恩師
Rは可愛い奴だ。
「世の中そんなに、単純じゃないってことだよ」私はそう言った。
歩いていると、Rと出会った。
Rは最近、彼女に振られて、めっきりやつれた。
私は彼に自販機でドデカミンを奢ってやり、河原に並んで座った。
「生きてるって、なんなんすかねー」
「お前女に振られたくらいでそこまで考えるの?」
私は生茶を飲みながら、ピンクのTシャツを着ている彼を、「若いな、あんた」と言った。
彼は、「順子さんは、そりゃ都会にも出て、実家も金持ちで結婚なんて考えてもいないでしょうけどー」と言い、「知ってますか、一人で犬飼う女って、かなりやばいんですよ。そして順子さんは、そん中でも誰よりもやばい」と言うので、「そりゃ私は、やばい橋いっぱい渡ってきたからやばいけどさ」と私は言い、「昨日お前がちっさい声でブースっつったの一生忘れねえかんな」と笑ってやった。
Rは、悪事に慣れていないのだろう、少しびくっとして、「すんません」と頭を下げてきた。
「だからさー、汚れろってことだよ、生きていくっていうことはさー」と私は言い、「でも、そん中でもお前はめちゃくちゃマシな方だよ、良かったね」と言ってやった。
Rは、何か考えていたが、ドデカミンを一気飲みすると、「順子さんの辛いとこ、ちょっとわかったかも」と言い、ドデカミンを川へ向かって投げた。
途端、「こらー!!」とごみ拾いをしていた老人が叫び、こちらに向かって走ってきた。
私たちはびっくりして、慌てて立ち上がり、走って逃げた。
100Mほど走ったところで、Rは立ち止まり、「何、さっきの人、順子さんより超やべえ」と言い、私は「いやお前が悪いんだよ」と言った。ぜいぜいと息が切れる。
橋の下から、段ボールに住む人が出てきて、「あんちゃんら、青春だのう」と言って、酒を飲みながらガハハと笑ってどこかへ行った。
私は、「今の人の方が超やべえよ」と言い、Rは「・・・なんか俺の悩みなんかどうでもいいかも」と言い出した。
そうだよ、始めからそう言ってんじゃん。
私は、「お前なんか、贅沢もんだよ、だって恋できるんだもんな」と言い、Rは「そうっすね、順子さんに比べたら」と笑った。
私も笑ったら、Rが「順子さんは宝の持ち腐れっすねー」勿体ない、と笑って言った。
それを言うなっつうの。
「要はさ、性格の問題だよ」
「えー、順子さん良い人なのに」とRが不思議そうに言い、私は「大人の世界には、色々あんのよ」と答えた。
「ところで、みんなに私とは話すなって言われなかったの?」
そう聞くと、んー、とRは考え、
「俺って考える頭ないからなー、大体直感?」
順子さん、良い人オーラすごいし、と言われ、私はなんじゃそら、と白目を剥いた。
頭の上を、新幹線が通過していく。
トンボが飛ぶ川べり。
恩師
何もいえねっす。