おサルちゃんのおでこ
幸せな君。
「富士額なんだよね」そう言って、彼女は前髪をめくった。
富士額なんだよね。
彼女がそう言って、生まれて初めて私に前髪の下を見せた。
普段から、前髪の下などあまり見る機会がない。
私はその富士山を描いたおでこを見てケタケタ笑い、「おサルさんだ、おサルちゃん!」と指差して言った。
彼女は膨れて、「それ中学生の時も言われたー」と言って私をぽかぽかと叩いた。
私は「ごめんごめん」と落ち着いてから、しばらく考え、たまたまやっていたニュースを見て、「あれじゃない、君、舞妓さんになれるよ」と言ったら、本気平手打ちがきた。
おっと、と避けると「よけんなよー」と言って彼女が怒った。
「いやでも可愛い、可愛いよ、可愛いって」
そう言うと、むーっとこちらを睨みながら、「私って、生まれた頃からこういった不幸せを背負って生きてきたのよねえ」と言うから、「富士額の?」と聞くと、こくんと頷くのでまた笑った。
「君の不幸がそんな可愛らしいものでよかった」
半ば本気でそう言いながら、私は涙を拭った。
なによー、他にもいろいろあんのよー、と言う彼女に、「何、それでいじめられたこともないでしょうに」と返しながら、私は彼女の伸びやかな将来性に思いを馳せ、とても幸せなような気がした。
「君はきっと、幸せになるね」
ほら、富士額って、幸福の証って言うし、と言うと、「ほんとー?」と彼女は本気にして、鏡を覗き込んで、富士額を晒している。
私はその様子を見て、また一人ぐふふ、と口を抑えて笑った。
おサルちゃんのおでこ
天然な女の子。