綺麗な歌は歌うな

お綺麗に飾るなよ。

現実をロックに活かしてくれ。

オアシスの名前も知らない曲を聴きながら、自分は泥臭いところで生まれ、荒々しい男共の中で育ち、母らの刻む生肉の匂いを嗅いで育ったのだと急に思い出した。

何故父が綺麗な話を嫌うか。
母がはすっぱな批評ばかりするのは何故か。
従姉妹の荒々しい口調は何故か。タバコの理由は。

わたしはそろそろ、夢みる頃を過ぎなければいけない。

レジーナスペクターを聞く。もはや適当。
英語なんてわからないんだ。
それよりは手仕事に荒れた手が、汗臭い作業着が、泥に汚れた靴の方がよっぽどわたしを惹きつける。

ああ、生きている。

そう思うのだ。

着飾った男の何が良い?
それよりは傷ついた手を、焼けた肌を、節くれだった指の方が、我が子を抱き上げる瞬間の方がずっと尊い。

私にはそれすら叶わない。

泥にまみれて生きることも、正しく汗をかくことも。

ただ、日々の買い物をこなし、年金の大半母に捧げる。
それくらいだ。

それでも案外、生きてはいける。

血にまみれた生活をしようぜ、と何かが私の隣に腰掛け囁いた。

どうせ万年貧乏だ。なら、捧げよう。
本当にそう思った。

綺麗な歌は歌うな

吐き出しました。

綺麗な歌は歌うな

何かが私の隣に腰掛けた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-23

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