カルピス

カルピスの味は変わらない。

最近、一人でできる趣味を探している。

二階の自室で、叔父のアコースティックギターを片手に格闘していたが、ついに敗れた。
どうにも私には、ギターの才能はないらしい。
ジーーーと鳴く蝉の声を聞きながら、一階へ降り、階段の下に積んであったお中元の箱を開け、カルピスの原液を取り出す。
ぬるい水で作った濃い目のカルピスを飲みながら、昔友達の家で薄いカルピスを飲んで文句を言ったら、「どこの家もこんなもんだ」と非難されたことを思い出した。
私は、贅沢飲みなのだそう。

最近、暇が災いして、近所を歩いた時など、「いつになれば男を作るんだ」などと黄色い声をかけられたことなど気にしだして、なんとか自分なりの趣味を見つけ出そうと画策している。

もともと読書の趣味はあるが、あまり周りに貢献しない。
祖母なんかは、「いっそ何もせず、迷惑かけずに過ごしなさい」と言うから、家の掃除などしていたが、それでも文句はぶうぶう垂れて、結局ご老人たちの暇つぶしの会話の種に使われてしまう。

まあ、これも貢献といえば貢献か。

比較的温厚な私はそう考え、ピアノをぽろぽろ弾き出した。
ピアノは得意だ。なんだ趣味あるじゃんと言いたいだろう。要するに、難しいことを見つけたくなったのだ。

愛のあいさつを弾いていたら、母が上がってきて、「きれいな曲よねえ」と言って立っている。
そろそろ別の曲も弾きたいが、作曲できるくらい弾き込んだほうがいいそうだ。私は同じ曲ばかり弾いてから、ぱらぱらと指の運動をして、「ばあちゃんが、うるさいから弾くなってさ」と笑って言った。

母は顔をしかめて、「媼の相手はするな」と言う。私が祖母に被れてしまうのが何より嫌なのだそうだ。
それでも祖母にはずいぶん世話になったし、あれで勉強になるところもあるのだ。一個人としては尊敬している。
「いやあの人は幸せに生きる達人だよ」と言ったら、母はしかめっ面のまま階段を下りて行った。

「アイス食べるー」と聞くので、「カルピス飲んだからいー」と答える。

階段途中の窓から、良い風が入る。
こないだ同級生と鉢合わせして、くすくす笑ってこちらを見てくるので、「こういう時のための度胸だ」と、逆にすっと背を伸ばして歩いたら、何やら小さく固まって意味不明なことをわちゃわちゃと言われ、無視して歩いて行ったら「モテへんくせにー!」と、その未婚の同級生二人は何やら往来で怒鳴ってきて、「なんだあれは」と前を向いたら、向かいを歩いていたおじさんが肩をすくめて見せた。
無言の相槌。

ああいうのが、沢山いて、固まって、ネットやなんかの世界で盛り上がっている。
「どんな世界観やねん」と、その陰湿ぶりに舌を巻く。
男の人なんかに出会っても、そういうことに加担しているんだと思うと気がめいって、出会いどころじゃない。
ただただ軽蔑の日々だ。

私は大根サラダにゴマドレッシングをかけながら、今朝祖母に、「あんたは奇麗な顔して寝てるなぁ」と言われたのを思い出し、「隣の芝生は青く見える」と頭の中で四字熟語を唱えた。
別に、私などただただ普通で、ただ単にやることもなく、沢山眠っているので肌が若いというだけだ。
それに、私には夢中なものが一つあって、今はそれに時間をかけたい。

「ちびちゃーん、ちびちびー」
私は犬が大好きで、今はこの子に時間をかけたい。
犬は可愛らしく、心がきれいなので、嫌な言葉にも反応しないし、賢者のように静かな目をしている。
人間とは大違い。

抱き上げて頬ずりしたら、甘えて「ぐふうううう」とわざと唸ってきて、「これ」とデコピンする。
我ながら甘々に育てたが、大好きなのだから仕方がない。

世界の騒音も、非難も、この子のためなら耐えられる。
愛がすべてだよ、とブログに書く。犬ブログというわけではないから、写真は載せない。

ガラガラガラ、と音がして、祖母が友人を連れてきた。
「千春、お茶淹れてー」
はーい、と返事して、台所へ行くと母がまたしかめっ面をしていた。「イー」と首を振っている。
これも愛故だ。愛情なしには嫌えない。

さて、器選びが大切だぞ、と私はガラスの花柄のグラスにお茶を淹れ、菓子を添えて持っていったら、「またこの子はこんなん使てー」と祖母が孫自慢した。
愛されているな。そう思ったら、小さな子もいたので、「僕、カルピス飲む?」と私は愛想よく聞いた。

カルピス

爽やかに。

カルピス

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-26

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