渡り鳥が忘れた、古巣【C】
渡り鳥が忘れた、古巣【C】
※フィクションに付き、内容は架空で事実と異なる処があります
翌日の昼過ぎに直弘に、MARIA(マリア)からメールが有った。「弁当屋の店長に、休日の事を話したら、明日、休みの許可を貰えました。明日の朝に、アパートに迎えに来て欲しいです。それとフィリピンでは、人の名前を呼ぶ時に、さんは、付けません。直弘さんの事、パパもしくは、直弘で良いですか?」との、内容だった。直弘は「了解」と言って、返信した。翌朝、彼は一佳を乗せて、小型ワンボックスカーでアパートに行った。アパートでMARIA(マリア)とDREAM(ドリーム)を乗せ、古民家に戻って来た。古民家では、キクとヨネと直子が、二人を出迎えた。キクとヨネは、MARIA(マリア)が来るので、今日は、公衆トイレの仕事を休んでいた。MARIA(マリア)は、古民家の大きさと、畑の広さに驚いていた。MARIA(マリア)が日本語で「初めまして、MARIA(マリア)です」と言うと、キクが流暢な英語で「ようこそ、いらっしゃいました」と言ったので、MARIA(マリア)は驚いていた。英語が出来ない直子とヨネは、終始、笑顔だけで対応した。DREAM(ドリーム)も「My Name DREAM」と言ったら、一佳が、頼りない英語で「My Name KAZUYOSHI」と、言った。一佳が、両手に、グレーの猫とイエローの猫を抱え、現れた。子猫のグレーとイエローとミックスは、既に、老衰で亡くなり、雌猫のミックスが生んだ二匹の猫は、二代目だった。二匹とも、既に、大人の猫で、名前をグレー2、イエロー2と、云った。一佳とDREAM(ドリーム)は、庭で、猫達を追い回した。そこに、鶏が現れた。鶏と猫と子供の、鬼ごっこが始まった。DREAM(ドリーム)の表情は、伸び伸びと、していた。DREAM(ドリーム)と一佳の、互いを呼び合う、二人の言葉は、兄妹の様だった。MARIA(マリア)は、嬉しかったと同時に、何時も、アパートと、弁当屋の休憩室に、閉じ籠っているDREAM(ドリーム)が、可哀相だった。直弘は、フィリピンの泰弘に電話を掛けた。泰弘と、電話が繋がった。MARIA(マリア)に換わった。「お久しぶりです」と、彼女が言った。電話の向こうで、懐かしい泰弘の声が、聞こえた「一昨日の深夜に、直弘から電話を貰って、ビックリしたよ。貴方が居なくなって、唄が聴けなく成り、沈んでいたよ。今度、日本に帰ったら、貴方の唄を、タップリ聴かせて下さい」と、泰弘が言った。「分かりました。帰国を、お待ちしています」と言って、MARIA(マリア)は電話を直子に渡した。泰弘と直子の沈黙の電話が続いた。昼食時間になった。子供達が遊び疲れて、食堂に上がってきた。料理は、直子自慢の田舎料理だった。テークアウトの弁当ばかり食べているMARIA(マリア)は、久しぶりの、野菜が大半のヘルシーな料理で、美味しかった。DREAM(ドリーム)も、田舎料理に、むしゃぶり付いていた。昼食が終って、皆は、居間に移動した。子供達は、二匹の猫と戯れた。イエロー2が、昼食が終ったばかりのDREAM(ドリーム)の口元を、舐め回した。DREAM(ドリーム)は、ビックリした。グレー2が、一佳の膝の上で、DREAM(ドリーム)を眺めていた。皆で、栄吉が残したレコードを聴いた。MARIA(マリア)が、直弘に推挙され、Sleepy Lagoonを唄った。直子が俯き(うつむき)、目を閉じて聴いていた。暫くしてMARIA(マリア)は、直弘の部屋に案内された。部屋は昔、泰弘と直子が、初めて契りを結んだ、部屋だった。昔の直子と同様に、今日はMARIA(マリア)も、白いブラウスを着ていた。直弘にも、今日の、MARIA(マリア)のノーブラが判っていた。フィリピ―ナのMARIA(マリア)は、情熱的だった。「今日は、もしかして、パパの、恋人に成れるかな?思って来たの。私、初めてだから、優しくしてね」と言い、MARIA(マリア)は直弘に抱き付き、ベットに倒れ込んだ。直弘が「良いの?」と、聞くと「当たり前でしょう、大好きな直弘だから」と、MARIA(マリア)は言った。直弘はMARIA(マリア)の衣服を取った。小麦色の体が現れた。MARIA(マリア)は目を閉じ「恥ずかしい、優しくしてね」を、連発した。凄く、刺激的だった。二人は、最初の契りを交わした。MARIA(マリア)は裸の侭、直弘の背中に抱き付き「今、私、最高に幸せ」と、言った。直弘が「もう一回、しようか?」と、言うと「良いよ、何回でも」と、MARIA(マリア)は笑って返した。一佳とDREAM(ドリーム)が部屋に入って来た。DREAM(ドリーム)が「ママとパパ、プロレスしている。私達もする」と言って、二人は服を脱ぎ、ベットに入って来た。少しして、部屋の騒ぎに気付いた直子が、入って来た。「4人で、プロレスしているの」と、一佳が言った。直弘とMARIA(マリア)の最初の、思い出になる契りは、珍喜劇で、幕を下ろした。
直弘とMARIA(マリア)が、部屋から居間に来た。直弘が三人に「俺、MARIA(マリア)を、嫁さんにする」と、言った。直弘から何も聞いてないMARIA(マリア)は、唖然とし、直弘の顔を見た。直弘は、MARIA(マリア)に向かって頷いた。MARIA(マリア)は直弘に抱き付き「嬉しい、有難う」と、涙を流しなら言った。三人は口々に「当然です。私達も大賛成」と、拍手をしながら言った。MARIA(マリア)は、嬉しさの余り、三人に抱き付いた。直子が、MARIA(マリア)の耳元で「直弘のエッチ、上手かった?」と、小声で聞くと「上手かったよ。私、最高に幸せ!でも、子供達に、邪魔されたけど」とMARIA(マリア)は、微笑みながら、小声で返事した。直子には、直弘の行動が、父親・泰弘とソックリだと思えた。[やっぱり、親子の血筋は争えない]と感じ、含み笑をしていた。DREAM(ドリーム)が「パパ、オシッコ」と、英語で直弘に言った。キクが「もう、パパが判っているの。偉いね。キク婆ちゃんが、トイレに連れて行って上げる」と言って、DREAM(ドリーム)をトイレに連れて行った。
夕方に成った。MARIA(マリア)は、アパートに戻ろうと思った。支度して、フィリピンパブに出勤する時間が、迫っていたのだ。「DREAM(ドリーム)、帰るよ」と、MARIA(マリア)が言った。ここに居たい」と、DREAM(ドリーム)が言った。「駄々を、こねては駄目」とMARIA(マリア)が言い、DREAM(ドリーム)の手を引っ張った。直子が「今日から、ここが貴方達の家です。孫がここに居るのは、当然です。DREAM(ドリーム)の方が、貴方より、判っています」と言い、MARIA(マリア)を制した。MARIA(マリア)は、我に返り「そ、そ、そうですね。宜しく、お願いします」と言って、DREAM(ドリーム)の手を、直子に引き渡した。直弘とMARIA(マリア)は、黄色の小型ワンボックスカーに、乗り込んだ。「映画で[幸福の黄色いハンカチ]と、云う映画を観た。だから、この車を黄色にした」と、直弘は話した。「幸せを、運んでくれる車ね。私、今日、幸せを、運んで貰った」と、MARIA(マリア)は微笑んで、言った。アパートを経由して、二人は、フィリピンパブに向かった。「直弘、エッチ、上手いね。体、見られるの、恥かしかったよ。でも、幸せ。今夜、帰ったら、子供達は寝ているから、又、してね」と言い、MARIA(マリア)は、直弘の頬にキスをした。一瞬、ハンドルが揺らいだ。直弘が「運転中は、危ないから、キスは駄目」と、言った。「農家の仕事は、キツイけど、MARIA(マリア)は大丈夫?」と、直弘が聞くと、MARIA(マリア)は「大丈夫。Miss.MILAI(未来)も、小さい農場を持って、農業を、していたから、私も、常日頃、手伝っていたよ」と、MARIA(マリア)が言い「これから、フィリピンパブに着いたら、店長に、明日、弁当屋に行って、店長に、Resignation due to marriage(寿退社届)を提出する」と、言った。彼女が、小声で唄い始めた。直弘に、「仕事が終わるのが、深夜、遅くなるけれど、迎えに来てね」と言って、MARIA(マリア)は、店内に入って行った。直弘は古民家に戻り、仮眠を取り、深夜、再度、フィリピンパブに向かった。MARIA(マリア)を乗せ、再々度、古民家に戻る際「店の、フィリピ―ナ達が、[電撃結婚ね]と言い、驚いていた」と、MARIA(マリア)は車内で話した。翌朝、泰弘とMiss.MILAI(未来)に、スピーカー・モードで婚約の電話をした。泰弘は「これからは、我が家に、唄の上手いシンガーがいる。日本に帰るのが、益々、楽しみだ」と言って、喜んでくれた。Miss.MILAI(未来)にもスピーカー・モードで電話をした。Miss.MILAI(未来)は、JATCの専務さんの息子さんなら、大丈夫」と、MARIA(マリア)に言ってから、直弘に「私はMARIA(マリア)に、何も、してやる事が出来なかった。でもMARIA(マリア)は、私の宝物です。これからは、直弘さん、MARIA(マリア)の事を、宜しく、お願いします」と、涙声で言った。MARIA(マリア)が換わり、英語で「違うよ、ママは、置引き犯の私を拾って、ここ迄、育ててくれた。ママから一杯、愛を貰った。ママから沢山、教えて貰った。私、ママが大好きです」と、大泣き声で言った。感動する、ワンシーンだった。傍にいた直子と、出勤前のキクとヨネが、貰い泣きで、目頭を押さえていた。直弘は「力の限り、MARIA(マリア)を幸せにする様に、頑張ります」と言うと「有難う御座います」と、Miss.MILAI(未来)が涙声で言った。
朝の早い農業に、従事している直弘に取って、二つの店への送迎は、少々きつかったが、愛がそれを、吹き飛ばした。送迎は、一週間続いた。最終日、フィリピンパブのフィリピ―ナより、花束を贈呈された。フィリピ―ナが直弘の頬に、祝福のキスを仕様としたら、MARIA(マリア)が「駄目!」と、言って拒んだ。フィリピ―ナが「焼餅は、未だ、早いよ」と、言って笑っていた。ラストに二人はSleepy Lagoonで踊り、Endless Loveを唄った。フィリピ―ナ達の目に、祝福の涙が光った。
斯して、MARIA(マリア)は、一週間後、フィリピンパブと弁当屋を、退職出来た。
古民家に、同好会の仲間達が、集まっていた。中に、青年議員の、魁の姿も在った。行動力、旺盛な彼は、同好会の仲間達から、サクソフォンを教わっていた。直弘とMARIA(マリア)に、仲間達から、お祝いの言葉が続き、クラッカーが鳴り響いた。彼等が持参した食材やケーキで、細やかなパーティーが始まった。仲間達が吹奏楽を奏でた。習い始めて日の浅い、青年議員の、魁のサクソフォンだけが、ミスを繰り返していた。釣られてMARIA(マリア)も唄った。
庭で、一佳と一緒に、山羊と戯れていたDREAM(ドリーム)が居間に入って来て、青年議員の魁に向かって「You poor(貴方は下手)」と、言った。英語が分からない魁(かい)は、直弘に聞いた。直弘は彼に、態と(わざと)「[貴方は上手です]と、DREAM(ドリーム)が誉めている」と、教えた。魁(かい)は喜んでDREAM(ドリーム)に「サンキュー、サンキュー」と、笑顔で言った。DREAM(ドリーム)が、不可解な顔をしていた。MARIA(マリア)とキクが、噴き出す笑いを、堪えて(こらえて)いた。一佳は、既に、ソファーで白河夜船だった。MARIA(マリア)は、一佳とDREAM(ドリーム)を、部屋に連れて行き、布団に寝かし付け、子守唄を唄い始めた。次第に、彼女自身も眠くなり、子供達の横で、眠ってしまった。直弘は居間で、青年議員の魁と仲間達に、安藤家の各自の身の上話を話し、MARIA(マリア)から聞いた、彼女の経歴も話した。その中には、自分が、交通遺児で或る事や、父・泰弘と母・直子との出会い、栄吉の自殺、吹奏楽仲間との出会い、由実子の修学旅行、一佳の実母・一美、MARIA(マリア)との出会い、MARIA(マリア)から聞いたMiss.MILAI(未来)やDREAM(ドリーム)など、現在に至る内容が、全て含まれていた。直弘から、始めて、安藤家の内情を知った青年議員の魁は、ひときわ、感銘を受けていた。その日、皆の帰りは、深夜0時を、回ってしまった。翌日の夕方、直弘とMARIA(マリア)が農場から帰って来ると、一佳とDREAM(ドリーム)が、裸で風呂場に入り、湯船の御湯を掛け合い、騒いでいた。MARIA(マリア)が、風呂場に入って来た。二人を見たMARIA(マリア)は、面白いと思い、自分も裸に成り、御湯の掛け合いに加わった。古民家の湯船は、1.5畳程の大きさで、MARIA(マリア)とDREAM(ドリーム)は、湯船に張って或る、御湯の意味が解らず、二人は風呂場で、シャワーだけ浴びていた。トラクターを、倉庫に仕舞い終えた直弘が、騒がしい風呂場に入って来た。「直弘も、一緒に遊ぼうよ」と、MARIA(マリア)が直弘を誘った。直弘は服を脱ぎ、風呂場に入って来た。MARIA(マリア)の体を見た直弘は、興奮した。察したMARIA(マリア)は「ごめんね」と、言いい急遽、バスタオルで、自分の体を拭き、直弘の手を引き、自分達の部屋に戻った。愛の交わりを済ました二人は、風呂場に戻り、四人で御湯の掛けをした。風呂場の騒ぎに気付いた直子が、風呂場の外から「二人とも、大人なげ無い」と、直弘とMARIA(マリア)を、戒めた(いましめた)。風呂場の中でMARIA(マリア)が「I’m Sorry、I’m Sorry」と、謝っていた。
直弘は、弁護士で、行政書士も兼ねる青年議員の魁に、MARIA(マリア)とDREAM(ドリーム)の、法的手続きを代行して貰った。直弘は、役所に、婚姻届を出すだけだった。法的手続きが完了したので、直弘とMARIA(マリア)は、二人で婚姻届を提出し、MARIA(マリア)は安藤マリア(MARIA ANDOU)、DREAM(ドリーム)は安藤ドリーム(DREAM ANDOU)に、成った。直弘とMARIA(マリア)は同時に、二人の間には、子供を創らない事も誓った。それは、独身のMiss.MILAI(未来)が、歩んだ道に共鳴した、二人の考えだった。
直弘は、フィリピンに渡航しようと、考えていた。父親・泰弘に妻・MARIA(マリア)を見せたいと、思っていた。自分もMiss.MILAI(未来)に会いたいし、MARIA(マリア)とDREAM(ドリーム)にも、里帰りを、させて遣りたかった。直弘はMARIA(マリア)に話した。MARIA(マリア)は超、喜び「お母さん(直子)も、ヨネさんも、キクさんも、お父さん(泰弘)に会いたいから、家族全員で、行こうよ」と、言った。直弘も同意して、直子とヨネとキクに、話したら、三人供、桁外れに喜んだ。吹奏楽仲間に、相談したら「当然、行くべきだ」と、賛成してくれた。中で、青年議員の魁は「先日の直弘の話しに、感動した。自分も、同行して是非、Miss.MILAI(未来)さんに、会いたい。彼女は、リトル・マザー・テレサだ。日本人の、誇りだ」と、言った。斯して、安藤家と青年議員の魁の、新春1月の、フィリピン旅行が、決定した。
暮れの12月だった。古民家の畑は、収穫期を終え、地肌が見えていた。冬の農場も、収穫期を終え、暇だった。直弘が、古民家の農業倉庫で、何かを作っていた。クリスマスイブの夕方、古民家に、博史と由実子が、幼児貧困の子供達を連れて、現れた。次に、吹奏楽の仲間達と青年議員の魁が、楽器を携え(たずさえ)、現れた。彼等は、古民家の農業倉庫に入り、サンタクロースの衣装に着替え、顔に綿で作った白髭を、付けた。そして、各々が持ち寄ったクリスマスプレゼントを、各自の農業用麻袋に、詰めた。農業用荷車には、橇の(ソリの)デコレーションが施され、農業用荷車を牽引するトラクターには、トナカイの覆いが、被されていた。トラクターを先導する山羊は、鼻を口紅で赤く塗られ、トナカイの角形の帽子を被り、首に鈴を付けていた。直弘は、クリスマスのサプライズをしようと企み、一人、農業倉庫に閉じ籠り、これらを作って、いたのだ。サンタクロースの全員が、麻袋を肩に担ぎ、農業用荷車に乗り込んだ。準備万端、整った。直弘が、トラクターの助手席の、ラジカセのスイッチを入れ、エンジンを掛け、農業倉庫のシャッターを開けた。ここで、アクシデントが起きた。先頭の山羊が、ラジカセの音楽と、トラクターのエンジン音に驚き、云う事を、聞いて呉れなかった。仕方なく、直弘はトラクターを降り、山羊の首輪にロープを繋ぎ、引いた。トラクターの運転は、青年議員のサンタクロースに、換わった。サンタクロースの直弘は、山羊のロープを先頭で引き、トナカイの覆いが被されたトラクターと、橇の(ソリの)デコレーションが施された、農業用荷車が一列で続いた。そして畑を跨ぎ、古民家の居間に向かった。子供達が、ラジカセの音楽に気付き、古民家の居間から、目を丸くして、サプライズを見ていた。各々のサンタクロースが、居間で、子供達に、プレゼントを、麻袋の中から取り出し配った。一佳のプレゼントは、黄色のダンプカーで、DREAM(ドリーム)は、着物を着た、キティの縫いぐるみだった。サンタクロース達の、演奏が始まった。サクソフォンを吹いていたサンタクロースにDREAM(ドリーム)が「This Santa Claus, was a little better(このサンタクロース、少し上手くなった)」と、言った。DREAM(ドリーム)に、正体がバレテいた。サンタクロースが「Thank you(有難う)」と、言った。古民家の外に、雪が降り出した。心が打たれるファンタジック場面と、古民家の優しさに、MARIA(マリア)は涙し、十字を切った。
夜の雪道は、危ないと悟り、その夜は全員
で,古民家の屋根裏部屋に泊まった。相布団(あいぶとん)の中で、子供達の、間に合わせ枕の、投げ合いが始まり、昔の、修学旅行を思い出した吹奏楽の仲間も、加わり、その夜、古民家は大変だった。
新年を迎えた。吹奏楽の仲間と幼児貧困は、古民家に集まった。DREAM(ドリーム)は直子が仕立てた着物で盛装した。DREAM(ドリーム)が「キティと同じだ」と言い、燥いで(はしゃいで)いた。音楽を奏で、仲間と安藤家の人々は、子供達に、御年玉を渡し、御雑煮を食べた。御年玉袋はキティが、プリントしてあった。DREAM(ドリーム)は「有難う御座います」と、日本語で言い、始めての御年玉を、袋ごと丁寧に、キティのポシェットに、仕舞い込んでいた。
1月の正月の七草を過ぎた1月の中旬、一行は成田を発ちマニラに向かった。直弘は、今回、人数が多いので、フライトチケットが安い、1月の中旬の渡航にした。直子の衣服は、昔、泰弘から、クリスマスプレゼントに貰った、猫のプリントとEKYYNの刺繍が或る、ワンピースだった。空港に向かう道の途中で、一行は、二回の検問に遇った。全員のパスポートは元より、黄色の小型ワンボックスカーの、後部に積んで或る、各自のトランクまで、開けさせて調べられた。MARIA(マリア)は不信に思い「何か起きたの?入国の時は、道路での、検問は無かったよ」と、聞いた。青年議員の魁が「この空港の開設当時、周辺住民の反対運動が起き、過激派分子が空港内に、なだれ込み、空港ビルを占拠した。その時以来、空港に危険物を阻止する為の、機動隊に依る検問が始まった。当初は、もっと厳しい検問だった」と、答えた。MARIA(マリア)は「マニラ空港にも、武装警官は居るけど、道路での検問は無いよ」と、言った。
MARIA(マリア)とDREAM(ドリーム)以外の他の者は、海外旅行は始めてだった。高所恐怖症のヨネとキクは、窓際の席を避け、
中央の席で、身動きしないで、堪えて(こらえて)いた。DREAM(ドリーム)が英語で、客室乗務員に、機内サービスのドリンクを頼み、ヨネとキクに振る舞った。直弘とMARIA(マリア)と一佳の三人は、客席のテレビでMr.ビーンのコメディを観て、笑っていた。直子は窓ガラスから雲海を見詰め、これから、泰弘に会えると思い、含み笑をしていた。一人、青年議員の魁だけが、浮いていた。
4時間半で、一行はマニラ空港に着いた。高所恐怖症のヨネとキクは、要約、元気を取り戻しが、今度は、ロビーで、ライフル銃を肩から下げた警官を見て、驚いていた。空港に、泰弘とMiss.MILAI(未来)と、孤児院の子供達と、ナイト・クラブの日本人オーナーが、出迎えた。直子は、ロビーの泰弘を見つけ、抱き付いた。若い娘の様だった。泰弘が一行に「長旅、ご苦労さん」と、笑顔で言った。今度は、MARIA(マリア)が「ママ!」と、言ってMiss.MILAI(未来)に抱き付いた。「皆さん、始めまして、ようこそ」と、Miss.MILAI(未来)が言うと、孤児院の子供達が「始めまして、こんにちは」と、日本語で口を揃えて言った。MARIA(マリア)は、子供達を一人一人、抱き締めた。最後に、ナイト・クラブの日本人オーナーが「ようこそ、フィリピンへ!」と、言い一行に、握手を求めた。Miss.MILAI(未来)の陰に、ハイスクールの制服を着た、女の子が居た。MARIA(マリア)が「Mary(メアリー)!」と言って、その女の子も、抱き締めた。Mary(メアリー)は、少し小柄で、ハイレベルに可愛いく、清楚だった。青年議員の魁は、Mary(メアリー)を見て、口が塞がらなかった。全員で、2台のジープニーに分乗して、日本人オーナーが手配した、ホテルに向かった。青年議員の魁は、車内で、終始、Mary y(メアリー)を見詰めていた。幼いDREAM(ドリーム)は、一佳と、ヨネと、キクに、車窓の風景を、一生懸命、説明していたが、内容は、信憑性(しんぴょうせい)に欠けていた。直子は、泰弘と、手を繋いでいた。MARIA(マリア)は、自分も負けじと、直弘の手を取った。MARIA(マリア)は、ママと、日本人オーナーとの会話が、以前より、親密に成っている様に、感じた。ホテルに到着した。ホテルは、マニラ湾に面していた。一行は、フロントでチェクインをして、ボ
ーイに案内され、各自の部屋に散った。部屋は直弘とMARIA(マリア)とDREAM(ドリーム)が同室、ヨネとキクと一佳が同室、泰弘と直子が同室、Miss.MILAI(未来)とオーナーの日本人が同室、隣にMary(メアリー)と孤児院の子供の大部屋、青年議員の魁は、一人部屋だった。MARIA(マリア)は、Miss.MILAI(未来)とーナーの日本人が、同室で或る事を、不思議に思えた。泰弘は部屋に入るや否や(いなや)、直子のEKYYNのワンピースを、剥ぎ取り、ベットに押し倒した。「恥ずかしい、ヤッチャン、優しく遣ってね」と、直子は微笑んで言った。直子の羞恥心も、体も昔の侭だった。泰弘は、超、興奮した。交わりを済ました泰弘に、直子は「有難う」と、小声で言った。泰弘が「如何して」と聞くと、直子が「ヤッチャン、大好きだから」と、言った。「もう一回、遣ろうか?」と、泰弘が言うと、直子が、泰弘の体に抱き付き「何回でも、して」と、言った。
皆が、ロビーに集まっていた。泰弘と直子が集合時間を過ぎても、部屋から出て来なかった。30分程、遅れて、二人はロビーに現れた。「ごめん」「ごめんなさい」と、云って、二人は皆に謝った。ロビーで、日本人オーナーが立ち上がり「初老の私、遠藤明弘は先日、Miss.MILAI(未来)と、結婚しました」と、言った。ロビーの皆が、突然の報告に唖然としたが、尽かさず全員が、拍手した。泰弘がMiss.MILAI(未来)を立ち上がらせ、遠藤明弘と手を組ませた。再び、拍手が、鳴り響いた、MARIA(マリア)が、Miss.MILAI(未来)に近付き「ママ、おめでとう」と、言って祝福した。ホテル内の、キャフェテリアに移動した。ステージで、バンドとシンガーが、演奏していた。夕食は、二人の祝宴に変わった。孤児院の子供達が、Miss.MILAI(未来)と明弘に、キスをした。シンガーが、気を効かせ、唄った。明弘とMiss.MILAI(未来)が曲に合わせ踊り始めた。泰弘と直子も、直弘とMARIA(マリア)も踊り始めた。青年議員の魁もMary(メアリー)と、踊りたかったが、彼は、言い出せなかった。踊り終えて、直子と、隣り合わせの席に着いた直弘が、「如何して、ロビーの集合時間に、遅れたの?」と、小声で聞くと「ヤッチャンと、エッチ、していたの、三回も、しちゃった」と、嬉しそうに答えた。直弘は、父も母も若いな、思い、同時に、母・直子の、娘に戻った様な、嬉しそうな表情が、意地らしく感じ、フィリピンに来て、良かったと、思った。隣で聞いていたMARIA(マリア)が、泰弘の腕を抓り(つねり)「自分達も、頑張ろうね。今夜、一杯、しようね」と言ったら、直弘が「勿論だ!」と、言って頷いた。Mary(メアリー)の、隣の席には、青年議員の魁が座った。魁(かい)は、英語が話せず、Mary(メアリー)や、孤児院の子供達との会話は、ジェスチャー会話が主体で、見かねた反対隣席のキクが、翻訳した。ヨネは、一佳とDREAM(ドリーム)の、食事の世話を焼いていた。祝宴も終わりに近づいた頃、MARIA(マリア)と直弘が、バンドに合せ唄った。そして、泰弘と直子に、踊る様に言った。二人は、チークで踊った。二人の踊る姿は、大人達の涙を誘った。
祝宴で、程よくアルコールが入った直弘は、MARIA(マリア)の期待が外れ、即、眠りに入ってしまい、MARIA(マリア)は御機嫌斜めだった。一人部屋の青年議員の魁は、ノートパソコンが入った段ボールを持ち、大部屋に行った。室内では、孤児院の子供達が、初体験のベットの上で、飛び跳ねていた。魁(かい)は子供達に、ノートパソコンを教えた。ノートパソコンは、青年議員の市役所の職員が、以前、使用していた物だった。市役所では、予算を使い果たす為に、少し古くなった備品は、新しい物に取り替えるのが、慣習に成っていた。備品は、未だ、使用可能な物が大半で、市役所の倉庫に、山積みにされていた。職員の話しに依ると「廃棄処分にしたいが、処理業者に支払う予算までは、無いので、仕方なく、倉庫に移動してある。職員の仕事は、予算を、節約するのではなく、使い切る事です」との、話だった。青年議員の魁は、勿体ない、節約した予算は、市民に還元出来ないのか?と思っていた。市役所の職員に、青年議員の魁「市内の小中学校にIT教育の為に、このパソコンを譲って上げたら?」と、言ったら「市役所は、各部署に、予算が有ります。各部署が、部署の予算内で購入した物を、他の部署に譲る事は、出来ません。教育委員会にも、小中学校にも、各々、決められた、予算が有ります」との、職員の返事だった。青年議員は、縦割り行政の、弊害を感じた。ノートパソコンは、青年議員の魁が、無償で、払い下げして貰い、今回の旅行で、フィリピンに、持ち込んだ。魁(かい)のパソコン授業は、ジェスチャー授業だったが、孤児院の子供達には、可なり、伝わった。孤児院には、Miss.MILAI(未来)専用の、古いディスクトップのパソコンしか、無かった。青年議員は、パソコンを、室内のWiFiに接続した。子供達は夢中に成って、インターネットに、見入っていた。Mary(メアリー)も、興味、深々で、インターネットを見ていたので、青年議員の魁は、肝心のMary(メアリー)と、会話が出来なかった。その夜、青年議員の魁は、深夜まで、子供達の、インターネットに付き合っていたの、大部屋に泊まってしまい、翌日の、朝食バイキングには、大部屋の全員が、相当遅れてしまい、食べ物が、僅かしか、残っていなかった。
その日、一行は、出発が遅れ、昼過ぎに成って、マニラの名所を回り、夕方、マニラ湾を訪れた。夕日の美しさに、一行は、目を見張った。色々な食べ物の露天商が、軒を並べて居た。MARIA(マリア)は昔、ここでMiss.MILAI(未来)と、始めて出会った昔を、想い起していた。その時Miss.MILAI(未来)は、置き引き泥棒の自分を、咎め(とがめ)もせずに、露店で買ったサンドウィッチをくれた。MARIA(マリア)は、明弘と一緒にベンチに座っている、Miss.MILAI(未来)の横顔を、見詰めた。孤児院の子供の一人が、Miss.MILAI(未来)傍に来て、駄々を捏ねた。Miss.MILAI(未来)は、優しく微笑み、子供を宥めていた。ストリート・シンガーが、唄い始めた。青年議員の魁は、Mary(メアリー)と、一緒にベンチに座った。Mary(メアリー)が、パパイヤの皮を剥き、種を取り出し、魁(かい)に、食べる様に促した。美味しかった。今度はマンゴーを剥いて、差出した。Mary(メアリー)は終始、笑みを浮かべるだけで、喋らなかった。魁(かい)は、Mary(メアリー)の優しさが、嬉しかったが、少し、疑問が生じた。全員でホテルに
戻り、夕食を済ませ、各自の部屋に入り、ロビーにはMiss.MILAI(未来)、明弘と、直弘、MARIA(マリア)と、青年議員の魁の、五人が残った。魁(かい)はMiss.MILAI(未来)に、Mary(メアリー)が微笑んでいるだけで、喋らない理由を聞いた。MARIA(マリア)が「Mary(メアリー)は唖(おし)で、言葉が喋れないの。ママが、孤児のMary(メアリー)を拾って、育てたの」と、言った。魁(かい)はMiss.MILAI(未来)の顔を見た。彼女は微笑み、優しく頷いた。魁(かい)は、改めて、Miss.MILAI(未来)の偉大さに、敬服し、天井を仰いだ。そして、彼はMiss.MILAI(未来)に「Mary(メアリー)と、結婚させて下さい。絶対に幸せにします」と、繰り返し、熱意を込めて言った。Miss.MILAI(未来)は、青年議員の魁の、真摯な言葉に「彼女は障害者です。貴方に、覚悟は出来ていますか?苦労しますよ」と聞くと、魁(かい)は、大きく頷いた。Miss.MILAI(未来)は「Mary(メアリー)に、話してみます」と、答えた。話しを終え、皆は、各自の部屋に戻った。深夜、青年議員の部屋を、ノックする音が聞こえた。青年議員の魁がドアを開けると、そこには、Mary(メアリー)が、寂しそうな表情で立っていた。青年議員の魁が手招きすると、Mary(メアリー)は、部屋に入り「Thank you」と、唖(おし)特有の口調で言い、目を閉じた。彼が[OKですか?]と、Mary(メアリー)の手の平に、指で書くと、彼女は頷き、ベットに横たわった。魁(かい)は、Mary(メアリー)の、意外な行動に困惑した。交わりの間、彼女は、目を閉じた侭で、身動きの一つも無かった。30分程で彼女は、若干、微笑んだ後に「Thank you」と、涙声で言い、悲しげな表情で、大部屋に戻って行った。青年議員の魁は、Mary(メアリー)の表情が、途方もなく気になった。彼はテーブルに、目をやった。テーブルの、手紙らしき紙に気付いた。それには[私は聾唖者です。私と結婚したら、貴方は、不幸に成ります。貴方の、重荷に成ります。貴方とは、結婚出来ません。正常な体の女性と、結婚して下さい。貴方は、優しく真面目な人です。今夜、貴方と契りを交えたのは,貴方への想い出と、私のママや、弟や妹に、優しく接してくれた、お礼の気持ちです。有難う御座います。貴方の幸せを、祈ります。Mary(メアリー)]と、ローマ字で書かれていた。彼女は、自分自身で、聴覚障害者で或るが、為に、結婚は出来ないと、悟って居たのだ。青年議員の魁は、大慌てで、彼女の大部屋に向かった。部屋には、鍵が掛かっていて、彼が、何回、ノックしても、部屋からは、応答が無かった。ドアに耳を当てると、当てると、部屋の中からMary(メアリー)の、すすり泣きの声が、聞こえた。魁(かい)は、パニック状態で今度は、Miss.MILAI(未来)の部屋に行き、ドアを激しく叩いた。間を於いてMiss.MILAI(未来)と明弘が、目を擦りながら、タオルケット姿で出て来た。部屋に入り、魁(かい)は、Miss.MILAI(未来)に、Mary(メアリー)の手紙を見せた。Miss.MILAI(未来)は手紙を読み「Mary(メアリー)の貴方の将来を考えての優しい気持ちです。彼女の意を、汲んでやって下さい」と、言った。青年議員の魁は「出来ません。私は絶対に、彼女と結婚します」と、強引に言った。Miss.MILAI(未来)は、今夜は遅いから、早朝の再度、Mary(メアリー)に話します」と約束して、魁(かい)に、その場を引き取らせた。翌朝、青年議員の魁は、ロビーでMary(メアリー)を、待ちわびていた。Miss.MILAI(未来)が、Mary(メアリー)を連れて、MARIA(マリア)と一緒に現れた。魁(かい)は、ロビーの絨毯(じゅうたん)に、土下座して「僕と結婚して下さい」と、プロポーズした。実直な青年議員の魁の、気持ちの、表れだった。Mary(メアリー)の目に、涙が溢れた。Mary(メアリー)は土下座している青年議員の魁を、お越して、手話で「本当に、私で良いのですか?」と聞くと、彼は大きく頷いた。Mary(メアリー)は感極まり、魁(かい)に抱き付き、大泣きをした。MARIA(マリア)は「青年議員の魁は、私が太鼓判を押す」と、手話で言い、胸を叩いた。Mary(メアリー)がMARIA(マリア)に、泣きながら抱き付いた。すると、今度はMiss.MILAI(未来)に、泣きながら抱き付いた。次に、今度は、又、魁(かい)に、泣きながら抱き付いた。終ると、MILAI(未来)を見て泣き、MARIA(マリア)を見て泣き、魁(かい)を見て泣き、Mary(メアリー)の嬉しさの余り涙は、止まる術を知らなかった。各自が朝食の食べに、キャフェテリアに集まりだした。Mary(メアリー)は、各々を見る度に、泣き出した。事情を知らない皆は、何事が在ったのかと、首を傾げ、子供の中には、Mary(メアリー)の頭を、撫でる子供もいた。青年議員の魁は、キャフェテリア内の、他の客の視線が、気恥ずかしかった。事情を知った直子が、「早く、部屋に行って、泣くのを止めた方が、良いと思うよ」と言うと、MARIA(マリア)が「賛成」と言って、直弘の手を持ち、一緒に上げた。二人は、青年議員の魁の部屋に戻った。魁(かい)は、Mary(メアリー)を、ベットに横たえた。彼女は、目を閉じていたが、昨夜の寂しい顔とは一変して、幸せに満ちた、表情だった。交わりを終えたMary(メアリー)が、唖(おし)の口調で「魁(かい)」と、微笑みながら言った。魁(かい)が口の形で、「Mary(メアリー)」と、笑って返した。Mary(メアリー)は魁(かい)とは一回り以上年齢差が在りMary(メアリー)は幼な妻だった。Mary(メアリー)は手話が出来るMiss.MILAI(未来)の処に行き、手話で「魁(かい)は、優しかったよ。恥ずかしかったけど、気持ちが良かった。Mary(メアリー)は、幸せ」と、屈託のない笑顔で言い、先程迄の涙は、何処に消え失せていた。
その日の昼前、一行は、ジープニー2台に分乗して、孤児院MILAI of the houseに向かった。魁(かい)は車内で、Miss.MILAI(未来)に、手話の手解きを、受けていた。Miss.MILAI(未来)から、Mary(メアリー)が、100%の聴覚ではなく、補聴器を買って上げたいが、金銭的に余裕が無い事も聞いた。途中、道路際の露店で昼食を摂った。椰子の実ジュースが売られていた。泰弘が、皆に振る舞った。ホテルからMary(メアリー)は、魁(かい)に、張り付きぱなしだった。二人は、椰子の実ジュースに、二本のストローを入れ飲んだ。Mary(メアリー)は魁(かい)の額の汗を拭い、口の周りを拭き、小用のトイレ迄、付いて行き、彼女は、完全なる世話女房型だった。魁(かい)は、明弘から、新しいスマートホンを、受け取り、それを、Mary(メアリー)に渡した。隣で、同様に明弘が、Miss.MILAI(未来)、に新しいスマートホンを、渡していた。Miss.MILAI(未来)の携帯電話は、金銭的に余裕が無く、未だ、旧式の、ガラ系だった。「有難う、これ、動画も、ビデオ通信も、出来るから、欲しかったの」と言って、Miss.MILAI(未来)は明弘に、スマートホンの扱い方を、教わっていた。Mary(メアリー)は魁(かい)に、手話で「私は、これ、耳が聴こえないから、要らないよ」と、言った。魁(かい)は「スマートホンは、会話とは別に、メールも、画像も、ビデを通信も、インターネットも、出来るし、バイブ機能でも感知するから、Mary(メアリー)と連絡が出来る」と言い、スマートホンの画面を見ながら、Mary(メアリー)に説明した。試に、魁(かい)は、自分のスマートホンから、購入したスマートホンにメールと、画像を、送ってみた。画面を見て、Mary(メアリー)が「Bravo Thank you!」と叫び、魁(かい)の胸に、飛び付いた。スマートホンは、魁(かい)が、明弘に依頼して、購入した物だった。一行は、午後の2時頃、孤児院MILAI of the houseに到着した。MILAI of the houseは60㎡程の、貧祖で、小さな一軒家で、赤い屋根の塗装は、剥げ落ち、黄地に青文字の、MILAI of the houseの看板が、玄関に掛かっていた。庭に、貯水タンクと、簡易トイレと、野菜畑が在った。庭に世界・最小の絶滅危惧種に該当するメガネ猿の、ターシャが、木に摑まって居た。時折、餌を求めて、森から出来るそうだ。軒先に、古びた自転車と、年代物の洗濯機、冷蔵庫とボールが三つ、置いて有った。家の中に入った。ワンルームの部屋に、二人掛けのボロボロの机、数台と、隅に5・6枚のマットレスと毛布が、積んで在り、脇の本棚に、本が整頓されて入っていた。テレビは無く、電燈は、剥きだしの部屋の内屋根に、蛍光灯が2基、吊るして在った。部屋の片側は台所とシャワーが在り、傍に子供達の衣類が収納され、反対の面には黒板と脇にMiss.MILAI(未来)の机が在り、机の上に、古ぼけた、ディスクトップのパソコンと、プリンターが、置いて在った。子供達から、聞いていたので、魁(かい)が明弘に頼み、子供達のインターネットが、出来る様に、WiFiだけは敷設して置いた。部屋は、綺麗に掃除されていた。乾季に成ると、貯水タンクの水が不足するので、MILAI of the house全員で近くの小川まで行き、水汲みを、するそうだ。孤児院MILAI of the houseは、Miss.MILAI(未来)が若い頃、自分の資産を全て投げ出して造ったようだ。日本から来た、直弘、直子、ヨネ、キク、魁(かい)の五人と、フィリピン在住の、泰弘、明弘は、余りの貧しい光景に、唖然とした。Miss.MILAI(未来)が、自転車で、翻訳の原稿を郵便局に出す時に、近くの店で、必需品を購入するそうだ。青年議員の魁は、使い捨て社会の日本に、疑問を感じていた。子供達が庭の畑で、野菜を掘り始めたので、直弘と、ヨネと、キクが、手伝った。一佳とDREAM(ドリーム)も、加わった。Miss.MILAI(未来)と、MARIA(マリア)と、Mary(メアリー)が、夕食の支度に、取り掛かったので、直子も手伝った。魁(かい)も手伝おうとしたが、反って邪魔で、室内で、泰弘と、明弘と一緒に、食卓代りの机を、並べ変えた。古民家と同様に、サルヨットなどの、フィリピン野菜主体の料理だった。皆は、異国の野菜料理に、舌鼓を打った。Miss.MILAI(未来)と子供達は、繋がったインターネットで、魁(かい)に教わり、日本の画像や動画を見た。子供達がMiss.MILAI(未来)に、日本の事を聞いていた。MARIA(マリア)が、日本語で、唄を唄った。夜は、床にマットレスを敷き、カーテンで仕切り、皆で、ごろ寝した。幼な妻のMary(メアリー)が、MARIA(マリア)の枕元に来た。幼な妻のMary(メアリー)は口パクでMARIA(マリア)に聞いた。「如何して魁(かい)は、私の体を求めるの?私、凄く恥ずかしいよ。でも、気持ち良いよ。男は、皆、助平なの?」MARIA(マリア)は、ジェスチャーと無声の口パクで、静かに話始めた。「貴方が、魁(かい)と交わって、貴方は、気持ちが良いでしょう。それは、Mary(メアリー)が、魁(かい)を愛している証拠よ。女は、好きでない男性と、交わっても、気持ち良く無いの。男は、女に魅力を感じるから、刺激されるの。女の魅力は、優しさ、仕草、顔、行動、体、恥じらいなど、人に依って色々有るの。動物も同じよ。雄の助平は、子孫存続の為の、本能よ。でも、雌は、自分の、気に入った相手しか、交尾しないよ。人間も、好きな人と、交わえば、気持ちが良いの。動物も、雄の刺激する為に、匂いを出すそうよ。Mary(メアリー)の羞恥心は、魁(かい)を刺激しているの。魁(かい)は、Mary(メアリー)の全てに、魅力に刺激を感じるから、貴方を求めるの。女性の羞恥心は、当たり前で、羞恥心の無くなった女性は、殆どの男性から、嫌われるよ。お父さんとお母さんのカーテンも、今、動いているよ」と、泰弘と直子のカーテンを指差し、男女円満な極意を教えた。隣で直弘が、含み笑いをしていた。Mary(メアリー)は、口パクで「解った、有難う」と、嬉しそうに言い、魁(かい)のカーテンに、潜り込んで行った。魁(かい)とMary(メアリー)のカーテンが、激しく揺れ始めた。MILAI of the houseには、二三日、滞在して、Miss.MILAI(未来)と子供達を、MILAI of the houseに残し、一行は、マニラに向かった。MARIA(マリア)はMiss.MILAI(未来)に抱き付き「ママ、又、来るから」と言って、別れを惜しんでいた。一行はJATCのフィリピン支店に行った。フィリピン支店の東南アジア統括本部は、ビジネス街のマカティに在り、ビルの5・6・7階の、三フロアーを締めていた。フィリピン人のスタッフ達が、慌ただしく動いていた。東南アジア主体のJATCの東南アジア統括本部は、東京のJATCの本社とは違い、驚異的な忙しさだった。東南アジア統括最高責任者の、泰弘の部屋に入った。一週間弱、休みを取った泰弘の机の上は、書類が山積みだった。フィリピン人のスタッフ達が、入れ替わり立ち替わり、泰弘の部屋に入って来た。彼等の案件の大半が[チャータした貨物船が、現れない]、[注文した品物と、違う品が届いた]、[約束した日時が、一週間遅れる]とかの、日本では、考えられない事柄だった。元、JATCの社員だった直弘は、泰弘の東南アジア統括本部での、桁違いな忙しさを実感し、まめに、日本に帰国出来ない理由を、悟った。泰弘の住居は、泰弘のオフィスルームの、隣部屋だった。部屋は、ホテル形式の、ワンルームで、古民家の写真と、安藤家の家族の写真が、壁に飾られ、ベットの枕元には、猫のプリント入りの、EKYYNのワンピースを着た、直子の、ハガキ大の写真が、置いて在った。部屋の中は、ワイシャツや、肌着が脱ぎ捨てられ、雑然としていた。泰弘は、自分の部屋に、女性が入るのを嫌い、敢えて、メイドも雇わず、服や肌着などは、クリーニング屋か、コインランドリーを利用していた。その上、泰弘の食事は、朝昼晩の全てが、外食だった。直子は、尽かさず、部屋の片付けを始めた。泰弘の多忙を、目にした皆は、仕方なく、泰弘の終業時迄、泰弘のプライベート・ルームで過ごした。孤児院に、テレビが無い事を知った泰弘は、オフィスルームから、家電ショップに電話して、MILAI of the house宛に、テレビを発注した。山積みされた仕事に、一先ず(ひとまず)、切を付けて、泰弘がプライベート・ルームに、入って来た。皆は、日本人オーナー・明弘が経営する、ナイト・クラブに向かった。今日は、明弘がナイト・クラブを臨時休業にして在り、厨房の料理人と、ステージのバンドだけが、出勤
して居た。厨房のフィリピン人の料理人が、見様見真似(みようみまね)で作った、日本料理が運ばれて来た。少々、フィリピン料理に、飽きが、きていた直弘、直子、ヨネ、キク、魁(かい)の五人は、久しぶりの、和食が美味しかった。英語が出来るキクが、代表で「It is very tasty. Thank you.(とても美味しいです、有難う)」と、フィリピン人の料理人達を誉めると「Thank you very much(有難う御座います)」と、彼等は嬉しそうに返事した。バンドの演奏が始まった。泰弘が、MARIA(マリア)にリクエストした。それは以前、MARIA(マリア)が、ステージで唄っていた光景だった。違うのは、泰弘の目の前に、直子が居る事だった。泰弘は直子と踊り始めた。次に、直弘とMARIA(マリア)が、デユッエットで、Endless Loveを唄った。魁(かい)とMary(メアリー)が、魁(かい)のリズム感のみのリードで、踊り始めた。一佳とDREAM(ドリーム)が、大人の真似をして、踊り出した。可愛いカップルの、踊りだった。オーナー明弘と、フィリピン人の料理人が、ヨネとキクを誘い、踊り始めた。最後に、MARIA(マリア)がI'm Sorryを唄い、皆で踊った。直子の目に嬉し涙が流れていたその夜、10時半頃、皆で、ホテルに戻った。泰弘と直子は、マニラでの、最後の愛の絆を、交わした。そして、この夜が、直子の泰弘との、楽しい記憶が、直子の脳裏に残る、最後の夜だった。翌朝、一行は、ホテルのキャフェテリアで、食事を済ませ、ジープニーでマニラ空港に、向かった。昨日の夜から、Mary(メアリー)の表情が、沈んでいた。彼女は、ジープニーの車内でも同様で、笑顔の一片すら無かった。搭乗手続きが、始まった。Mary(メアリー)は一人、今にも、泣き出しそうな顔で、搭乗手続きの、後部席に座っていた。彼女は、突然立ち上がり、泣きながら「魁(かい)、No! No! (駄目!駄目!)」と叫び、魁(かい)の腕を、激しく引っ張った。魁(かい)は、まるで意味が、理解出来なかった。MARIA(マリア)が、Mary(メアリー)の処に来て、口パクで「Mary(メアリー)は、日本に行きたくないの?」と、言った。Mary(メアリー)の顔が、ポカーンとした顔に、変わった。MARIA(マリア)は、魁(かい)が持っている、Mary(メアリー)のパスポートとチケットを、彼女に見せた。Mary(メアリー)の顔が、満面の笑みに変わり、Mary(メアリー)は、魁(かい)に抱き付いた。手話と英語が出来ない魁(かい)と、Mary(メアリー)との間に、言葉の食い違いが、出来ていた。Mary(メアリー)は、自分が、フィリピンに置き去りにされると、勘違いをしていた。彼女のパスポートは、Miss.MILAI(未来)が、出稼ぎ大国の、この国では、Mary(メアリー)も、いずれ必要になると思い、予め、取得した物を、Miss.MILAI(未来)から魁(かい)に、渡していた。ビザは、結婚に依る申請で、青年議員、魁の肩書も役立ち、簡単に取得出来た。片方、泰弘と直子は、暫しの別れを、惜しんでいた。「ヤッチャン、体、気を付けてね」と、直子が言うと「ナオも、元気で」と、泰弘が言った。直子の目に、一筋の涙が、流れていた。搭乗口に入り、直子は、何度も、泰弘の姿を、振り返って見た。直子の、EKYYNのワンピースが、搭乗口の奥に消えって行った。これが、意識のある直子との、最後の別れになった。飛行機は、マニラ空港を、東に向かって離陸した。機内でMary(メアリー)は「昨日(きのう)の夜は、拒んで御免ね。日本に行ったら一杯しようね」と、燥いで(はしゃいで)いた。直弘は、前途多難だと、思った。直弘は直子を見た。対照的に、直子は窓ガラスの外を、悲しそうに、見詰めていた。外は、暗雲が立ち込めるかの様に、灰色の厚い雲に、覆われていた。直弘は、両親の関係に、やるせなさを、感じていた。
渡り鳥が忘れた、古巣【C】