薄氷
麦茶に入れられた氷のこと。
カップの中の氷のこと。
最近、お茶でもなんにでも氷を入れる。
飲み終わるころ大きかったそれは解けて小さくなっている。
それをがりがりとか、きしきしと音をさせて噛むのが日課だ。
あるとき、ぼりぼりと音を立てて大きいのを食べていると、「おいしそうに食べるねえ」と感慨を受けたように言われ、はて、そうかね。そう返した。
ただ単に、氷を噛む。それだけでそんなに関心を示されるとは。
それだけでその人は笑い、私は氷をすべて噛み終えて飲み下した。
これができない人が多いのだそうな。
氷とは、半ば噛むためにあるようなもんだろう。
昔の人は噛んだはずだ。今の人がどうして噛めない。これも日本の文化だ。
麦茶に入れられた氷を噛む。結構。ジュースの氷を噛む、結構。
ただし酒の席なんかではやめておけ、恥をかく。
いわゆる紳士のふるまいにも、古き日本男児の血を感じて良いと思う習慣である。
日本に生まれたなら、氷を噛め。
そんな気分で、今日もお茶の氷を噛む。別に、食欲防止なんですけどね。
食後暴食しないためにやるタバコみたいなものだ、要するに。
くすりとほほ笑んで、空になったコップを見た。
氷はもう、どこにもない。
薄氷
文化を感じて。