アンバランス


「これはどういうことだと思う?」

そう言いながら僕の目の前でグーを食らわせようとしたので反射で目を閉じた。でもいっこうに痛みはやってこない。そろりと目蓋を上げるとすれすれの距離で拳は宙で止まっていた。

「叩かないの」
「叩きたいんだけどね、叩けないの。ここに見えない何かがあって、アンタに触れないの」

聞くよりもやったほうが早い。僕の目の前に立つふてくされた子の髪に触れようと手を伸ばす。毛先は傷んでいて、正直汚いけどシャンプーの匂いは好きだ。手に香りが移ったのでそれをほんのり嗅いだ。

「何もないよ。」

手をとって、僕の頬に触れさせてあげる。俯いていた目と曇りのない目がかち合った。

「僕を叩いてよ。」

にこりと微笑むと、強気だった顔の目の中の光が大きく揺れた。目から涙が伝って、傷だらけの頬に流れる。

赤い手で、青く痣のできた頬を撫でてあげた。

アンバランス

アンバランス

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-23

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