中二病パンデミック 改札前

ある日を境に広まった奇病、中二病。それは瞬く間に世界中を飲み込んだ。平凡な大学生、有を除いては。
これはそんな彼の日常。

有(ユウ)♂ :正常な青年。周りに振り回され、疲れる日々を送っている。
アル♂  :中二病。自称勇者
レナ♀  :中二病。自称僧侶
ナミ♀  :中二病。自称傭兵

アル「あぁ、なんてことだ。ついにこの時が来てしまった。……皆、すまない。だが、俺は勇者だ。止まる訳にはいかないっ。皆のためにも!」

レナ「アル。あなたのことは忘れない。ええ、神に誓うわ」

ナミ「ちょっとレナ、神に誓うのはまだ早いわよ。アル!ちゃんと達成するのよ!いいわね!もし皆を泣かせることになったら…許さないんだから」

アル「フッ、わかってるさ。生きて切り抜けるさ。……必ずな」

ナミ「有、あなたは何か言わなくて良いの?」

レナ「そうですよ?考えたくはありませんが、もし、これが最後になったら…」

有「え?あ、あぁ。……いや、別に…特にないけど」

アル「そうとも。有、お前は幼少からの友だ。言葉など必要ない。それは、次に(さかずき)を酌み交わす時までとっておくさ」

レナ「そうでしたね、ごめんなさい。不粋でした」

アル「それじゃ、俺は行くぞ」

ナミ「ええ。すぐに追い付くわ」

レナ「ええ、きっと」

有「はよ行け」

アル「あぁ。……行くぞッ!ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


ピピッ


アル「通ったッ!フッ、やはり、他愛なかったな!だが、これが魔王の関門か。俺たちが相手でなければ恐ろしいことになっていただろう」

レナ「流石です!」

有「いいから早く行けよ、改札通っただけだろ」

ナミ「そうね、私たちなら行けるわ、(おく)することは何もないのよ!」

アル「そうだ!恐れるな!ためらうな!呑まれるぞ!」

有「何にだよ、現代社会にか?」

レナ「やはり、恐ろしいですね」

有「恐ろしいな」

ナミ「次は、私が行くわ」

レナ「……あぁ、ナミさん!ご無事で!」(飛び込む

ナミ「レナ!」(抱き合う

レナ「ナミさん。あなたなら行けます。あなたは強い人です。負けてはなりません。常に己を強く保つのですよ」

ナミ「ええ。負けたりなんかしないわ。私たちは、魔王には屈しない」

有「あぁもう、改札前でどんだけ時間消費するつもりだよ!電車出ちまうだろうが!さっさと行け!」

レナ「そうですね、我々の時間は限られています。ナミさん、行けますか?」

ナミ「行くわ。私は、行くわ!」

アル「行くんだ!ナミッ!!」

ナミ「ハァァアアアアアアアアアアアア!!」


ピピッ ブーッ


ナミ「キャアアアアアアッ!!」

レナ「ナミさぁあああああん!!」

アル「ナミィイイイイイ!!」

有「だからチャージしとけって言ったろうが。早くしてこい」

ナミ「ぐふっ」

レナ「ナミさん!今すぐ蘇生を行います!」

ナミ「だ、だめよ。こんなところで魔法を使ったら、後で後悔するわ」

有「後で後悔って、意味被ってないか?」

レナ「そんなことはありません!」

有「あぁはいはい聞いちゃいねえよな」

ナミ「言うことを聞いてちょうだい、レナ」

レナ「でも!」

ナミ「レナ」

レナ「でもでも!」

有「なげえ!とっととチャージしてこい!」

ナミ「……行ってきます」

レナ「くっ!ナミさんがやられるだなんて!なんて恐ろしいっ」

有「怖いのはお前らの方だよ。なんなんだよ」

アル「ナミがやられたのは仕方がない!」

有「お前はお前で切り捨てんのはえーよ」

アル「さぁ!レナ!恐れるな!」

有「おい聞けよ勇者」

レナ「…わかりました行きます!私の勇姿を、(みな)の心に刻み付けます!」

アル「慎重に行けよ。もしもがあったら大変だ。それに、帰ったら一緒に飲みに行く約束だろ?」

有「フラグを立ててどうすんだよ」

アル「さぁ!さぁさぁ!!」

有「慎重に行けよとか言ってたのお前だろうが!なんで煽ってんだよ!」

レナ「い、行きます!勇者一行僧侶、白魔法担当レナ!満を持して、参ります!……あぁ、やっぱり少し待ってください、最後にお祈りを」

有「確かにこれ見てると煽りたくもなるけどよ……」

レナ「天上に住まう神よ。どうか、我々哀れな子羊に救いの手を差し伸べ下さいますよう。この難関を乗り越えられんことを」

有「……終電近いんだが、まだ続くのか?」

レナ「天下に住まう哀れな子羊を。あぁ、神よ。あなたをこんなにも崇め、いとおしく思っている我々へ、一滴足らずでも救いを下さいますようお祈り申し上げます。どうか、このレナに」(ブツブツ祈りを唱える

有「おーい。まだかー?早くしてくれないか?つーか、俺先に行っていいか?」(後ろでレナが唱えてる。

アル「有!そう急かすな。神に祈るのが彼女の生き甲斐なんだ。わかるだろう」(後ろでレナ

有「日本生まれの無宗教がなにをほざいてんだよ。本物たちにブッ飛ばされるぞ」(後ろでレn

アル「偽物だろうが努力できる人は本物さ」(後でr

有「うるせえな、中二病相手にちょっと感心しちゃったろうが」(後r

レナ「さぁ!ではお祈りも終わりました。私が行きます!」

有「はいはい早く行け」

レナ「祈ったお陰で気分が落ち着きました。大丈夫です!」

有「気分の問題だったのかよ。すげえ時間の無駄」

レナ「行きます!」

アル「いっけえええええええ!!」

レナ「ヤァアアアアア!!神よ、幸あれ!帰ったら、あの方と結ばれるためにぃいいいいぃいいいっ!!」

有「最後にフラグ立てやがったあああああああ!!」


ピピッ ブーッ


レナ「…あぁ、ナミさん…。今、今、私も常世(とこよ)へ参ります…一人では…行かせません……」

有「ナミなら今頃あっちでチャージしてるよ」

レナ「最後に、あの人に…会いたかっ……ガクッ」

アル「レェエエエエナァァアアアァァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

有「早くチャージしてこいよ(やかま)しい」

ナミ「……レナ!!」(戻ってきた

レナ「ナミさん!?」

有「おい、お前ら死んだのか生きてんのかはっきりしろよ」

アル「ナミ!自分の蘇生が終わったのか!?」

有「もはや訳わからん。なんだ自分の蘇生って」

ナミ「ええ!さ、レナ。これを受け取って!」

レナ「こ、これは!フェニックスの尾!」

有「切符だろうが」

ナミ「これで、ここを乗り切るのよ!」

アル「ナイスだナミ!」

ナミ「舐めてもらっちゃ困るわ。これでも私、この勇者一行の特攻隊長なんだから!ね、参謀」

有「誰が参謀だこっち見んな。俺はてめえらアッパラパアの仲間になった覚えはねえよ」

アル「照れるのはいいが、今は先に進むことを先に考えよう!」

有「てめえの目には俺が照れてるように見えんのかよ、その目ん玉ビー玉と交換してやろうか?お?」

レナ「それじゃ、もう一回行きます!」

ナミ「ええ!魔王に目にもの見せてやりなさい!」

レナ「ふぅーっ。ヤァアアアアアアアアアアア!!」

ピピッ


アル「フッ信じてたぜ、レナ」

ナミ「ええ、あなたならやってくれると信じてたわ」

レナ「神に、感謝を」

有「お前ら本気で怖いよ。改札通るためだけになんでそんな茶番ができるの?アホ通り越して狂気的だよ」

アル「ナミ。君の番だ!さぁ!」

ナミ「わかったわ!見せてやるんだから。行くわよ!」

有「はいはい、とっとと行くぞ」

ナミ「せやァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

ピピッ ブーッ


アル「な、なぜだ!なぜナミが!」

レナ「ナミさぁぁあああああああん!!」

有「お前……切符買ってきただけで自分のチャージしてねえだろ。なんだよ残金八円て。八円でどこ行こうとしてんだよ。常世(とこよ)か?常世(とこよ)へ行くのか?」

レナ「そ、そんな!私のためにナミさんは!」

アル「ダメだレナ!振り返るえるな!ナミの犠牲を無駄にしちゃいけない!」

ナミ「私の分も、生きて……」

有「おいほらまだナミ何か言ってるぞ。勝手に殺してやるな」

アル「ナミ…彼女は優秀だった…くっ、彼女が生きていればッ!!」

有「うっわ切り捨てにかかりやがった」

ナミ「私の遺品は…故郷の恋人の元に…」

有「お前彼氏いねえだろ」

ナミ「ぐふぁアアアアアアアアアアアアッ!!いやアアアアアアアアアアアアッ!!……ぐふっ」

有「なんで魔王の難関よりダメージでけえんだよ。(えぐ)られるのがわかってんなら自分から恋人とか言い出すなよ」

アル「レナ、有。ナミの遺品は故郷の恋人の元へ届けよう」

ナミ「イヤアアアアアアアアアアアア!くるふぁあアアアアアアアアアアアア!!」

有「お前も傷口抉んなよ。そして思い出したかのような口振りで死人の言葉を引用すんな」

アル「さぁ!最後は有の番だ!」

有「完全にナミを見捨てやがったよこの自称勇者」

レナ「有さん!早く!時間がありません!」

有「お前らのせいだろうが!……はぁ、ほら。Suica2つ持ってるから片方貸してやるよ。ったく、予備持ってて正解だった。早く行くぞナミ」

ナミ「…ふふっ、信じてたわ。あなたは、そういう人なんだって」

有「るせえ。とっとと行け」

ナミ「ふ……ついにデレたわね。見えた!私の春が!」

有「故郷で恋人泣いてんぞ」

ナミ「私に!恋人なんて!いない!」

有「悲しい事言わせてごめん。でもはよ行け」


ピピッ


ナミ「通ったアアアアアアアアアアアア!!」

アル「流石ナミだ!信じてたぜ!」

レナ「流石ナミさん!信じてました!」

有「お前らほど軽い信頼関係は初めて見たよ」

アル「最後は有だ!」

レナ「お早く!」

ナミ「いつまでノロノロしてるの!?急いで!」


有「誰のせいだと思ってんだよ!……あーもう、はいはい。今行きますよ……あっ……終電…………なくなったぞ。どうすんだおい」

アル「……ふむ。今晩は、第一休憩ポイントにあたる有の家で体力回復に努めるとしよう」

ナミ「そうね」

レナ「そうですね」

有「帰れえええええええええッ!!」


──Fin

中二病パンデミック 改札前

中二病パンデミック 改札前

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-24

Copyrighted
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