人生と戦争

素人ですが何とか知恵を振り絞って書きました、初めての一作です。よろしくお願いします。

人生と戦争

 人生と戦争

 俺の名前は加藤デイビット。日本人とアメリカ人の血を引くハーフとして生まれた。
 今俺は死にそうだ。戦争によって。自分のたどってきた人生が、今までしてきたことが一気に頭の中を駆け巡る。不思議なことに、痛みなんて感じない。まだまだ元気にやっていけそうな気がする。けれども身体が動かない。
 そして俺の魂は、俺の肉体を離れていった。


 「腕立て倍だ!このままだとお前らは亀にも勝てないぞ!」
指揮官の太い声が怒鳴る。ため息が聞こえてくるかと思ったが、全員黙々と腕立て伏せをやりだした。自分も負けてはいられないと感じ、加藤もやりだした。
 「うちの指揮官ってたとえ下手だよな。なぜこの場で亀を選んでくるのか意味分からん」訓練中には口数を減らすように言われているが、加藤はそれに応答した。
 「指揮官、二人目の子供産まれたってな。俺たちを厳しく指導してくるけど、内心はうれしくてたまんないだろうな。」
加藤にも子供はいる。だがもう6ヶ月以上あっていない。
 アメリカ軍、海兵隊に所属してから三年が経つ加藤はアフリカに来ていた。入隊から5年以内の新兵は、ここで1年間の訓練をすることになっており、彼自身も家族をアメリカに残してはるばるやってきたのだった。
 現在は2024年。技術は進化し、戦闘の形も変わるかと思われていたが、いまだに人は戦場で活躍する。加藤の所属している海兵隊は、2年前に古い組織から新しい組織へと変えられていた。以前は海軍と共にいることが多かったのだが、今では陸、海、空の全ての軍に常時配置されている。また、その配置が常に変わっていくから、常に何でも出来る状態でいなくてはならなくなり、つらさは以前よりも増している。しかし、海兵隊の活躍はアメリカ国民の誰しもが知っていた。
 そんな中で、加藤は。いや、彼だけでなくアメリカ軍全体が緊張状態となっていた。
 中国の侵略行為が激しくなったのが、東京オリンピックの終了後約一ヶ月。日本の尖閣諸島を始めとし、南沙諸島、更にはハワイ島にまで手を出そうたくらんでいることが判明した。このこともあり、アメリカによる宣戦布告がいつ起こるかわからない状態だったのだ。それだけでなく、隣国の日本も、この戦争にどう巻き込まれるか緊張状態が続いていた。
 「全員整列!」
指揮官に怒られるまいと、休憩していた訓練生たちは急いで四列横隊を作った。
 「今日で訓練前期の終了となる。明日からは休みだ。だが知っての通り、我々は緊張状態にある。通常よりは短い休暇になるから、心得ておくように。以上、質問はあるか。」
ここで、最後尾の筋肉質の者が一つ質問をした。
 「指揮官。アメリカへの帰国は今日中に出来るのでしょうか。」
 「今日には無理だ。明日の朝、帰れるだろう。他には!」
 その日の夜は戦争が起こるかもしれないという恐ろしさを感じさせないほどの賑やかなものとなった。


 クリスマスの雰囲気漂う町の中。一軒の家の階段を上がる。前方にあるドアに背中をつけ、ゆっくりと開ける。と何かが胸のあたりについた。
 「パパの負けー!本当なら死んじゃってるよ!バーンバーン!」
そこにいたのは、息子のサムと妻のメアリーだった。
 「ハーイ、デイブ。この子、ずっとあなたの帰りを待っていたんだから。」
そう言い、メアリーは加藤の頬にキスをした。
 「ああ、お偉いさんの用事で少し遅れてしまってな、すまない。ほら、来いサム。どれだけ重くなったかパパに教えてくれ。」
ボタンのところに引っかかったおもちゃの銃弾を取り、サムに投げつけながら加藤は追っていった。
 家の中は少しばかり変わっていた。キッチンの壁紙は白からクリーム色に、ベッドルームのベッドは聞くところによるとイタリア製のものにしたらしい。
 加藤がテレビの前まで来ると、母親の有里美が座っていた。彼の幼いころに耳にしたことからだと、彼女は十六歳の頃からアメリカ生活を始めたらしい。だが、今でも日本に対しては鉄の愛国心を保持していることは間違いなさそうだった。そして、父は二十三年前。加藤が二歳のときにアフガニスタン紛争で帰らぬ人となっていた。勿論のこと顔は覚えていなかったが、そんな父に憧れて海兵隊に入隊したのであった。
 そんな昔のことに思いふけっていた加藤だが、有里美の声で我に帰った。
 「襟が乱れているわよ。海兵隊員さん。」
彼女が服について気にするのも昔からだった。
 「すまないな、母さん。家のことまでいろいろとやらせて。本当はもっと休んでほしいんだけど、まだひとりじゃメアリーは何も出来ないから。」
 「大丈夫よ。老いぼれかけてる母親のことなんか気にしないで、奥さんのことを気にかけてあげて頂戴。彼女、一切の弱音を吐かずにやってるんだから。」
 加藤としても母とメアリーの負担を何とか減らしてあげたいところだったが、自分が軍にいる限りそうはならないと感じてはいたので考えないことにしていた。
 夕食には鳥の丸焼きが出た。(加藤家では祝い事のときに出すのが習慣となっていた。)
 「夫の無事帰ってきたこと、また、これからの安全を願って、乾杯!」
この合図と共に、彼はようやく家に帰ってきたという気持ちになったのだった。
 今夜は熱い夜になった。


 ニューメキシコ州の自宅を離れてから、15時間。加藤はワシントンD・Cにきていた。もちろんただの旅行などではない。大統領に会いに来たのだった。依然緊張状態が続く中、ついに戦争を仕掛ける決断がおろされたようだった。もしそうなった場合の計画は、事前に知らされてはいたのだが、加藤は現実になるとは思っていなかった。
今回の任務は、SEALSと共に行うとのことだった。
「私の名前は、トーマス・ニッカー。今回の作戦を君たちに伝えることが私の任務だ。今から言うことは国家機密でもあり、一度しか言うことが出来ない。よく耳に、脳に焼きつけてほしい。」
加藤は緊張した。
 「まず部隊長だか今回の作戦においてはこちらからは指名しないことになっている。君たちの話し合いで決めてくれ。そして海兵隊の諸君は本来の部隊とは別に動くことになる。つまり今ここにいる者は各部隊から選ばれてきた精鋭たちである。そしてSEALSのほうからは中国が相手となるので極東担当のチーム5に来てもらった。紹介はこのぐらいとして、本題に入ろう。」
 会議室を出てホワイトハウスの外に集まっていた。今回の任務は専らSEALSの手伝いといったところだった。それは暗殺である。現在の首相を暗殺し中国を食い止めるというのが、アメリカが出した答えであった。兵士の誰もが思っていた、そんな方法でいいのだろうかと。通常のアメリカなら通常通り戦争をしたであろうが、今は違った。日本の集団的自衛権の行使があいまいな以上、全面的な戦争は出来ないと考えたのであろう。加藤としても、日本を戦争に巻き込めたくはないのが本音であった。
 海兵隊の彼らは困惑していた。SEALSの者たちはとうにそれぞれのするべきことをするべく、戻っていた。任務のために移動するのはなんと明日からだという。硬直していた彼らだったが加藤が沈黙を破った。
 「任務は明日からだ。しっかりと身体を休めて備えるように。また明日アメリカ海兵隊ルジューン基地で会おう。」
 彼の頭の中はとても混乱していた。暗殺なんて考えもしていなかったからだ。戦地ならある意味力任せに行動しても何とかなるのだが、ここまで計画的な仕事となると通常の兵士ならまず自信をなくすだろう。そういう意味では、彼は自分が真の海兵隊であることを自覚できたので安心していた。
 電話が鳴る。晩飯を作っていたメアリーは一旦手を止めた。義母の有里美は庭で花の手入れをしている。電話の相手はデイビットだった。彼の頼れる声が聞こえてきたが、メアリーはどこかさびしげなところを感じ取っていた。数分の会話の後、電話が切られた。子供も幼稚園に行き誰もいないリビングに、メアリーは少しの間立ち尽くしていた。
 メアリーとの電話を終えた後、加藤はホテルにいた。持って行く物は全て準備してある。残りの必要なものは基地に着いたときに支給されるらしい。加藤はベットに横になり空中にディスプレイを表示した。開いたのはメール。ある人との連絡を取るためだった。すでに通知が二件ほどあり、どちらにも返信をした後にその人物へメールを送った。彼の顔には笑顔が戻っていた。


 アメリカ海兵隊の基地、ルジューン基地に任務を遂行すべく、精鋭たちが集まった。その中に、人を探しているのか、辺りを見回す男が一人いた。
 加藤は対象を見つけると、早足に近づいていき声をかけた。
 「相変わらず女の裸をベッドルームにいやらしく貼り付けてあんのか?」
この声のかけ方はもうお馴染みとなっていた。
背中を見せていた影が振り向いた。
 「メールで言ってた通り、本当に来たんだな。どうだ、嫁は元気か?サムは男らしくなったか?」
こう尋ねてきたのは加藤の兄、ケリー・サンプソン。彼はマサチューセッツ工科大学で戦闘機について学び、航空整備士になった誇れる兄である。
 「ああ、元気にやってるよ。それより兄貴は?まさかルジューン基地に配属されてるとは思わなかったが、昇格試験に受かる自信は?」
積もる話もあっただろうが、彼らにはそれぞれ仕事があった。五分ほど話したところで持ち場へと戻っていった。
 加藤が飛行場へと入っていった時には、全ての隊員が集まっていた。そして、ひとりのSEALS隊員から言葉があった。
 「我々は鍛え抜かれた一流の戦士だと思ってくれ。君たち海兵隊と比べられては困る。足だけは引っ張らないように注意してもらいたい。よってリーダーのほうもこちらSEALSから出す。私、ケビン・ジョン・リチャードソンだ。」
 嫌味にしか聞こえない話をされた後、海兵隊員たちは荷物を飛行機に乗せ、韓国にあるSEALSの基地へと向かった。
 一月十八日、午前三時十五分。銃声が鳴り響く中、ひとりの男が的に的中させた。加藤もそれを見て驚きを隠せなかった。
 韓国についてからの三週間、SEALSと海兵隊の合同チームは作戦実行まで訓練を行っていた。ただ、レベルは海兵隊のとは比べ物にならないくらいで、毎晩疲れきっている状態であった。
 「おい、加藤。俺もついに嫁をゲットしたぜ。ここに来る前に初めての一発をやったんだけどよ、あいつなかなかの声を出しやがる。俺は十分も持たなかった。」
 こんなエロい話を持ちかけてくるのが、リー・ハビット。海兵隊に所属してから十二年目で、今回の作戦には進んで志願してきたらしい。彼だけでなく、他にもメンバーはいる。熱血系のパトリック、逆に冷静なボークなど仕組まれたのかは分からないが、違った性格の者達が集まる集団になっている。
 今日は訓練の後に最終会議の時間が組まれていた。ここで、詳細が明かされる予定でいる。加藤たちは急ぎのシャワーを浴び、東西に細長く伸びる訓練塔の一階、ルームGへと向かった。だが、その部屋にいたのは指揮官ではなく、1METER弱のディスプレイだった。誰もが不思議に思う中、SEALSの連中は違った。
 「何を間抜けな顔してる。さっさとはじめるぞ。」
そこでリーが説明をしてきた。
 「俺も知らなかったが、うわさにはあった。SEALSの奴らは、作戦も現地についてから自分らで考えるんだってよ。俺らは上に従ってりゃいいだけの犬っころだと思われてるらしいぜ。なめやがって。」
加藤も言われて思い出した。五年ほど前からSEALSには上というものがなくなっていた。彼らには現地で直ぐに活動し、指示を仰ぐ前に自分たちの意思で行動する権利が与えられたのであった。暗殺についても、この頃からSEALSが専門的にやりだしていた。
 ディスプレイに計画内容が写された。タイトルは、中国現国家主席暗殺計画。それぞれにそのシンプルだが抜け目のない計画への驚きの表情が見えた。リーでさえも、あのうるさい口を閉じて見入っている。全員が頭に叩き込んだところでデータは削除され、ディスプレイもコンパクトなバッグサイズとなり、端に寄せられた。
 「では、ハンティングといこうか。」


 加藤の配置は西側ゲート左の茂みの中だった。ここは中国の懐化市で二年ほど前から中国政府が秘密の場所として使用していることがスパイの情報によって明かされていた。勿論中国側はアメリカにこの場所は割れていなと思い込んでいて、今回は少しは油断を突けるだろうと感じていた。
 そうこう考えていたら全員にリーダーから無線が入った。コードネームはリーデル。イタリア語のリーダーだ。
 「準備が出来たら全員端末を見るんだ。空からの様子を、バードカメラで映し出す。」
加藤も端末を開いた。バードカメラというのはアメリカ軍事目的機械研究会が開発した超高性能のカメラで、肉眼だけでなく双眼鏡を使ってみても本物の鳥のように見えてしまうハイテクカメラだ。全体像が見える。中央に位置しているのが本部のようであった。そこからゲートへ伸びるように道が塗装されている。そのゲートは全部で三つ。今いる西、反対の東、最後に北東にもう一つ。残りは厚い壁で囲まれている。
 国家主席が今回の秘密会議に参加すべく、すでに本部の建物の中へと入っていた。加藤たちの狙いは会議終了後、主席専用車両が西側ゲートから出てきたところ。スナイパーが少々高くなったところから狙っている。毎回出た後にタバコをすうために窓を開けるという情報も入ってきているので、そこを射撃することが目的だ。
 一時間、二時間と時間が過ぎていく。そこからまた三時間半たったところでようやく車が動き出した。予想通り車内は見えなかったが、窓を開けてタバコを吸いだしていた。
 スナイパーを構えるリーの腕に緊張が走った。彼は海兵隊の中でも異端の狙撃の腕を持っていた。彼のほかにもう一人、SEALSの狙撃手が反対側から構えているのが見える。計二人で一発ずつ打ち込んで暗殺するのが役割として与えられていた。リーにも動き出したのが確認できた。一度SEALS隊員の方を見ると、すでに構えの姿勢に入っていたのであわてて肩に銃床をあてた。
 ゲートが開いた。その瞬間に一発の銃声が響いた。チーム全員があわてた。なぜなら、狙撃はゲートを抜けてからのはずだったからだ。音の向きからして先走ったのは、リーだった。みなが成功を祈るしかなかった。
 中国人の護衛たちがあわてている。そこで無線が入った。
 「国家主席の死亡を確認。作戦第二段階へと移行!」
安堵している暇などなく、すぐさま戦闘モードになった。ここを離れるためには一揆に護衛たちを始末し、退却するしかなかった。加藤は計画通りに茂みから相手を狙いつつ前進し、前方の岩をカバーにした。地理的に言えば有利なのは合同チーム側。中国人たちは袋のねずみ状態に陥っていて一掃されるのも時間の問題であった。思っていた以上にスナイパーの効力はあり、十分で片がついた。
 「全員撤退するぞ。援軍が来る前にヘリに乗りベトナムまで渡って安全の確保をしなければならない。」
 無線を聞きつつ加藤はパトリックが見えたため話しながら近寄った。
 「リーのやつよく先走ったな。失敗してたらどうするつもりだったんだか。」
パトリックの激しい笑い声が聞こえるかと思ったが、響いたのは違うものだった。
 耳鳴りが激しい。大きな怪我は負っていない。運よく破片が当たらなかったようだ。戦争方で禁止されている大型破片拡散手榴弾の使用。相手が中国だから警戒しておけとチームリーダのリチャードソンに言われていたのを加藤は思い出した。バスケをやっていたおかげで何とかよけ切れたが、パトリックは違った。彼はあまりにも近すぎた。
 「俺にはまだまだ熱血が足りなかったみたいだな。もう直ぐ弟が入隊するって言うのによ、これじゃあ合わせる顔もないぜ。」
血を吐きつつ行った彼に、加藤は黙るよう促した。だがもう分かっていた。彼に生きる運命はもう存在していないと。それでもやることは一つだった。
 「パトリック。お前はまだ死なせないぞ。その熱血さでいつでも隊員を元気にしてやるって言ったのはいつの話だ。」
そのようなこと言われたことなどなかったのだが、今は関係なかった。彼の顔に笑みが見えた。その瞬間に息の根も死神によって静かに引き取られた。残酷だが加藤にはもう一つやるべきことがあった。パトリックの右手人差し指をナイフで切り取りフィンガーポーチに入れて持ち帰る仕事である。戦死者の活躍を象徴して、そのものの引き金を引く指を持ち帰ることが現在では慣わしとなっていた。他の隊員から無線で呼ばれる中、彼はすばやくその作業をし、十字架を切って退却作戦へと移っていった。


 音楽が鳴り響く。1900年代の有名な曲を聞くのが最近の流行なのがリーだった。あの後は上手く退却することが出来て、あと数時間でベトナムに着くとこだった。リーは加藤にもSEALSのリチャードソンにも攻められて落ち込んでいた。彼には言われていたタイミングよりもあのときのほうが確実に思えたので狙撃したのだが、誰も理解しようとはしなかった。出番がなくなって落ち込んでいたのはもうひとりのSEALSスナイパーだ。作戦自体は成功したので、今後の経緯はアメリカ国家に任せていくことになる。中国もこれで少しは落ち着くのではないだろうかとリーは考えていた。
 「パトリックの片身は俺が預かった。家族のほうにも説明が行くように、ベトナムに着いたら責任を持って彼の殉職の仕事を背負う。君たちは良くやってくれた。海兵隊の者も思っていた以上に動いてくれて感謝している。アメリカの誇りとなれるようこれからも努力してくれ。」
 リーダーからこう言われて、加藤の中ではSEALSのイメージが少しだけ良くなった。そうこうしているうちにベトナムのベースキャンプにも到着して、一人ひとりにテントが与えられた。時刻は二十一時。まだ寝るには早い時間だったが、することもなく、命令されていることもなかったので合同チームの全員が早めに床に着いていた。近いうちにに早くもこのベースキャンプを離れ、近くの海軍の下へ合流するのが予定である。そのためにも慣れない仕事の疲れを除いておくことは大切になる。加藤には日本についても心配していた。未だ集団的自衛権があやふやな以上、アメリカと共になって参戦してくることはないだろうが、個別的自衛権となると話は違う。彼らが戦争に巻き込まれるのもそう遠くない出来事になりそうだった。
 夜中、訓練グラウンドを歩く一人の女がいた。服装からして上級のものと思える。彼女は十五分ほどうろついてから、仮会議テントの中へと入っていった。そこには男ばかりがいた。どうしていつの時代になっても仕官クラスの者達はこうも堅苦しいのだろうか。と、その声が届いたかのようにひとりの将校が目を走らせてきたので、彼女はあわててまじめな顔をした。
 「今このベースキャンプに滞在している、SEALSと海兵隊の合同チームが行った暗殺についてだ。見事彼らは成功に治めてくれた。」
 だが、中国がとった行動に彼女は顔を白くした。
 アメリカ、ホワイトハウス大統領室、一月三十日、午後五時四十五分。CIAから連絡が入った。中国は国家出席が暗殺されてもあきらめることはなく、アメリカに宣戦布告と同時にハワイへ弾道ミサイルを撃ったという。けれどもそれは届くことなく、日本によってなんとか途中で爆発されていた。しかしながら、戦争が始まったことに変わりはない。
 「大統領。記者会見を開きますか?アメリカ国民に知らせなければなりません。」
 「そうだな。一時間後にホワイトハウス前で記者会見を開こう。ついに中国との戦争が始まったな。」
 ニューヨーク州、同日、午後六時十分、国際連合本部。
 「中国がアメリカに戦争を仕掛けたって、俺は北朝鮮が始めるかと思ってたけど違ったな。」
もう、三十分ほど前からこの話題ばかりだ。国連で働いているエディックはうんざりしていた。直ぐにここでも中国に対する経済制裁をどうするかの会議が組まれるであろう。
 「おい、エディック。今回の総会。傍聴しに行かないか?じつは先にチケット二枚、とっておいたんだぜ。感謝しろ。」
最近可能になった総会の傍聴だったが、彼は行かないことにした。
 「俺はもとから興味ないし、仕事挟んでるからごめんな。またの機会にしてくれ。」
これからの生活が戦争によって変わってしまうのだろうか心配だった。だが、本土決戦は必ず起きないだろう事は予想がつく。このアメリカが中国などに負けるはずがない。無事連合国側が勝利を収めることであろう。
 数分後、やはりエディックの足は総会議場へと向かっていた。
 メアリーはテレビを見ていた。別に何かを見たいわけでもなく、チャンネルを回していたら大統領記者会見の様子が映されていたので、目を止めていた。偶然にも加藤を含め、合同チームについての安否を言っていたところで、死亡者の名前に加藤がなかったことに彼女は安堵した。まだ怪我をしているかもしれない可能性はあったが、死ぬよりはましだ。だが、その後に公開された情報には、腰をぬかざるをえなかった。海兵隊は前線へと送られるであろう。不安になったメアリーはサムを抱きかかえた。


 不気味なほど静まり返っている。家に帰ってきた加藤だったが、家族が見当たらない。この時期に帰れることなんてないはずなのに。だが、そんなことはどうでも良かった。家中どこを探してもいないのだ。愛する家族の顔が早く見たい。屋根裏への階段が伸びている。とっさに上ってみる。そこにはメアリーだけでなく、家族全員の死体が転がっていた。
 勢いよく目が覚めた。加藤の額には汗が流れていた。家族が殺される夢を見るなんて縁起でもない。そう思うと家族の声が急に聞きたくなった。電話をかける。今なら仕事からも帰ってきて家にいるはずだ。数十秒待たされたが、回線がつながった。
 「もしもし、あなた?大丈夫なの?今度は中国と戦争なんて。また海兵隊は前線に送られるんでしょ。気をつけてね。」
矢継ぎ早の質問に戸惑ったが、声が聞けたことに安心感が沸いていた。
 「まあ何とかやっていけるだろうと俺は思ってるよ。サムと母さんはどうだ?」
 「元気にやってるわよ。サムは今日からバスケットのクラブに入り始めたわ。週二回あるらしいの。私と有里美で送ってる。けど、あなたが死んだなんて聞いたら心臓発作で倒れかねないわ。本当に。気をつけてね。」
思えばもう自宅のほうも忙しくなる時間帯だった。
 「大丈夫だよ、きっと。信じてくれてればまた直ぐ帰ってくるから。愛してるよ、メアリー。」
そう言いきると、加藤は電話を切った。
 直後に指揮官からの連絡も入った。どうやら南シナ海に海軍がすでに配置されているらしい。十数年前から中国の赤い舌と呼ばれてきたこの領域は押さえておけば有利に戦争を進められるであろう。集合は明後日、ベトナムの港、ハロンから駆逐艦に乗り込むことになった。それにしても、中国が次にどう出るのであろうかは不思議であった。アメリカとの戦争なんて出来ることならどこの国も避けてきた。あの、北朝鮮でさえも寸前までは行ったが和解の策を見つけて安定したというのに。
 心配することは山ほどあった。だが、悩んでいても仕方がないので加藤はトレーニングをしにグラウンドへと走り出た。真夜中だが、大体の広さは分かっているし、ヘッドライトさへあれば十分と思えた。一人かと感じていたが、反対側にも明かりが見えた。
 「こんな時間に訓練だなんて張り切ってるな。デイビット・加藤だ。よろしく。」
近くに寄ってみたら、女性であることに気がついた。
 「あなた、どこの所属?陸軍、それとも海兵隊?」
 「海兵隊だ。服装からしてあんたは陸軍だな。しかも位は少し高いってか?」
加藤は細かなことを記憶にとどめるのに長けていた。自分の所属じゃない部隊等のこともだいたいは知っている。
 「見事ね。あたしは、ケイト。ケイト・ミット。あなた、海兵隊なら暗殺計画に関わったのよね。成功、おめでとう。」
心から言っているようではなかったが、それでもうれしかった。それから一時間、彼女と共に自主訓練に明け暮れた。
 翌日になって、加藤の身体には異変が合った。筋肉痛だ。昨晩の自主練で、ケイトは思った以上についてきていた。それに負けじと張りきったはよかったが、こうなるとは加藤自身も思わなかった。今日は休みたかったが、海兵隊もそう甘くない。陸軍との合同訓練に参加しなければならない。しかも、泥の中での作戦を模擬したものでいつもより間つらさは増すであろう。リーが隣の寝台を使っていたので声をかけた。
 「よお、夢に自慢の嫁は出てきたか?お前も明日は俺と同じ海軍の下へ配属されるのか?」
身支度をしながら、リーは答えた。
 「笑えるぜ、デイビットよ。配属の話だが違うとこを希望したんだ。だが、願望は通らずお前と一緒ってことよ。またお前の間抜け面を見続けないといかんのか。まったく。」
こうは言っているものの、リーの顔には笑みがこぼれている。ここで、ボークから冷静なこえでせかされた。
 「訓練に遅れると量が倍になるらしい。しかも連帯責任だから他の奴らににらまれたりするぞ。好んで遅れる奴なんていないが、お前らはどうだ?」
時計を見ると、後十分で遅刻になる時間だった。三人はテントを急ぎ足で後にした。
 泥沼での戦闘訓練は思っていた以上に過酷なものであった。足は取られるは、引き金を引くのでさえ通常よりも労力を伴う。そんなこんなで忙しくしていたら、指導官からアドバイスがでた。
 「怠けてんじゃないぞ!泥なんか気にするから足手まといになるんだ。強く踏ん張りすぎずに行動してみろ。銃についても同じだ。よく言うだろ!引き金は軽くってな!」
加藤たちはコツをどうにか掴んできた。だが、ひとりの陸軍兵は相変わらず苦戦していた。それに痺れを切らした指導官は、加藤たち全員にグラウンドを走らせるという手段に出た。
 「俺にはわからん。未だこんな厳しい訓練をしてる時代だなんて。もし俺が天才だったらターミネーターでも何でも、瞬時に作ってやらぁ。」
リーの口から愚痴がこぼれている以上はまだまだいける証拠だろう。彼は本当に疲れると口が利けなくなる。加藤自身は家族が心配であった。なにせ中国が相手だ、どんな手に出てくるか分からない。本土到達するのはアメリカが先であると信じるしかなかった。
 ついに身体が折れると思ったところで休憩の合図が出た。加藤たち海兵隊も、休養を取ろうと基地の方へ戻っていった。が、着くと同時に言われたのは移動についてだった。
数分後、リーはあまりの忙しさに根を上げようと思ったが誰一人として抵抗しない様子だったので自分も気持ちを抑えた。次に配属される海軍は最先端の駆逐艦をしようしていた。ここ数年でアメリカは個人の技術を尊敬する国になっていた。ことあって、軍の装備等についても民間の会社が複数成り立っていて、その大多数のものを、M・W・I(Mitsuki Weapons Industries)が占めていた。社長は日本人である。社長自らが設計を担当し、ここ数十年は不要になっていた戦艦も、得意の技術で埋め合わせをし、現代に蘇えらせていた。


 二月二日、海軍第三部隊、南シナ海の第五駆逐艦、午前五時過ぎ。加藤たちが海軍と合流してから、2時間経過
 「船長。海兵隊の奴らは本当に使えるのでしょうか?」
身分を弁えずに発言した一般海軍兵に、船長は怒鳴ってはいないが叱りの言葉を与えた。代わりに隣にいた一等航海士が答えた。
 「とりあえず、彼らはずなんでも言うことを聞く、腕前もそこそこの集団だ。あの暗殺計画にも今回は関わっていたらしい。それに俺は敵同士ではない。なにもいがみ合うことはないだろう。」
 そんなことを話している合間に、その海兵隊も含め甲板に全員が揃った。船長も同席していた、だが彼の挨拶は省かれて朝礼が始まった。
 「今日ここには海軍の中でも選ばれた人員が集まっている。加えて、海兵隊からも応援が来ているから協力するように。知っての通り、中国による戦争はすでに始まっている。アメリカとしての仕事はそれを完全に沈滅させること。君たちには強く期待している。以上。」
 この後も身分の上の者からいくつか話があったが、どれも同じような内容のものだったので終わるころには誰もが立ち疲れていた。
 同時刻、太平洋上 ハワイ、マウイ島のヒッカム米空軍基地にて。
 「こちらっ、、、、」
 異様とまで言えるような静けさの中。いや、完璧に静かなわけではなかった。なにせ攻撃を受けた後の基地だ、静かなわけがない。けれど彼にはそう聞こえた。その男は、つながっているかも分からない、近くに転がっていた無線に向かってしきりに話しかけていた。
「こちら、ヒッカム空軍基地。中…中国による…」
 男の声は、煙と火花であふれる空間へと吸い込まれていった。

人生と戦争

次回作も書いていきたいと思っています。もしよかったら、また読んでください。

人生と戦争

時系列としては、今よりも未来の話ですが。題名にもある通り、戦争についての作品です。主人公はハーフの設定です。

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • 成人向け
更新日
登録日
2016-08-03

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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