海の王子様と月のお姫様

美しい2つの世界に2人の男女がいらっしゃいました。
月の世界に住んでいるのはお姫様。海の世界に住んでいるのは王子様です。海と月の世界はいつもどちらがより美しいのか争っていました。
たとえば、月の世界の住人が「さそり座のアンタレスの美しさに勝るものなどない」などと自慢げに言っているうわさを聞けば、海の世界の住人は「いやいや、そんなことはない。私のところのサンゴの森の美しさに勝るものなどありませんよ」とはりあう始末です。こんなきりのない争いをしておりましたが、先程申し上げました海の王子様と月のお姫様は、とてもお互いを愛していらっしゃいました。敵対している世界の相手を好きになっていると周りに知れたら、引き離されてしまうに決まっています。
ですから2人は周りに内緒で、人の目を盗んでは手紙のやり取りをしておりました。月のお姫様からの手紙は、夜の漆黒で染めあげた紙に、星の光でつくったきらきら輝くインクで、丁寧に近況をつづっておりました。また海の王子様の手紙は、波頭を集めた真っ白な紙に、深海の闇を煮詰めた黒いインクで、優しく近況をつづっておりました。
「はやくあなたに会いたいです、王子様」
「私もです、お姫様」
 二人はお互いの顔も見たことありませんでした。私はそんなお二人から手紙を受け取って手渡すただのカモメでございました。しかしカモメはカモメなりに、お二人の幸せを願っておりました。早くお互いの国が仲良くなって、お二人が一緒に住めますように。
 しかし隠しことは長くは続かないということは古来よりずっと言われてきたことであります。取り繕えばその分なにかを捻じ曲げなければなりません。その捻じれのために、お二人の関係が公にされてしまったのです。特に月の国の王様は少々傲慢なところがございましたから、愛娘に裏切られたという怒りはすさまじいものでありました。そして愛娘をかどわかした海の王子様を深く憎みました。
 二つの世界の間で戦争がはじまってしまいました。月の世界は、星の散りくずを海にたくさんふらせました。そして海の世界は、雨をつくりだして雲で夜空を覆い隠してしまわれました。そうなると月の世界は、その雲に毒を混ぜました。その毒は地上のものを少しずつ溶かしていくものでした。海にもその毒は降り注ぎ、水を汚染しました。
 私は争いのさなか、月の裏側に隠されてしまったお姫様にこっそりと呼び出されました。そして一枚の手紙を渡され、「今までありがとう」とただ一言私におっしゃりました。私はその言葉に言いようもない恐怖を感じて、足が震えてきました。お姫様が月の光のような涙をこぼされていたからでございます。
「陽の光が昇ったら必ず手紙を王子様に届けてください。たとえなにがあろうとも」
 それから私とお姫様は夜明けまで空を見ながらお話をいたしました。私の嫌な予感はどんどん強くなって行きました。そしてついに私の目がきらりと光る太陽に目を奪われた瞬間、窓際に腰かけていたお姫様は前触れもなくさっとその身を投げ出されました。私はなす術もなく、海の世界へと落ちていく姫様の姿を見送っただけでございました。
 私は手紙を海の王子様の元へと届けにまいりました。王子様は手紙を読んで、神よ、と嘆きました。手紙をみせられた月の世界の王様は言葉を失いました。
「私たちの世界が争うことで、どれだけお互いの国の人間が死んだことでしょう。それだけ世界を汚したことでしょう。大事な人を失うという苦しみを生みだす戦争は、この世で一番醜いものでございます。私が今夜、命をもってそれを証明いたします」
三日三晩、お互いの国は海の世界へ落ちてしまった月のお姫様を探しましたが見つかりませんでした。みつかったのはただ、お姫様の悲しみの涙が形になったたくさんのいびつな真珠だけでした。

おわり

海の王子様と月のお姫様

海の王子様と月のお姫様

学校の課題でした。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-26

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