うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(1)

一 うんこ大王登場

 今日は日曜日。休みの日だ。学校のある日は朝、六時半には起きるけれど、休みの日は九時過ぎまで寝ていた。パパもママもまだ眠っているのか、起こしに来ない。まだ、ふとんの中にいようとマンガの本を手にする。だけど、急にお腹が重くなってきた。だめだ。僕は飛び起き、トイレに駆け込んだ。
 ふう。すっきりした。レバーを回そうとした。すると、 ジャジャジャーン。溜まり水から、何かが飛び出して来た。うんこ大王た。
「こら。いつも言っているだろう。ちゃんと、自分が出したうんこを見ないといけないと。うんこを見れば、その日の体の調子がわかるんだから」大王は腕を組んだまま、眉をしかめている、
「はい」大王の強い口調に、僕は頷くしかなかった。でも、うんこ大王と会うのは久しぶりだ。なんだか懐かしい。
「それに、なんで、今まで我慢していたんだ。健康のためには、いつも同じ時間にトイレをするのがいいんだぞ。今日は、今、何時だ」
「ええと。九時半ぐらいかな」
「ほら、みろ。いつもよりも三時間以上も遅いじゃないか。わしが出でようにも出られなかったぞ。だから、強引に出たんだ」
「あっ、そうか。だから、急にお腹が痛くなったんだ」
「おかげですっきりしただろう」大王はしたり顔だ。
僕は引っこんだお腹を触る。そうか。寝ることや起きることと一緒で、毎日、同じ時間にトイレに行く方がいいんだ。
「わかったよ。休みの日でも、同じ時間に、トイレに行くようにするよ」
 僕はそう言うと、トイレのレバーを回そうとした。
「待て、待て」大王が止める。
「どうしたの。まだ、話があるの?」
「話と言うよりも、頼みじゃ」
「頼み?」首をひねる。これまで大王からは、なになにしろ、とか、なになにするなとか、命令ばかりだった。急に、頼みと言われて、とまどった。
「実は、わしを外の世界に連れて行って欲しいんじゃ」
「外の世界?」
「そうじゃ。以前、王子が小学校に行ったように、わしもどこかに連れていって欲しいんじゃ」
「今日は、学校は休みだよ」
「学校は王子が行ったから、いい。今日は休みだから、家族でどこかに出掛けるんじゃないのか?」
「どうかな?」パパやママはまだ寝室だ。休みの日は僕と同じように、パパやママも遅い。いや、僕以上に遅い。パパは普段の日は、朝早くから仕事に行って、帰ってくるのは晩遅くだ。だから、その反動なのか、休みの日は、起きるのが遅い。今日、お出かけするかどうかはわからない。
「出掛けなくてもいいぞ。久しぶりに外の世界に出たいんじゃ。じゃあ、頼むぞ」
と、言う間もなく、大王はたまり水から飛び上がり、僕のパジャマの胸ポケットに飛び込んだ。
「ひゃあ」濡れるじゃないか。それに、臭うんじゃないか。僕は慌てた。
「心配するな。表面張力で、濡れやしないし、臭いもしない。もちろん、ファブリーズもいらないぞ」
 大王は僕の心配を見透かしたかのように平然と答える。
くん、くん。確かに臭わないし、胸ポケットも濡れていない。ほっとする。
「でも、これはパジャマだから、すぐに外出着に着替えるんだけど」
「じゃあ、早く着替えてくれ。折角、外の世界に来たんだから、一日を有効に使いたいんじゃ」
 僕は大王に言われるがまま、急いでポロシャツを被り、ジャージを履いた。大王はパジャマの胸ポケットからポロシャツの胸ポケットに飛び移り、顔を出して辺りを見回している。
「出発、進行!」まるで、船長みたいだ。
「出発って、どこに行くの?」
「どこでもいい。まずは、近所を散歩してくれ」
「散歩?」
「そう、散歩だ。散歩をすれば近所のことがよくわかっていいぞ」
「散歩ねえ」僕が首をかしげ、あいまいに答えた。家の周りなんていつも歩いている。わざわざ散歩する必要はないんじゃないか。
「お腹の中では、わしの部下は、わしの命令に、アイアイサーとひとつ返事で動くぞ」大王が威張っている。確か、大王からは外の世界に連れて行ってくれと頼まれたはずなのに、いつの間にか、命令されている。仕方がない。僕はポロシャツの胸ポケットに大王を入れたまま、家の外に出た。
「外はやっぱり気持ちがいいな。空気が新鮮だ。それに、いい匂いがする。これは、何の花だ」
大王はポケットから顔を出し、僕に尋ねる。でも、花の名前なんかあまり知らない。知っているのは、朝顔とひまわりと菊と菜の花ぐらいだ。
「知らないんだ」正直に話す。
「ふーん、そうか。もちろん、名前を知ったからと言って、その花のことがわかるわけじゃないけどな」
 大王がしたり顔でうそぶく。
「でも、名前を知ることから、その花のことを知りたくなるんだ。相手に関心を持つことは大切なことなんだぞ」
 大王がにやっと笑った。僕は大王の言う意味がよくわからなかったけれど、家に帰ったら、図鑑であの花のことを調べてみよう。

うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(1)

うんこ大王とおしっこ王子(大王街に行く編)(1)

一 うんこ大王登場

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-30

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