだ。
この先に、母方の祖父が住んでいるらしい。
会いに行こう。
そう思って、列車に一足踏み込むと、子犬は泣きながら私を見送った。
さよなら、したくなかったよ。
そう思っていると、とん、と背中を押されて、私はホームに逆戻りした。
振り返ると、知らないようで、誰よりも隣にいたような、誰か。
「元気で」
そう笑って、プシューとドアが閉まった。
取り残された私は、子犬を抱き、その柔らかさに頬ずりした。
そんな夢を見たある日のこと。
さよならしないで
とっさに思いつき。