スマホ幽霊ゲーム

小説化になろうと同じものです。

スマホ幽霊ゲーム

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「封印表、どの程度埋まった?」
 永沢まどかは、となりの谷崎誠司のスマホをのぞきこんだ。
 泡を食ってスマホを隠す誠司に、まどかは笑った。まだ誠司のスマホ封印表は、一個も埋まっていなかったのだ。

 夏休み。星形の五芒星を使って妖怪を封印する位置ゲームが流行っていた。高校一年生のまどかは、クラスメイトの誠司に誘われて仕方なくはじめたが、今では逆に、まどかのほうがハマっている。
 まどかにからかわれた誠司は、自分の封印表はすぐ埋まると豪語した。スタート時点からまったく表が埋まっていないのに、よく言えるとまどかは再び笑った。

というわけで、誠司はまどかを連れて、町外れの寺にやってきた。
 そこは石垣も壊れた廃寺で、行き来する人もあまり居ない。
 だんだん日も暮れてきて、まどかは心細くなってきた。
「誠司ィ。こんなところに、妖怪が居るの?」
「オレの発明した妖怪ブレスレットが反応している。間違いなく、妖怪はいる!」
 誠司は、左腕の虹色のブレスレットを示し、断固としてその廃寺に入り込んでいく。まどかは、しばらくためらっていたが、
「誠司……、ひとりにしないで……」
 おぼつかない口調で言い、ころがるように中に入っていった。

入ったとたん、すうっと首筋に生暖かい風が吹いてきた。
 セミの声がパタリとやんだ。今にも崩れそうな寺の中は、薄暗くて生臭いにおいが立ちこめていた。
 それだけでも気味が悪いのに、だんだん光が薄くなってきて、見える範囲が狭くなってきている。
 誠司の姿が、遠くかすんで見える。
「居るぞ、居るぞ! 妖怪だ!」
 スマホをかざして、小躍りしている。
 円筒形の物体が、ぼうっと奥の方で光っている。
「あやかし行灯(あんどん)だ! 幽霊の一種だよ」

 誠司は、興奮している。まどかはスマホとあやかし行灯を見比べた。
「え、まさか、本物……?」
 突然あやかし行灯が、ぎろり、と目を開いた。
 血走った目がぶら~んとぶら下がるような気がして、まどかは気分が悪くなってきた。
「誠司、もう戻りましょう?」
 呼びかけると、向こう側でスマホを振り回していた誠司が、不気味な声で笑っている。
「やっと……、やっと本物に出会えた! もう、逃がさない!」

 金切り声のように叫ぶと、誠司はあやかし行灯に向けて、突っ込んでいく。
「やめて! やめて!」
 まどかは、悲鳴を上げた。
「けけけけ」
 あやかし行灯は、大きな瞳をぎろぎろさせて、妙な声で嗤う。
「誠司、戻ってきて! 危ないわ!」
 まどかは、あやかし行灯の悪意に満ちた瞳に、ぎょっとするのを感じた。
 あの行灯は、ただの妖怪じゃない!

「とりついてやる……、そして人間界を混乱させてやる……」
 あやかし行灯は、甲高い声でわめいた。
「誠司!」
誠司の背中に突進したまどかは、ブレスレットに手を触れた。
 バシッと電流が走り、はじかれて手を離すまどか。
 誠司とあやかし行灯の間には、すでに黒い霧のような空気が漂っている。キロキロと輝く青白い炎が、行灯から閃いた。黒い霧がますます濃くなっていく。
「誠司、誠司!」
誠司の背中に、むしゃぶりつくまどか。

「けけけけけけけけけ。抵抗は無意味だ」
 あやかし行灯は、底意地の悪い声で叫ぶ。まどかは、そいつを押しのけようとしたが、空気を押しただけだった。しかもその空気はねっとりしていて、血のように生臭いにおいがした。
このまま、誠司がこんなのにとりつかれたら……、と思うと、まどかはいてもたってもいられなかった。なんとかしなければならない。だが、どうする。

 ふと、スマホを見た。アイコンで五芒星が描かれている。
 ゲームでは、これで妖怪を封印する。もしかして、現実でも……?
 まどかは、そのゲームを起動してみた。
 楽しげな音楽とともに、妖怪あやかし行灯がアニメ画像で現れる。現実と同じ画面だ。
 あやかし行灯は、少し慌てたようだった。
「やめろ! やめるんだ!」
 あやかし行灯はそう叫んだが、まどかはやめなかった。

 ゲームの五芒星を、スマホ画面から投げつける。
 ひょいっと行灯が、星をかわす。
 キラキラ光りながら、五芒星が消えていく。
「うるさいアマめ、誠司よ、あいつのスマホをとりあげろ!」

 あやかし行灯が命じる。
 ゾンビのように、誠司が足を引きずってこっちにやってくる。
「抵抗は無意味だ……」
 まるで能面のように無表情で、誠司は言った。
 スマホに手をかけられ、無理やり奪われたまどかは、壊される前に自分のスマホに叫んだ。

「音声検索! 五芒星!」
 すると、スマホはピピッと音を立てて、音声認識で本物の五芒星の画像を検索表示した。
「もうあきらめなさい! 成仏するのよ!」
 まどかは、スマホをかざして叫んだ。
「ぎゃ~~~~!!」
 行灯はすうっと消えていった。
「あれっ? オレ、なにしてたの?」
 誠司は、きょとんとした。



 のちにまどかは、近所の神社の神主に頼んでお祓いをしてもらった。
 妖怪封印ゲームは下火になり、今は別のゲームが流行っている。

スマホ幽霊ゲーム

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夏休み。高校一年生のまどかは、クラスメイトの誠司とともに、スマホ幽霊ゲームに夢中。そんななか、廃寺に行くと誠司が言い出して……

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-08-01

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