Wolf the novel
桜も散って夏を迎えようとする季節。
俺は気がつけば見知らぬ部屋にいた。
一本の蛍光灯が部屋全体を薄暗く照らしていた。
何故おれがここにいるのか、いつからここにいるのか全く検討もつかない。
ただ長い時間寝ていたのであろう…体が思うように動かない
部屋には学習机があり、今自分が寝ているベッドがある。
五畳半ぐらいの広さだろうか、表現するならば、病院のような部屋だ。
しばらく自分がなにをしてここにいるのかを考えてみる、が、全く覚えていない。
記憶喪失なのだろうか。感覚はわからないがそうではないという確信のようなものがあった。
些か危険であるかもしれないが部屋を出てみようと考える。
ゆっくりと身体を起き上がらせドアへ向かう。
正直、歩くのも結構しんどい。
ドアに鍵がかかっているかもしれないと思ったが、ドアノブは簡単に横に回り、外に俺を案内する。
どうやら小さな小屋のような場所にいたらしい。
暗い外には海が広がっていて大きな船が行き来をしている。
どうやら港のすぐ近くにある建物で寝ていたらしい。
その小屋の後ろを覆うドッグの後ろでは自動車が走る音が聞こえる。
ドッグの後ろには夜を包む灯りの色に覆われており、お世辞でもいい雰囲気とは言えない。
壁には所々スプレー缶で書いたであろう落書きがされており、ゴミがそこにあるのが当たり前かのように上げ散らかされてある。
しかし、今はそんなことは気にならなかった。
とにかく今自分がおかれている状況を理解できていない自分は警察に行くこともできずにたださまようことしかできないのだ。
気がつけば俺は繁華街の方に足を運んでいた。
繁華街はとても賑やかでとても夜とは思えない賑やかさだった。
その繁華街をどうするわけでもなく俺はその道をただただ進んでいた。
すると20代前半と思われるチンピラに声をかけられる。
「よぉ、兄さん。こんな夜遅くになーにやってんの?ガキはさっさと家に帰って寝てろや」
無視。そうしていた方が正しい判断だと思ったからだ。
しかし、その予想は見事に裏目に出た。
「何シカトこいてんだ!こっち来いコラ!」
腕を強引に掴まれた俺はそのチンピラに言われるがままに路地の裏に連れて行かれた。
するとチンピラの仲間であろう三人が逃げ道を塞いだ
「兄さん、持ってる金全部だせよ。そしたら五体満足で家に帰らせてやる。」
なぜここにいるかどうかすら覚えてないのに金なんか持ってる訳がない。
もしかしたらあの部屋にあったのかもしれないが今は持ち合わせていない。
さて、普通なら許してくださいと泣きつくのだろう。
しかし、俺には一片の恐れもなかった。
「てめぇらに渡す金なんか1円ももってねぇんだよ。」
リーダー格であろうチンピラに強い目線で睨みつけ、こう言った。
「舐められたもんだな、そんなに病院に行きたいんだったら協力してやるよ。」
その瞬間、そのチンピラのパンチが俺の腹を直撃した。
思いがけない痛さに俺はその場に倒れこんだ。
…と同時に不思議な感覚に陥った。
痛みや苦しみとかそういうものではない。
もっと楽しくて気持ちがいいものだ。
本来動物が持つべき捕食の欲望。
そんなものが一瞬で頭をよぎり、俺は笑っていた。
「何笑ってんだよっ!!」
チンピラが倒れた俺の顔面に蹴りを入れようとした瞬間…
その場にいたはずの倒れこんでいた少年は消えていた。
「なっ!!」
突然の出来事にパニックに陥ったチンピラは一瞬止まった。
その時、首の後ろに思い衝撃がのしかかった。
その少年の肘だった。
声をあげるまでもなく、そのチンピラは失神しアスファルトの上に倒れた。
「さて、次の獲物は誰だ…」
そう言って睨みを効かせると残りのチンピラたちは走って逃げて行った。
「やれやれ、いきなりやらかしてくれたねぇ…」
やる気のなさそうな声と共にビルとビルの間から銀の長髪の男が出てきた。
「いきなり能力使われたりすると困るんだよね〜。始末書とか面倒臭いんだよ?ほんと」
何だこいつは。俺のことを何か知っているようだ。
「誰だお前」
「おや、これは失礼。本日から君の世話をする。田代だ。どうぞよろしく。」
「世話?そんなことをして貰うつもりは無いぞ。」
「なにを言ってるんだい?あぁそうか。記憶を消されているんだった。君なにか覚えていることある?」
消された?記憶が?全くもって意味がわからない。
「とりあえず今は始め痛場所に戻ろう。話はそれからだ。」
そう言って田代と俺は目が覚めた小屋に戻ることにした。
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