紙様の暇つぶし
暇つぶしシリーズ、第一弾。
『紙様の暇つぶし』
天国にも地獄にも行けない人が死んだ時、果たしてどうなるのかを自分なりの考えで追求?してみました。
シリーズ名の通り、暇つぶし感覚で良いので、読んで頂けると幸いです。
P.S
没ネタでもとりあえず投稿してしまう悪い癖があります。
ご注意下さい。
プロローグ
人は死んだらどうなるのだろうか?
俺……加治木碧真は、幼い頃からずっと、それが気になって気になって仕方がなかった。
"良い人は死んだら天国へ行く"
"悪い人が死んだら地獄へ行く"
これが世間一般の常識みたいな意見だ。
勿論俺もその意見には賛成だ。
生前良い行いをして来たんだから、死んでからは良い思いをさせて欲しいし、悪い事ばっかりしてきた人が、良い思いをするのは不公平だ。
だから、この意見には賛成だ。
俺もこうであっていて欲しいと願う。
でも……と、昔の俺はこの話を聞かされた時思った。
"ならどちらでもない人はどうなるのだろうか?"
……と。
その時の俺は考えた。
良いことも殆どせず、しかし悪い事もしない人。
そんな人は死んだ時、どうなるのか?
天国に行けるのか?
それとも地獄に落とされるのか?
それか、そういう人たちが集まる場所に行くのか?
俺は考えた。
何のメリットも無いことを、真剣に。
しかし答えなんて出るはずもない。
当たり前だ。
死人は何も喋らないし、何もしようとしない。
ただタンパク質の塊として、存在し続けるだけ。
……本当、あの時の俺はなんて馬鹿なことをしていたんだろう。
そんな事が分かったところで、何の役にも立たないのに。
現に今、その答えを知った俺には、何の利益も無かった。
ただ、そうなんだなぁ……という気持ちが生まれるだけ。
虚しかった。
まだ青臭かった頃の俺の、最大の謎を解き明かしたのに、もうそんな事はどうでも良くなっている事が。
一体俺は、何のために生まれ、そして何の為に死ぬのだろう?
誰かに利用されるため?
社会の一部として生きるため?
美味しい餌として、搾り取れるだけ搾り取られるだけのため?
虚しかった。
でも、今更考えてもどうにもならない。
俺は空を見上げる。
今日もまた、雲ひとつ無い晴天だった。
まるで夏の様に、照りつけてくる暑い日差し。
こんなに出て大丈夫なのか?と思うぐらいに、珠のように吹き出てくる汗。
何もかもが、どうでも良かった。
「はぁ……」
暇だ。
とにかく暇だ。
俺は被っていた真っ黒な帽子を脱ぎ、真っ黒なズボンのポケットに手を突っ込み、紙とペンを取り出す。
「結局、やる事と言ったらこれしか無いなぁ……」
そう苦笑いしながら、俺は紙に視線を落とし、描き始めた。
自分だけが全てを知り、全てを理解し尽くしている、自分だけの|世界を。
1話、始まりの約1日前
「……ごめんなさい」
都会を走る電車に揺られている俺の耳に、何かを謝るのに最も定番な言葉が聞こえてきた。
俺は顔を上げ、周りを見渡してみる。
都会を走っているにも関わらず、この電車に乗っている人はまばらだった。
それもそうだ。
今の時刻は早朝4:34分。
かなりの物好きか、相当大切な用事でも無い限り、始発の電車に乗る機会なんて殆ど無いだろう。
なら、俺はその何方かの事情が有るのかと聞かれると、そうでは無い。
俺は暇だった、何をしても。
何をしても、ある程度の結果を出すことが出来て、何をしてもある程度の結果しか出すことが出来ない。
特技とかは無い。
だが、苦手なことも無い。
ただただ、現在まで大量に繰り返されてきた平凡な人の人生を、俺は繰り返していた。
どこに行ってもある程度。
何をしてもある程度。
それ以上もそれ以下も無い。
ただただ、退屈だった。
努力しても意味が無かったし、だからと言って何もしないという度胸は無かった。
良い事もしなかったし、悪い事もしなかった。
そんな人生を歩んでいたら、誰だって一回はこんな事を考えてしまうんじゃないだろうか?
「自分は、一体何のために生きているんだろう」
……と。
俺もそうだった。
生きる意味なんて特に無くて、高校生活という青春も、結局『ある程度』で終わってしまった。
成績も『ある程度』だったせいで良い大学にも入れず、いちよう持っていた将来の夢も潰れた。
(夢と言っても、単にその職が、生活が一番安定しそうだという理由だが)
俺は1人だった。
周りの人達は、どんどんと賢くなっていき、俺を置いてドンドンと先へと進んでいく。
まるで、初めから俺なんて知らないというかのような清々しさだ。
寂しい。
一人ぼっちは寂しい。
別に誰かと一緒だからといって、特に話す事や聞くことなんて無いのだが。
だから俺は、都会から離れる事にした。
特に思い入れも無い街だ。
それでもいちよう大人になるまで住み続けた街だ。
まぁ、別にどうでも良いが。
そんな事を思い出し、多少げんなりとしてしまうが、時刻はまだ5時前。
やっぱりまだ眠かった。
俺は再び机に突っ伏し、スースーと寝息を立て、意識を手放す。
耳元で、「ごめんなさい」と、誰かが俺に俺に謝るような声。
……そんな声が、聞こえたような気がした。
紙様の暇つぶし