さよならしないで

みんなの願望。

辛いのは別れの際。

今までどこでどうやって生きてきたのか、はっきりと思い出せないように、あたりまえに日常は近くにあって、そして遠かった。

ここは駅のプラットホーム、誰か迎えに来たのか、それともお別れを言いに来たのか、覚えていない。

ただ、母からの手土産を手に、こうして待っている。
連れているのは子犬。赤い紐でくくられている。

プァーンと音がして、かぼちゃ列車がやってきた。
私の客はいないらしい。

クン、と紐を引っ張る子犬。

お前、まだ小さいのに、行ってしまうの?
そう聞くと、涙をぽろぽろ流して、私を見上げた。

私は。

私は、好きで人の別れを見てきたのだ。薄暗い瓶の底を覗くように、何かしらノスタルジーなものを探して。

私は今思い出した。

別れを告げたのは、私だったのだ。
この先に、母方の祖父が住んでいるらしい。

会いに行こう。
そう思って、列車に一足踏み込むと、子犬は泣きながら私を見送った。

さよなら、したくなかったよ。

そう思っていると、とん、と背中を押されて、私はホームに逆戻りした。
振り返ると、知らないようで、誰よりも隣にいたような、誰か。

「元気で」

そう笑って、プシューとドアが閉まった。

取り残された私は、子犬を抱き、その柔らかさに頬ずりした。

そんな夢を見たある日のこと。

さよならしないで

とっさに思いつき。

さよならしないで

悲しくないさよならを。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-04

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