ボーイフレンド(仮)版権小説「5月末日、雨」(全年齢対象・無料)
ボーイフレンド(仮)の魅惑の生徒会長、西園寺蓮×主人公。華道部で使う花を西園寺先輩と探していると……。5/31~6/10に開催されたボーイフレンド(仮)イベント[雨デート15](守って!私の王子様 雨デート15編)スピンオフを兼ねて。Amebaの「クチコミ番付」用のネタ【雨の日の過ごしかた】を見てすぐ書き上げたもの。(最終更新日:2015年6月16日)
今日は華道部の手伝いで、西園寺先輩と花を探している。この学校は、園芸部ががんばっているのか、いたるところに季節の花が咲き乱れている。華道部は花を摘んでも良いことになっているとかで、時々先輩とこうして構内を散歩するように花を探すのも日課のようになってきた。
「今日はどのあたりにしてみますかね?」
傘を差して、二人並んで歩く。小雨が降り出し、運動部が慌てて体育館などに避難したので、今日の放課後はいつもより静かだ。雨の音がより静けさを強調している気がする。
「この季節は薔薇も良いのですが……あの辺りはいかがでしょうか?」
先輩の差す方向を見ると、きれいなピンク色の紫陽花、そしてその奥に、瑞々しい紫の菖蒲が何本か生えている。
「菖蒲を育てられるようになったとは、園芸部のレベルが年々上がっているようですよね。水の管理がかなり難しいのですよ」
先輩に誘われるまま近づくと、切り株を模した模造木できちんと一角が区切られて水が溜まっており、菖蒲はその中に整列するように並んでいる。大粒の雨粒が花に当たり、風もないのに揺れているようだ。
「この花が先輩の手にかかるとどうなるのか見たいのですが、摘み取ってしまうのはもったいないですよね……」
「そうですね。これはこのまま見ていたいですね。濡れる様が美しいですし」
しばらく先輩による菖蒲談義を聞いていたが、少し寒くなり、ぶるっと体が自然に震えてしまう。
「あら。こちらの花も大分濡れてしまっていますね。今日はそろそろ戻りますか」
スカートの端が濡れて少し色が変わってしまっている。小雨と思っていたのに、侮れない。
歩き出すと、先輩の少し大きめの傘と私の傘とが触れ合ってしまう。いつもより少しだけ遠い距離。
「傘は一本のほうが良いですね。二本ではあなたと手がつなげないのが残念です」
「半そでになれば大丈夫ですよ。少しくらい腕が濡れても。明日から衣替えでしたよね?」
「フフ、あなたがそんなことをおっしゃるとは、そんなに私の手が恋しいですか?」
先輩は足を止めて少しかがんで、傘の下から私を見つめ、手を差し出してくる。
「このまま傘を取りさって、あなたを雨の降りしきる中で抱きしめたい気持ちで一杯なのですが……とりあえずまずは校舎に戻りましょう」
傘が邪魔にならないよう、そっと手を取る。歩き出すとやはり腕に少し雨が当たってしまう。私の傘のほうが低いから、主に先輩の腕に。
「先輩、やはり手は……」
「そうですね。では傘を閉じてこちらに入ってください」
「でも……」
「このままでは二人とも濡れてしまいますよ」
急かされるままに自分の傘を閉じると、すっと腰を引き寄せられ、先輩の傘に収まる。
「先輩、駄目ですよ、今度は肩が濡れてます」
「心配してくださるのですか? あなたさえ濡れなければ私は大丈夫ですよ。それに……あなたを濡らしてよいのは私だけ、ですから」
雨音を背景に、耳のそばでそっとささやかれると、これから何をされるかとつい想像してしまい、鼓動が急に早くなる。先輩の顔が思ったより近い。すっと唇が近づき、私の額に落ちる。
「そんなに甘い瞳で見つめないでくださいね。このまま雨の中で閉じ込めたくなる」
少し冷たく、小雨のようなやさしいキスが、額から鼻、そして頬へと落ちてくる。
冷えるから帰りましょう、と言いかけた唇も、最後には軽く塞がれた。こっそり目を開けると、先輩の前髪にすっと雨粒が落ちて、涙のように頬を流れていった。
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