ロード

外へ

 裏山から初秋の風が僕の小径に吹いている。色ずき始めた樹々の枝から落ちた黄色い葉が、雨上がりのアスファルトに張り付いている。
 僕は、納屋からバイクにまたがり、国道へ出て行く。雨上がりの大気がすみ渡り、いつもは霞んでいる山々の緑が、青い空を切り取っている。風に舞う鳶の黒い影が、空を舞う。僕の聴覚に響くエンジン音と、タイヤの振動が、突き進む空間を時間に変容させて遠ざかって行く。
 何処で見えるのだろう。あの過去の記憶の形象が浮かび上がる。その時まで、帰ることがあるのだろうか。予知した30メートルの先の未来が、30年前の記憶を浮かべる。風が僕の未来を押し戻して行く。
 もし朽ちた枯葉が、風の道にまたがり川の源流まで飛び舞っていったならば、今のこの手の中にあった感触が消えて行く幻覚に襲われている。
 あの日、定かでない記憶が僕の過去の幸福を懐かしむほど膨張するのを誰も振り向かない。池で窒息した鯉の銀色の鱗と、初夏の幸福な陽射しが混わっているだけの時間だ。二度と忘れ得ぬ転機でもない泡沫の水面の記憶を浮かべるているだけだ。
 僕の未来と、君が言う土に埋もれた太古の黄金が突然蘇るってことがあるのだろうか。飛び去る景色を振り向くなど、

 そうして君は自分の物語を作って、記憶もない過去を倉庫の白い壁に塗り込める。

 他にあるの?今までに見たことあるの?
 でも、何処かで誰か見つけてくれるって思う。
 林檎が色づくように、君の遠い記憶が、道端の瑞々しい草花のように、毎年繰り返す。この干からびた押し花が、君の不思議な引き金を引いている。僕は話してたよね。『望んではいけない。』
 再び同じ地図の上の双六になるんだよ。何故宇宙の縁で、目がまわっている?

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  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-06-16

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