右腕
指輪をはめるのは?
こんな話を、あなたは信じてくれるだろうか。
数年前、兄が死んだ。
僕らは一卵性の双子で、父と母はそれは悲しんだ。
車の事故で、僕は大怪我を負い、右腕を失った。
代わりにつけられたのが、そう、君の好きだった、相馬の右腕。
僕よりちょっと長くて白い、繊細な作りの右腕。
僕は思ったよ。
ああ、相馬がここにいる。僕と手を繋いでるって。
それからは、僕は左利きになった。
愛犬のリビーを撫でるのは右腕、そうじゃないときは左腕。
バケツを持つのは左腕、時計をつけるのは右腕。
僕は僕の中で、体に順位をつけていた。
楽しいことは全部、相馬にあげる。
裸になったらフランケン。そんな風に言われて、僕は育った。
大人になって、美大に通っていた頃、居酒屋で働く君を見て、無性に右手が震えた。
そして君の手を掴んでいたんだ。
君は悲鳴をあげて僕を殴った後、まじまじと見て、相矢?とそう聞いた。
君はあいつがもういないって、ちゃんと理解していたんだね。
それから僕らは、付き合いだした。
相馬の右腕で手を繋いだ。
初めて君の前で服を脱いだ時、君は傷跡を撫でて、何も言わなかった。
そして僕らは、この日を迎えた。
悪いな、相馬。
指輪をはめるのは、左腕なんだ。
そう墓前で報告したら、途端、右腕が、僕の物になった。
僕の中の相馬が消えたんだ。
君は信じないかもしれない。
でも、君と僕を会わせたのは、この右腕なんだ、相馬なんだ。
でも、僕は君が好きだ。僕が結婚するんだ。信じてほしい。
そう言ったら、ウェディング姿の君は目を赤くして泣いた。
花婿のスピーチ、以上です。
ワーッと割れる歓声の中、一人の男が席を立った。
目の端で捉えたその姿は白のタキシードで、僕は、さよなら相馬と心の中で手を振った。
ドアが閉まる。
右手のないその男は、薄く笑ってドアに白いバラを刺した。
右腕
久々即興です。