猫になった日

理想と現実

俺は自由が欲しかった。
ただ会社と家を往復する日々に疲れただけなのだ。
気になっている会社の後輩が最近猫飼い始めたんですよーって言うもんだから生まれ変わったら猫になりたいなぁなんて思いながら寝て朝起きたらなんと俺は猫になっていた。
三角の耳、円らな瞳、毛だらけの体としっぽ。
まさかこんな事がありえるのかって。
半ばパニックになりながら部屋中歩き回っていると飼い主らしき人が中へ入ってきた。
なんとその飼い主はまさかの後輩ちゃんだった。俺は彼女の飼い猫とすり替わっていたのだ。
そうとは気づかず彼女は俺を抱きあげてすりすりと頬ずりした後目の前で生着替えをし始めた。
うおおおおラッキーっと声が出たが猫になったからにゃあにゃあ、としか鳴けなかった。
そしてあることに気づく。
今日は会社へ行かなくてもいいんだ。だって猫だから。
これからはずっと好きなときに起きて好きなだけ食べて寝て暮らせる。
後輩ちゃんは俺をそれはそれは大切にしてくれた。
一緒にお風呂に入ったりベッドで寝たり。
毎日のように可愛い彼女の胸に顔を埋めて好きなだけ可愛がってもらえた。
後輩ちゃんとの生活はまるで夢の様な日々だった。
しかしそれも最初の一ヶ月まで。
あるとき後輩ちゃんは俺を籠に入れて病院へ連れて行った。
医者に注射をされそうになって抵抗する俺に無理やり麻酔を打って目を覚ましたら股間のアレが消えていた。
俺は去勢されてオカマになってしまった。
もう子供は作れない。それどころかメス猫も女も抱けない。
全ての存在意義が絶たれてしまった。
そして基本的に後輩ちゃんは俺を家から出してくれることはない。
一日中一人ぼっちで彼女の帰りを待つ日々に段々とストレスだけが溜まっていった。
こんなはずじゃなかった。
これではただの愛玩動物へと成り下がっただけだ。
俺なんで猫になりたいなんて思ったんだろう。自分の身の上を思って泣けてきた。
人間の方がよっぽどましだ。多少不自由はあっても好きに外出できるしあたたかいご飯も食える。
何よりこの腕で後輩ちゃんを抱きしめてあげることができる。
明日朝になったら戻ってないかなぁ、なんて泣きながら寝て目を覚ましたら、人間に戻っていた。
うおっしゃあああああ戻ったああああああ。
そして人間に戻った俺がまっさきに行ったのは後輩ちゃんのところだった。
人間に戻っても彼女の想いだけは消えなかった。
そしてあわよくばあの天国の様な日々に戻りたい。
「君が好きだ。付き合って欲しい」
「は?鏡見ろよキモッ」
とこっぴどく振られた。その時鏡に映った不細工なキモデブ男に俺は思った。
やっぱり猫になりたい。

猫になった日

猫になった日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-18

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted