ボーイフレンド(仮)版権小説「カニかま弁当のお礼」(全年齢対象・無料)
ボーイフレンド(仮)の魅惑の生徒会長、西園寺蓮×主人公。SRカード「生徒会の主 どうか食べてください」イベントから、何度かまた弁当の交換に誘われた後、また今日も生徒会長と……。Amebaの「クチコミ番付」用のネタ【料理は才能?練習?】を見てすぐ書き上げたもの。(最終更新日:2015年7月18日 )
「明日も私とお弁当の交換してくださいね」
西園寺先輩に笑顔でそんなことを言われて、断れるわけがない。友達の誘いを断り、私は弁当の包みを持って生徒会室に向かった。
生徒会室の扉を軽くノックする。はい、どうぞ、と聞きなれた先輩の声が聞こえ、私は生徒会室に足を踏み入れた。いつもきれいに整頓された部屋の奥、赤いソファから、西園寺先輩がゆっくりと立ち上がる。
「お待ちしてましたよ」
先輩に呼ばれると、まるで花に誘われるミツバチのように、足が自然と向かっていく。
西園寺先輩は、窓際のティーテーブルに私を促す。真っ白な猫足が美しい、丸いテーブルの上には、今日は薄桃色の小さなテーブルクロスが広げられている。
私は先輩と他愛ない会話を交わしつつ、弁当をクロスに広げた。代わり映えのない内容だが、先輩は毎回上手にほめてくれる。
「今日の卵焼きの甘さは、普段より引き立つ感じがしますね」
「少し塩を入れてみましたが……いかがです?」
「なるほど。本来、逆であるような味が、お互いを引き立て合っているわけですか。華道の世界にもあるのですよ。少し異質なものが混じることで、全体として統一がとれる。ただ、私もその境地にはなかなか行き着けませんけれどね」
生徒会室の隅に飾られた花にちらっと眼をやった先輩がふとため息を漏らす。私から見ると非の打ちどころがないような佇まいが、先輩にとってはまだ納得がいくレベルまで行き着いていないのだろうか。
「あ、すみません、あなたとの大切な時間に」
「もし何か悩みでもあるのなら……私で良ければ聞かせてくださいね」
「フフ、そんなことを仰っていいのですか? 少なくとも三日三晩はあなたを帰しませんよ」
「三日三晩とはまた長いですね」
いつの間にか箸をおいていた先輩が両手で私の左手を取る。
「足りないですよ。あなたの悩みを聞く時間を含めると。まずはあなたから話してもらいましょうか」
悩みか……。
「成績が上がらないとか?」
「私が教えて差し上げますよ」
恐れ多い気がするけれど……教えてもらいたいかも。もう少し違う悩みは……。
「ん……。ニキビが治らないとか?」
「舐めると治ると言いますから、私が舐めてあげましょうか?」
「え、それは結構です。迷信ですよ迷信」
「フフ、知ってますよ。私があなたを舐めてみたいだけです。この卵焼きより甘そうですからね」
あれ、と思う間もなく、手を口元に持っていかれる。
「ただ、今日は先にお弁当をいただきましょうか。昼休みはあなたと戯れるには短すぎますし。それに今日は少し食べるのに時間がかかりそうなものを準備していますので」
名残惜しそうに手が離される。それにしても時間がかかりそうなものって……?
先輩のお重は今日も二段だ。上の段にはまた花をイメージしたような彩り豊かな可愛らしいものが並んでいる。食べるのが勿体ないほどだ。
「ほかの悩みは何かありますか?」
「料理は……もう少しうまくなりたいです。先輩に心底おいしいと言ってもらえるような」
「十分おいしいですよ。才能あると思いますね」
「そんな、才能だなんて。ひたすら練習あるのみです!」
「ここまで愛を感じられる味を出せるのは、才能だと思いますよ。ただ練習もあるのでしょうね。随分と巻き方が上手になり、このまま飾っておきたいほどですから」
先輩が卵焼きを箸先で優しく摘み上げる。優雅な箸の動きと合わせると、崩れそうだった卵焼きが随分と整って見えるから不思議だ。
「ほら、あなたも見てるだけでは減りませんよ。また手づから食べさせて差し上げましょうか?」
「いえ、あれはちょっと」
先日あーんされてしまったけれど、もうあれは当面なしでいいと思う。
「遠慮なさらずに。何がいいですか? あ。そろそろ、カニをお披露目いたしましょう」
……カニ?
「いつか大きなカニを食べてみたいと仰っていましたよね。あのかまぼこに勝てますか、試していただけます?」
……まさか。先日、私の弁当のカニかまを初めて食べて驚いていた先輩と、確かそんな会話を……。
先輩がゆっくりとお重の一段目を取り外す。一段目だけでも豪華だったのに、その下で窮屈そうに収まっているのは、茹で上がって真っ赤なカニだった。松葉ガニというのか、越前ガニというのか、名前知らないけれど。こんな大きなもの、見たことがない。
「カニ酢は別の容器に入れてきましたから、つけて食べてくださいね。あ、カニばさみも準備しておきましたから。あと、このカニスプーンですくい出すと良いですよ」
先輩が満面の笑みで、銀色の細い棒を差し出してくる。
「ちゃんとシェフにさばき方を教わってきたのですよ。こうして」
先輩は器用に足と胴体の間を切って、足を取り外し、細くなっている部分は真ん中にはさみを入れる。
「まず太いほうからどうぞ」
受け取ると、足の裏側、白いほうには、大きな切れ込みが入っていて、きれいな白い身が顔をのぞかせていた。そして先輩に教えられるまま、カニの足三本をおいしくいただいた。「残りは持ち帰ってご家族とどうぞ。生徒会室の冷蔵庫に入れておきますから、帰りにとりに来てくださいね」
昼からの授業は、手を洗ってもなかなか取れないカニの匂いと、放課後もまた生徒会室に呼ばれてしまった嬉しさとで、あまり集中できなかった。
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