父とタバコ

赤縁

少女のもとに近所の悪ガキが遊びに来た。彼女とその少年は机を囲み、一緒にM&Msで星条旗を作ることにした。この少年は少女が住む家から4軒ほど離れたところに住んでいて、ホームパーティなどに呼ばれた際はよく一緒に遊んでいる。彼女の弟と少年の年が近いせいもあって、少女は少年を弟のように可愛がっている。彼らはたわいもない会話を交わしながら、着々と星条旗を完成させていた。家族の話をしていた時、少女が父のことを話し出した。

——私のお父さんは、私が小さい頃にタバコやめたんだ。でもね、今年の冬に会いに行ったらお母さん達に内緒でタバコ吸ってたんだよ。禁煙できなかったんだって。笑っちゃうよね。

彼女は続ける。私のお父さんは20年近く私を騙してたんだよ。そう言って笑った。

今度は少年が話し出した。

——僕のお父さんも3週間くらい前に禁煙してたよ。でも禁煙開始3日目に裏庭でみんなでご飯食べてた時に、お父さんのポケットから封の開いたタバコが出てきた。僕は一人でこっそりバスルームに向かって、一人で泣いたんだ。

少年は指に持った青いM&Msを見つめながら、口元に薄い笑みを浮かべた。その笑みを見た瞬間、少女はハッとした。父親が子供を騙すというのがどういう意味なのか、そして彼女は負った傷を見ないふりをしていたことに気づいたからだ。彼女の脳内が、父がタバコを吸う姿を見た時にフラッシュバックする。

そこは彼女の父が前に勤めていた山岳救助隊の飲み会で、彼女はそこに混じってBBQをしていた。救助隊の人たちと話をしている時、なんとなく遠くにいた父を見ると、彼は周りの人たちと談笑しながらタバコを燻らせていた。彼女は何を見ているのか一瞬で理解できなかった。お父さん、だってあなたは昔に…。現状を把握した時、彼女は頭を後ろから思い切り何かでぶん殴られたような衝撃を受けた。ちゃんと椅子に座っているのに世界がぐにゃぐにゃに歪んでいる。ごまかそうと、手に持っていた酒を飲みこむ。唐突に叫びたい衝動に襲われたが、こんなところで叫ぶわけにもいかず、とりあえず彼女はその感情にフタをすることにした。その後、少女と父が二人で山に狩りに行く時も、その後の猟師仲間との飲み会の場でも、彼はのほほんとタバコを吸っていた。彼女は感情にフタをしたままで、何もなかったかのように彼と接していた。いつの間にか、彼女自身もそのフタの存在さえも忘れてしまった。

しかし今、目の前のうつむいた少年の悲しそうな笑みが、彼女にフタの存在を思い出させてしまった。彼女は現実に戻り、少年を抱きしめた。一人で泣かないで。お父さんにそのことを伝えてあげて。きっとわかってくれるはずだから。彼女はそう喉元まで言いかけて、やっぱり飲み込んだ。これが本当にこの少年のためになるのか分からなかったからだ。今度は少年は照れ臭そうに笑って、いじっていた青いM&Msを星条旗の一部に置いた。

少年が家に帰った後、彼女はタバコに火を点け、大きく息を吸い込む。フタを開ける覚悟はまだできていない。

父とタバコ

父とタバコ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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