浮遊と落下
コンクリートの世界が崩壊するゆめをみた。どこまでも一緒だよって笑えるのは、わたしたちまだどこにも行けない二人だからだよ。わたしはそれを口にせず、甘い炭酸水と一緒に体の底に落とした。炭酸の刺激がのどに残ったままだ。ちりちりと柔らかい痛みが、気持ち良いほどこの部屋は優しかった。優しいフリをした、空気ばかりがあつまった。
「ねえミミ」
わたしは猫じゃないんだよ。きみの所有物じゃないんだよ。そんな風に、そんな優しい目をして呼ばないで。
「あの時どうすればよかったとか、どう言えばよかったとか、そういうの全部無駄だと思わない?」
彼の口調はどこか遠くのわたしの知らない人に語り掛けているようなそんな気がした。それでも視線はばっちりとわたしの瞳の中を覗いていて、視神経を伝って彼が、彼の存在をわたしは認識してゆく。
そんな風に、すべてを無駄だと言ってしまう彼が、時々とても可哀想に思ってしまう瞬間がある。きみはどこにいきたいの。どこに、なにになりたいの。ねえもう無理だよ。きみには無理だよ。きみはなにも変わらない、変われない。後悔を、努力を無駄だといえるきみに、今のきみにどこにも飛んでいける空なんてないよ。ねえ、もう諦めよう。
炭酸の刺激に心揺らされて、冷房の乾いた空気がのどにまた別の刺激を与えていく。
「そう、だね」
わたしが猫だったら、きみはどうするの。
浮遊と落下