荒れた手のマリア
薬で手がいつもガサガサ。
彼女の手はいつも荒れていた。
母の指が曲がってきている。
私には、それを横目に湿布を貼ったり、肩を揉んだりするしか思いつかず、金もないので気の利いたこともできない。
ただ、寂しいときにそばに居る。
それだけだ。
テレビも消して、コロッケを頬張る。
納豆と豆腐さえあればいいよ、と自虐的になり、ちょっとでもご馳走を買われると変に腹がたつ。
私の血税を、あなたはまたちょこちょこと使ったのか。
うちには家具を揃える金もない。
あるもので過ごそうというと、あんたはまるで中年だな、と言われ、そうならざるを得なかっただけだと、笑いもせずに返す。
いい加減、ご機嫌とりにも飽きた。
腐る奴は持ってることにも気づかずずっと腐っとけ。
いずれはどっかで落し物に気づいて取りに来るだろう。
人生大体そんなんばっかり。でも責めちゃいない。逆に褒めたいくらいだ。気づけただけ上出来。
夜になると、働きたくなり炭酸水に手を浸して雑巾を絞る。
床を拭く、窓を拭く。タバコやロック焼酎を飲むのに似てる。
仕方がなくて、走るようなもんだ。
ひりつく生への呼吸を止めた先の渇望と、カラカラに乾いた喉なのに聖人たちが列を成していて、並ぶ資格すらない綺麗な服着た自分の惨めさと。
水道を捻ったら、あんがい濁った水が出て、それでも口をつけられずにはいられない自分の笑いたいくらいの愚かさよ。
畜生と同じで良いです。
でも知ってますか。彼らは何千年と旅をした本物の賢者なんだ。
静かな瞳の奥の悲しみを、人の手でああだこうだ出来ると思うな。
そのうち地獄に落ちるさ、と今日も善業に励んでは、ひりつく喉を抑えてる。
何かの衝動を抑えて、無頼漢を気取って適当に眠りにつく。
甘い言葉は聞きたくない。
ただ、抱き寄せた小さな命を感じては、生きていよう、そう思う。
荒れた手のマリア
彼女、それとも私?