蛇口

お題蛇口で。

彼女の使った後の蛇口。

ある少女が、蛇口で水を飲んでいた。

それを僕は見ていた。
僕はその子が好きだった。
吹奏楽部で、いつもトランペットを吹く練習をしている彼女。
爽やかな風が通り抜けて、彼女の茶色がかった髪を揺らした。

彼女が去ったあと、僕は蛇口に口を付けた。
野球部の僕。汗が流れて、額から滴った。
焼けた右腕に、皮のはがれた跡がある。

僕は知らなかった。
僕が去ったあと、相撲部の男子が、それを陰で見ていたことを。
そして、僕の使った後の蛇口に、そっと口をつけたことを。

「あー、あっちー」

そう言ってごくごくと水を飲み、仲間と「ごっつぁんです!」とぱちんと手を叩き合ったことを。

蛇口。
それは、名もなき者たちを結びつける秘密の扉なのだ。
特に夏はそれが多い。
たとえ予期していなかったことだとしても。

蛇口

あー、すっきりした。

蛇口

蛇口、それは見ず知らずの者たちを結びつける。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-17

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