【歌小説】嵐『Love so sweet』より

【歌小説】嵐『Love so sweet』より

嵐の楽曲『Love so sweet』をもとに書いた話です。
登場人物はモブみたいなもので、適当に名前を付けました(笑)
容姿等、読者様のご想像にお任せします。

今日は朝から雨が降っていて、どんよりとした空の様子は、俺の心のうちを表しているようだった。
俺は別に何をするわけでもなく、ただベッドに寝転がって、部屋の天井を眺めていた。
そして、スマホを手に取り、昨日送られてきた1通のメールを見る。

『ごめん、もう別れよう・・・。
今までありがとう。
―――優衣奈』

そう―、俺は昨日彼女にフラれた。
優衣奈は大学に入ってから組んだバンドメンバーの1人で、最初から仲が良かったこともあり、自然と付き合う形になった。
が、それから2年・・・、最近優衣奈の態度が冷たくなったように感じていた結果がこれだった。
「別に・・・こっちだって冷めてきてた感じだったし・・・。」
俺はスマホをソファーの方に放り投げると、枕に顔を埋めた。


暫く眠っていたようで、スマホの着信音で目が覚めた。
陽が落ち始めていて、雨はあがってはいたが、相変わらずどんよりと曇っている。
「誰だよ・・・。」
俺はゆっくりと起き上がると、電話に出る。
「もしもし・・・。」
「圭悟!俺だ!」
相手はバンドメンバーの蓮太だった。
「蓮太か、どうしたんだよ。」
「あ、あのさ・・・、すげー言いにくいんだけどよ・・・。」
「何だよ、どうしたんだよ。」
「お、おう・・・、その・・・だな・・・。」
蓮太はなかなか本題を言おうとしない。
「おい、早く言えよ。」
「・・・優衣奈、のことなんだけどよ・・・。」
今1番聞きたくない名前を聞いてしまった俺は、軽く機嫌を悪くする。
「・・・優衣奈がどうしたってんだよ。」

「・・・・・・・・・圭悟、今すぐ空港へ行け。」
「は?何でだよ・・・。」
「いいから・・・今すぐ空港へ行け・・・!」
「いやいや、意味分かん」
「優衣奈が引っ越すんだよ!!」

蓮太の言葉を聞いた途端、一瞬時が止まったように感じた。

「・・・今、何て言った?」
「だから!優衣奈が引っ越すんだって!!」
蓮太が電話の向こうで声を荒げている。


「・・・・・・・・・いや、行かない・・・。」
「はあ!? お前何言ってんだ!?」
「どうせ、俺、フラれたし・・・。」
「ばっ・・・! お前っ、それはだな・・・!」
「あいつのことなんか、もう、どうでもいいし・・・。」
「それは優衣奈がお前のことを考えてやったことなんだよ!!」
「は・・・?」

俺は蓮太が言ってることの意味が理解できなかった。

「優衣奈が引っ越すなんて知ったら、お前絶対止めるだろ? お前の性格じゃ、すぐ受け入れねぇだろ!? 優衣奈にとってはそれがつらいんだよ! 1度決心したのに、お前が止めれば別れがよりいっそうつらくなっちまう・・・。優衣奈にはそれが耐えられないんだよ!!」
「じゃあ・・・最近冷たかったのも・・・。」
「あぁ・・・、それだって優衣奈が考えてやったことさ。いきなり別れようなんて言えば、お前がすぐ受け入れないと思ったから・・・。」
「・・・・・・・・・。」
俺はしばらく思考が止まっていた。何も、言えなかった。


「・・・圭悟?」
「お前は・・・。」
「え?」
「蓮太は・・・、最初っからそれを知ってたのか・・・?」
「そっ・・・それは・・・。」
「何で知ってて早く言わないんだよ!!」
「ゆ・・・優衣奈に止められてたんだ・・・。他のメンバーだってそうさ、『圭悟にだけは、絶対言わないで。』って・・・。」
「・・・あのバカ!!」
「・・・まだフライトまで時間がある! 今からならまだ間に合う・・・!」
「くそっ!」
俺は電話を切り、スマホだけポケットに突っ込むと、部屋を飛び出した。そして、バイクにまたがり、急いで空港に向かった。



空港に向かって高速をとばしている間、今までのことが自然と頭の中に浮かんできた。
いつも明るくて、面白くて、一緒にいる時笑わないことはなかった優衣奈―――。
頑なで意地っ張りな性格のせいで、俺がバンドメンバーと衝突した時も仲立ちをしてくれた優衣奈―――。
俺が1人で立ち直れないような状態だった時も、ずっと俺を励ましてくれた優衣奈―――。
俺はこみ上げてくるものを振り切るように頭を振ると、スピードを上げた。



空港に着くと、入口のところに蓮太が立っていた。
「蓮太・・・。」
「! ―――圭悟! 早く、こっちだ!」
俺は蓮太の案内で、人がだいぶ少なくなった空港内を走った。

すると、搭乗口へと続く通路の入口に入ろうとしている優衣奈を見つけた。
「優衣奈!!」
「!? ―――圭悟!?」
圭悟を見た優衣奈は目を見開いた。そして、その後ろに蓮太の姿を確認する。
「ま・・・まさか、蓮太・・・。」
「優衣奈・・・!」
「待って! 何も言わないで!」
優衣奈は圭悟を制するように手を前に出した。
「優衣奈・・・。」
「止めないでよ、圭悟・・・。私はもう、決めたの・・・。圭悟に止められたら・・・、私、ますます別れがつらくなるから・・・。」
優衣奈が嗚咽をもらす。
「私だって、みんなと・・・、圭悟と離れたくないよ・・・。でも、自分のやりたいこと見つけたから・・・。―――・・・圭悟、いつも言ってたじゃん?やりたいことは我慢しちゃいけないんだって・・・。だから、私もそうしようって、思ったんだよ・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「ひどいやり方をしちゃったことは、謝る・・・ごめん。でも・・・、こうでもしないと、圭悟・・・受け入れてくれないでしょ・・・?私が一番、圭悟の性格分かってるんだからね・・・。」
涙を浮かべながら、優衣奈は軽く笑った。


俺は黙ったまま優衣奈に近づき、抱きしめた。
「!」
「本当、いっつも優衣奈に気遣わせちまって悩ませちまって・・・。俺って最後までダメな彼氏だったな、ごめんな・・・。」
優衣奈は嗚咽を堪え、震えながら首を振る。
「そうかー、やりたいこと見つけたのか・・・。―――どこ行くんだ?」
「・・・ちょうど、お父さんが転勤だったの、イギリスに・・・。」
「イギリス? 外国かよ! 自分のやりたいこと叶えるために外国行くなんて、すげーな優衣奈は! 俺だったら絶対できねぇよ! 俺の自慢の彼女だぜ、本当・・・。」
優衣奈はひたすら首を振っている。
「・・・止めねぇよ、俺。優衣奈のやりたいこと、思いっきりやってこいよ・・・。応援してっからさ・・・。」
「・・・・・・・・・うわぁーん!!」
我慢していたものが溢れたように、優衣奈は俺の腕の中で激しく泣いた。
そんな優衣奈を、俺は思いっきり抱きしめた。
この感触を、温もりを忘れないように・・・。



暫くして、優衣奈を乗せた飛行機は、茜色の空へ飛び立って行った。
俺と蓮太は、外から飛行機を見ることができる、屋上のような場所へ来て、飛行機を見送った。
「・・・・・・・・・何泣いてんだよ。」
「泣いてなんかねぇよ・・・。」
そう言う蓮太の目元には、明らか涙を流した跡があった。
「それより、それ・・・見ねぇのかよ。」
蓮太が俺の腕にある1つのファイルを指差す。
「ん?・・・あぁ、これか。」
このファイルは、優衣奈が行く直前に俺に渡してきたものだった。


『―――あのさ・・・、これ、受け取ってくれる?』
泣き止んで落ち着いた優衣奈は、カバンから1つのファイルを取り出し、差し出してきた。
『何だ? これ。』
『いいから、受け取ってよ。』
『お、おう。』
『私の代わりだと思ってさ。』
『こんなんじゃお前の代わりになんかなんねぇよ。』
『はは、そうかもね。・・・あ、私が出発するまで、見ちゃダメだからね・・・?』


「何が入ってんだろうな・・・。」
俺はファイルを開いた。
「・・・・・・・・・これは・・・。」
ファイルの中には、1曲の楽譜が入っていた。
「そう、優衣奈が書いたやつだよ。」
「優衣奈が・・・?」
「優衣奈曰く、今までの俺達との・・・お前との思い出を歌にしたんだと。」
「・・・・・・・・・。」
俺は言葉が出なかった。ただただ、楽譜を眺めていた。


「・・・歌ってみないか?それ。」
「え・・・。」
「練習したんだぜ? みんなで。」
蓮太は持ってきていたギターを取り出す。
「優衣奈がそれ書いてる時、たまたま俺達見つけちゃってさ。そっからお前以外のみんなで練習さ。すぐお前に聴かせられるように。・・・俺達のボーカルであるお前なら、歌えんだろ。」
「・・・・・・・・・。」
「思いっきり歌えよ! あの空にいる優衣奈に届くようにさ!」
そう言うと蓮太は弾き始めた。
前奏を聴いて、すぐに分かった。この曲調は、優衣奈がとても好んでいたものだと。
俺は優衣奈を乗せた飛行機が飛び立っていった方向を向き、大きく息を吸うと、この空に響くように、力の限り歌った。


歌っていくうちに、今までの思い出が甦り、自然と涙が出てきた。
俺は幸せだった。こんなに俺を笑わせてくれて、支えてくれて、最後まで泣かせてくれる奴が他にいるだろうか。もうこんな奴には、2度と出会わないかもしれない。

俺は願う。お前の幸せを、お前がもっと輝くことを。

俺は忘れない。お前のことを、お前との思い出を。
この歌が存在する限り、俺はいつもお前を感じていよう。

聴こえていますか?
この声が、この想いが、この願いが。

涙ではっきりと見えない視界の中に、飛行機が飛んで行った方向にぼんやりと浮かぶ月があった。
俺はその月に向かって手を伸ばす。


「♪伝えたい想いは1つ・・・!

大好きだ。」



―――END―――

【歌小説】嵐『Love so sweet』より

『歌小説』というものをやってみようと思い、初めて書いた話がこれになります。
個人的にですが、話の終わり頃に曲を流しながら読むと、より一層雰囲気が出ると感じてます(笑)
下に本人のものではないですが、楽曲のリンクを貼っておきます。曲を流しながら読んでみてください。
https://youtu.be/2vHEstmWjfc

【歌小説】嵐『Love so sweet』より

嵐の楽曲『Love so sweet』をもとに書いた話です。 突然大学のバンドメンバーだった彼女から別れを告げられた圭悟。 理由も分からず、沈んだ気持ちを払拭できないまま、ただ自室にこもっていると、同じくバンドメンバーの蓮太から電話が。 出てみると蓮太は凄く慌てている様子で…。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-28

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