終末のソーシャルゲーム

これはあと数十日で終わるヴァリアントレギオンと言うゲームを舞台にした作品です。プレイしたことのある方でないとわからないことも数点あります。

「危ないっ!!!!」

その声で 一瞬!ほんの一瞬覚醒したかに見えた。下り坂に差し掛かった角のトウモロコシ屋のおばさんが大声を上げたのだ


昨晩の事だ

9月20日より‥

今まで慣れ親しんできたレギオンが終末を迎えるというニュースだ。俺は愕然としたなんだかんだエイミングの文句を言いながらもここまで毎日ログインし続けたゲームはなかったからだ。余命2ヶ月 ‥

末期ガンの患者に最後のエールを送る如く俺は鼓舞した
「よし!このニーズヘッグをこの俺の手で討伐してやろう」と

‥‥
何回やり直したことだろうか
これはダメだ( -᷄ω-᷅ )ロソ先生と汁の汁攻撃に頼むしかないな‥
時間は深夜2時を回っていた
しまった!!
明日は山の仕事初日体力的にも極めて消耗する仕事な為早く寝るようにと社長にも昼に言われていたばかりであった
焦る気持ちとは裏腹にテレビでは可愛らしいゆるキャラが訳のわからない雄叫びをあげながら跳ねている。

ハリッ倒してやりたい!!

心の中で呟いたが急いで寝ねばと自分に言い聞かせた。今夜は蒸し暑い、なかなか寝付けそうもない、クーラーを付ければ朝には喉が擦れるような痛みに襲われるなど分かりきっていたので付けることもできず、かと言って窓を開けると雲霞の如く大量の蛙の合唱で眠る集中力をごっそり削がれる。このがんじがらめの最中気が付けば深い闇の中に意識は沈んでいた‥

翌朝
と言っても睡眠時間などほぼほぼなくおおよそ2時間弱しか眠ることはできなかった
後頭部に鈍い痛みと全身のダルさが残っていた
「これがニーズヘッグの力か‥リアルにまで及ぶとは‥」
エイミングに花道をなどと第三者からみても訳のわからない言い訳を自分に言い聞かせ眠りにつかなかった自分を軽蔑した。

身体は思うように動かない
どうやら寝不足だけではなく夏風邪のドアを叩いたようだ 。

予想通り作業は困難を極めていた、重量15キロを超える野菜の箱を何度も何度も、それはまるで押し寄せては引ける波のように永遠と繰り返す極めて乳酸のたまる作業だった。それに加えて治ることを知らない頭痛がなおも身体にムチを打った。肉体は悲鳴をあげ昨夜のニーズ討伐計画を心底呪ったがまさに後の祭りである。終わらなければ帰ることが出来ないのだ。

しかし止まない雨はないのと同様野菜が詰まった箱もまた地面であるパレットが見て取れた

「ようやく帰路につける」
ホッと胸をなでおろし運転席のドアーを開け投げ出すように身体を流し込んだ、ヘトヘトになっていた。あとは事務所の冷蔵庫にこの野菜どもを突っ込んで帰れる。憎い!憎いのぉー!たらふく水分を蓄えた野菜どもが心底憎たらしく思えた。
太陽はギラギラと照りつけ温度計は無いもののかなりの気温である事は明白だった。

早く帰ろう!!

そう思い立ちトラックのエンジンを始動させる。照りつける太陽に汗がこぼれ落ちたが窓から吹き込んでくる勢いの良いゴーゴーとトラックにぶつかって来る風がすごく心地よく感じた。空は澄んで青く雲ひとつ無い快晴だった。



おやっ!!??

幾らか先に熊出没注意の看板の手前側で両手を大きく振る筋肉質の男の姿が見て取れた。
あっ!俺はとてつもなく驚いたがすぐに頬の筋肉を緩め穏やかな笑顔になる、
昨日のニーズ討伐計画に参加して貰おうと心に決めたあのRossoがそこにいるではないか!
「おーい、奇遇だな!!本当にびっくりだ」彼は言った。彼は農協の管理職で時期役員候補だ。農協職員だけに近くの畑の様子をチェックにここまで足を運んだようだ
「まさか東京にいると思ってたロソちんがこんな所に居るとはなぁーー!!あっ!そーだロソちんに頼もうと思っていた事があったんだ。あの新しいニーズを共に討伐してくれよ、あれは1人では無理だしそのせいで今日の仕事も死ぬかと思ったよ!」
ロソちんは呆れた顔で笑っているのが見て取れたがすぐに思い付いたように喋り始めた。
「あっ!そー言えばもう1人連れてきているんだよ!斜め後ろにあるフォード、エクスプローラーの助手席でこちらを首を伸ばして見ている女性が確認できた
「うおっ!レヴィじゃないかー!あんたら夫婦だったのか?!!って事はギルチャでアル中で倒れたってレヴィが言っていたのはロソちんだったかーー!!!意外すぎるだろーー!」ロソは苦笑いを浮かべた「隠していたわけじゃないんだよー言いそびれただけだ、そんなことよりここでちょっとやらないか?今ももう時間はないがあちらさんもあと2ヶ月しかないだろーよ、次いつ会えるかわからないしさー♪」あちらさんとはヴァリアントレギオンのことを言っているのであろう。俺は野菜が気がかりではあったが時間もない事はない、少しならと了承した。レヴィもフォードエクスプローラーから降りてきて参加した。胸のポケットからi-phonを取り出そうとしたその時、歩道の奥に広がる林の奥で物音がした ガサ‥ガサガサッ‥
何かいる‥ここは県道沿いではあったものの人気は少なく山道でもあった。奥にある熊出没注意の看板が恐怖心を煽った
俺たち3人は立ち上がろうと腰を上げた瞬間。 バッ!!と焦げ茶色の塊が姿を現した。うわっ!!!
「イイネ!汁イネ!」
そこに居たのは古くからの友人、胸板師範こと千石なでこであった。
見覚えのある焦げ茶色のツナギを身にまとい手にはI-phon6が握られていた
「俺もまぜろよー」まさかの展開にみんな唖然としているがまだ顔が引きつっているのが見て取れた。ようやく安堵の表情を浮かべヴァリアントレギオンを起動させた。俺はいつの間にか頭痛も治りゲームに夢中になった俺はアサシン、千石なでこもアサシン、ロソちんもアサシン、レヴィだけ二刀流ベルセルクと言う構成でニーズ討伐へ向かったのであった。「二刀流ベルセルクでいけんの?」千石なでこがレヴィに言った「当たり前でしょう?見てみなさいよこのリントブルムソード、固有スキルを上手く使えばニーズだって立っていられないわ!奥歯ガッタガタよ!」どっちの奥歯がガタガタになるかな‥俺は心の中で呟いたロソちんがすかさず口を挟んだ「そのソードもろこしじゃねーか!ww植物で殴って倒せる相手じゃないww舐めてんのか?おぃ!舐めてんのか!wしばくぞ」みんな笑った。
「しばく!!?」
左側のレッドロビンの生垣の影から幾らか落ち着いた女性の声がした。
「あっ、うるさくしてすみません」律儀な千石なでこがすかさず謝罪を入れたが被せるように「しばく!」生垣のさきの女性が威勢良く吠えた。俺たちは顔を見合わせた。まさか‥目隠しになっているレッドロビンをそっと掻き分け覗いてみるとやはりそうだ!!そこにはギルドメンバーのちくまるが居るではないか!
「うぉっ!うそだろーーーー!!京都じゃなかったのか!!??」ロソちんが驚いた表情をみせ立ち上がった。「ちくのうーー!!」みんなちくのうとの再会に心が踊っていた。「うるせー」ちくのうが叫んだ、まるで機械が如く しばく うるせー この2つしか言わないのだ。よくよく見て取ると縁側までプレイステーション4を引っ張り出しオンラインゲームのドラゴンズドグマをやっているようだった。こっちのみんなが顔を見合わせて大声で笑った。「なにも縁側までひっぱらなくてもww」「どんだけだよーーww」爆笑の最中でもやはりレッドロビンの隙間からは「うるせー」無機質に響き渡った。それを聞いてみんなまた笑うのであった。


「さぁ気を取り直してニーズ討伐でも行こう」千石なでこがそう言ったすぐ後に「あっ!空ちゃんもインしてるよーさっきまでいなかったのに、うるせー、とか、しばく、のゴタゴタの中インしたのねw」レヴィが言った。「あたしの代わりに空ちゃんにニーズ討伐託そうかなぁー‥正直もろこしソードじゃあの鋼のような龍鱗にはかすり傷1つつけられない気がするの‥あーぁ‥ニーズが歯槽膿漏ならもろこしでも奥歯ガッタガタさせらるのになー‥歯肉炎でもギリギリ行けるかも!!」レヴィがまた訳のわからないことを言っている。狙っての発言とみんな悟ったかその発言に対しては総じてニヤニヤしたが軽やかなスルーで事なきを得た。
突然、俺の右斜め後ろにあるかなりの巨木であり老木であろうメタセコイヤの木の付近で何か物音がした。ガサっ‥先程の千石なでこの流れではあるがここは熊出没注意区域なのだ。「俺がソーッと見てくる!」まるで昔いた有名AV男優のような黒光りしたたくましい身体を大きく見せロソが立ち上がった。彼もまた駅弁固めなどの技を使えるのであろうか‥そんな事が頭をよぎったが今はそれどころではなかった。ゆっくり物音をたてずにソーッとメタセコイヤにロソが近づく‥
「あっ!!」ロソが大声を上げた。こちらの3人は息を飲んだ。「うるせー」生垣からはそのような声も出たがもはや気にしていられない。ロソが振り返り笑顔を見せた。「見てくれよ!空ちゃんだよ!!すごくねー?ギルメン揃ったじゃんね!!」メタセコイヤの裏に手を差し延べ引っ張り出した。空だ、空が群馬県嬬恋村の山中に存在しているのだ。空は何かを言っている「ボソボソ‥‥」聞き取れず俺が言った「ん??」すると更に「ボソボソ‥」全く聞き取れなかった。恥ずかしがりな空は普段からしてこのように声が小さいようだ。たまりかねたようにロソがフォードエクスプローラーに走り何やら右手に握りしめて戻ってきた、拡声器だ、それを空に無言で手渡した。空は恥ずかしそうな表情を浮かべながらも素直に受け取りこう切り出した「あたしの先端がケーキの槍じゃ無理よー!!もろこしより柔らかいわ!!これじゃあニーズが歯肉炎であっても奥歯ガッタガタできないわ!!レヴィちゃん行ってよー」その声量は凄まじかった、先程の空は何処に行ったのかと言うほどの大音量だ。みんな度肝を抜かれたように目をまん丸くして空を見た。どうやら先ほどの会話をメタセコイヤの裏で聞いていたようだ。「まてまて!それはケーキなのか?槍のくせに!ケーキでは無くて俺には鳥の糞に見える!鳥の糞ともろこしならやはりもろこしのが強いか!!?」みんな笑ってくれた狙って言ってみたが先程のレヴィのように滑らずには済んだようだ。しかし俺は思った。なぜこんなところにみんないるのだろうか‥奇妙だが楽しいからいっか‥そんなことを思っていると突然「あたし応援する!!!!」拡声器から空が怒鳴った。びくっ!!とみんなしたが笑顔を見せた。その機械的なノイズを含んだ大声でちょこちょこ応援して来るのだ。その度にみんな肩をすくめて驚くのであった。突然その機械的な声の中から男の声であろう叫び声が響き渡った。 「ぃーーーーーー!!!」ゲームに集中して空の大声量の声には比較的慣れてきてはいたが突然の男性的な太めな声に辺りを見回した。 「ハーフボーイをハフハフーーー」えっ!!聞き覚えのあるセリフに立ち上がって辺りを見回した。どうやら他ギルドのジジキ軍団のムードメーカーであるキャパこと黒井白子が選挙カーに乗って街頭演説の真っ最中のようだった。「ハーフボーイをハフハフ!!ジジイ、ジジイをよろしくお願い致します!!」よくよく見ると箱乗したジジイがこちらに向かって割れんばかりの笑顔で手を振っていた。 「お小遣いあげよかー」ジジイが言っている。まるでこれはチャットの定型文ではないか!!と思ったがさらにそれは賄賂だろーー!!wwとも思った。運転席ではみゆきゴッドが運転している 。空が拡声器で応戦した。 「キャパとみゆきんぐ!逆だろーーwww」みんな笑顔だ。
しかし不思議だった俺はヴァリレギ内では普通に会話もするしアバターもよく見てはいたが

実際に会った事があるのは千石なでこただ1人だ

だがそこに居るロソ、ちくまる、空などなどの存在がその人達である事に間違いは無く会話に違和感も感じなかった。

再び辺りを見回した。そこにあったはずの熊出没注意の看板は無く明らかに群馬県嬬恋村の県道では無かった。西側の奥に古びた木箱と木製の酒樽が転がっていた。東側と南側には外から二階に上がれる階段があり、南側は海に面していた。どうやら何処かの広場のようだった。気が付かぬうちに人間の数も増えている、パンダの着ぐるみを被ったやたらと大きな西洋刀を持った人や上半身はまるでボブサップを想像させる肉体に盾と斧を持った男、さらにはほぼ裸体であろうたわわに実ったボディーを惜しげも無く晒した女性、サンタクロースの衣装の男性も見て取れた。いずれも手には凶器をもちただ立ち尽くしているのである、実に奇妙な光景だった。しかもあろう事か俺はその人達に見覚えがある。東の階段のしたでボーッと立っているのはたいすけだ。なにかを呟いている。「@1、@1だよー、はよだれかー」 人を呼んでいるようだ。
あーそうか‥俺はゲームのやり過ぎかどうやらあと2ヶ月で終わるであろうあのゲームの中にいたのだ。耳を澄ませば色々な声が聞いて取れた。南の海沿いの展望台に居るのはタムさんだ。海に向かってボーガンの矢をひたすら撃っている。何処からそんなにて矢が出てくるの?と思うほどにひたすら海に向かって矢をぶっ放しているのだ。
「お小遣いあげよかー」
またジジイの声が聞こえてきた。もはや街頭演説車輌には乗ってはおらず手にはボーガン、頭にはパンダの着ぐるみといった格好で真横にいる同じギルドメンバーのやまちゃのに向かってボーガンをぶっ放した。「危ないっ!!」俺はおもわず声を上げた、しかし矢はスッ!と通り抜け何事も無かったようにジジイに向かって右手に持っている鋭い短めの西洋刀でジジイを切りつけた。俺はまた目を伏せた。しかしジジイも涼しい顔でニコニコしている。「あーそうか、あのゲームも広場では相手に対して傷をつける事は出来なかったなぁ‥」未だにドキドキと鼓動を打つ心臓だったが落ち着いて考えた。考えても考えてもわからない事だらけだがゲームの中にいる事は確かなようだ。不意に頭の中に誰かが問いかけてきた。「早くニーズ討伐に行こうよー!まだー?」明らかに千石なでこだ。声が聞こえてくる訳ではない意識に直接問いかけてくるような不思議な感覚であった。 「カリはよー!」レヴィが騒いでいる。俺も行かねば‥そう思いたった瞬間俺は小さな小部屋の中にいた。その部屋には壁に斧や刀が掛けてあった右斜め前には酒樽だろうか、大量に積まれている。手前と奥に扉を確認できた。周りには3人の人がいた。ロソちん、千石なでこ、レヴィだ。目の前に千石なでこが来た。先程の焦げ茶のつなぎ姿では無くパンダの着ぐるみをかぶりパンティストッキングにメリケンサックを2つ持つというどう見ても職務質問して下さいと言わんばかりの格好でこちらに向かって「よろしく」と言った。俺はニヤニヤしてしまったが自分も訳のわからない可愛らしい緑の帽子にいつこれ程までに鍛えたであろう上半身、下半身は仮面ライダーを彷彿させるわけのわからないパンツを履いた格好であると気が付きいささか恥ずかしい気分になったのである。
「よろしく」「よろしく」「よろしく」
みんなよろしくしている。いざ出発の時だ。


舞台が一変した。目の前に広がる景色はすさまじいものがあった。まるで血のように赤い火砕流のような物がドロドロと流れては落ちその勢いはとどまるところを知らない。奥にはキューブ状の物体がどのような原理かは定かではないなフワフワと中に浮かんでいる。一見してただオドロオドロしいようにも見えるがどこか近代的でありこれは未来の人類が滅亡した後の世界なのか?‥と思わせるような不思議な先入観があった。
俺は恐ろしくなった。周りにいる他の3人はこの状状況をどう捉えているのであろうか。今ここに立っている俺のように実際の自分が装備を整えてボスに立ち向かおうとしているのか?‥はたまた目の前にある各々のスマートphonを手に取り単純なゲームとしてボスに立ち向かおうとしているのか?
ロソちんがこう切り出した。「ポット開けとこーかー?俺初見だし開けておきたいんだよねー♪」そこで千石なでこ「イイネ!汁イネ」「汁イネ!イイネ」ふざけているように見えた。レヴィからの返答も 「オッケッケーーひゃっひゃっひゃっひゃw」本物の猿のような笑い声だ。この軽く楽観的な反応を見た俺は先程の2択に照らし合わせ明らかに後者であろう‥と断定した。顔面麻痺のように顔を硬直させ前に出るのをためらっているのは俺だけだったがもはや後には引けない事くらい分かっている。走って行ったロソちんがポットを割った。中からは香水の入れ物のような物に赤い液体、青い液体が入っている瓶が各2つづつ、計4つ出現した。
ゲームの経験上ではあれに触れば体力、MPが回復するはずだ‥そんなことを考えている最中であった、千石なでこが空間の中心に歩を進めた直後。
ドッシーーーーーンっ!!!!
ととてつもなく巨大な龍が空から降りてきたのだった。自分の100倍近くあろう体格。それどころかとてつもない衝撃波を、まるで水面に何かを落としたかのように波紋となって広がった。
何て事してくれたんだ!!俺は心の中でそう呟いた千石なでこが中心に向かった結果とんでもない化け物を呼び寄せてしまった訳だ。ぐぬぬ‥今度会社帰りになでこの家に寄った暁には車のマフラーにバナナを突っ込んで動かなくしてやるっ!!そう心に誓った。一応戦い方は分かっているつもりであった。注意すべきは尻尾の叩き付けか‥炎の出は遅いのでシャドー〜ステップで余裕を持ってかわせるはず‥化け物の全体重を乗せて潰してくる攻撃はダメージ的には低いはずだ‥そのような認識であったが自らの100倍程の大きさの全体重に潰されたら大型トーレラーにひかれたも同然ではなかろうか‥恐ろしい‥通常の爪攻撃は化け物の腹下に潜っていれば当たらないはず‥そして最も恐ろしいのはまるでコンコルドが如く高速で突っ込んでくる飛行攻撃か‥もう後には引けない。「うをーーーーー!!!」覚悟を決めた俺が叫んだ。裏腹に「イイネ汁イネ」なでこが言った。気にしている余裕などまったくもってなかった。やってやる!!!‥これでもゲーム内では誰よりもニーズヘッグを倒してきた自信があった。コンビクターの称号さえ手に入れて来たのだ、やれる!!‥化け物の目の前に到達し心の中で(これはゲームだ、これはゲームだ‥)と念仏のように反復させた。化け物が尻尾を振り上げた。ここだっ!!!‥相手の懐深く潜り込みバニシングリッパー〜キャンセル〜スモークハイド確実に大ダメージを与える最善の方法で化け物の腹下を斬り刻んだ。龍の鱗がいくらか削げたか?‥そう思った。「ぴぇ〜〜」いささか笑い混じりの悲鳴に気がつき後ろを振り返るとレヴィが頭から大量の鮮血を吹き出し倒れていた。腕はもげ骨がむき出しになり身体全体が痙攣しピクピクと不気味に動いている。俺は絶句した。さすがに恐怖に駆られ自らにインビジブルをかけ化け物から距離を取った。俺はインビジブルを3までしか取っていないことを思い出し心底後悔した。それとは裏腹に「つえーーーwww火力ありすぎるだろ〜w」レヴィの声だ。よくよく見ると真紅に染まった顔はニコニコと笑っている。「イイネ汁イネ」なでこが言った。「何がだよww」すかさずレヴィが切り返す「ここからパンツがよく見えるゎーww」なでこが言った。俺は、あなたのガーター付きパンティストッキングの方がよほど見えてございますよ。と心の中で一瞬思ったが直ぐに緊張にかき消された。次の瞬間レヴィを見ると先程の傷は完全に癒え何事もなかったかのように立っている。AP回復薬を使用したのだな‥そう思ったと同時に、やはりゲームか‥とも思え幾らか楽になったのだ。その間もロソは寡黙に淡々と化け物のに対して鋭く光るダガーで切り裂いている。俺もなでこもレヴィもそれに触発されるかのように化け物に食ってかかった。何度か仲間の死を見た。ロソは爪で切り裂かれ下半身と上半身が真っ二つに分かれ倒れた、なでこは業火に焼かれカグツチのように身体を紅蓮の炎が包み込み倒れた。その度に一瞬度肝をぬいたが総じて言えるのはやはりニコニコしながら普段通りの会話で「結構硬いなぁ!おぃ!ww」とか「回復薬は山程あるけん(^◇^)回復薬は山程あるけん(^◇^)」と非常に楽しそうであった。俺自身もあの巨大な化け物に踏み潰されたりしたが痛みは全くなくやっぱりゲームだっ!‥と確信に至りいくぶん無茶な攻撃試みたりと段々何時もの動きを取り戻していった。MPが足りない感覚は脱力感として現れた。まるで精も根も尽きたような感覚に襲われやる気の無さが常軌を逸脱した。青い香水瓶の前に来た。触ってみたが脱力感は治らない‥何故だ??‥奥に少しだけ見えたロソちんが赤い香水瓶をまるで牛乳を飲むかのようにガブガブと飲んでいるではないか!!!そうかっ‥俺は悟った。一瞬ためらったが最早ゲームと認識できているため勢いよく胃に流し込んだ。「くっさ!!!」とてつもない悪臭だった。小さな頃に犬の糞が乾燥したものを手持ち花火で炙ってみたところ常識はずれの激臭に思わず気を失いそうになった事を思い出すほど、その臭さに匹敵する程のものだった。だがその臭さが効いたかやる気がみなぎった。赤い瓶にも手を出したがそちらは数週間使い続けたタオルのような風味が感じられた。何れにしても臭いことに変わりはなかったが傷は癒えまた走り出すのであった。突然遠くから声が聞こえてきた。 「こんちゎ」ちくまるだと分かったが流石にみんなチャットを返す余裕が無いのであろう、淡々と攻撃しては避けを繰り返している。しばらくすると「しばく」‥「しばく」‥ちくまるしばくラッシュが始まったがやはり余裕が無いのだ、申し訳ないがスルーする他なかった。巨大な化け物が空間の中央部に腰を落とした。まずい!爆発するっ!!そう思い中央部分に駆け寄りバニシングリッパーを繰り出した、が、しまった!!!そう思った。この新しいニーズは以前とは違い自らを中心にプラズマのような物をコマのようにグルグルと回しそれに当たった俺は体力が削がれた。レヴィはいくらか遠くで自慢のリントブルムソードの固有スキルを発動させた。俺はバニシングリッパーの硬直が解けない。ガリガリと体力が奪われて行くのがわかる、もう体力の限界に来ていた。同時にレヴィが叫んだ
「危ないっ!!!」
もろこしソードを振りかざしライノクラッシュで突っ込んで来たが遅かった。とてつも無い激痛が一瞬身体を走った。今まではどれほどの攻撃を受けてもそんなことはなかったのだ。地面の火砕流が空間の全てを包んだ気がした。肉体は粉々になる感覚に襲われ恐怖を感じた。一瞬、ほんの一瞬だけ甘い焼きもろこしのような香りがした気がした。遠くでは「しばく‥しばく‥しばく」まだ続いているようであった。

終末のソーシャルゲーム

まだ続くよ

終末のソーシャルゲーム

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-22

Copyrighted
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