earth - 母なる大地 -
春、夏、秋、冬、移ろう季節。
母なる大地のひとつの巡り…
春
目が覚めた私はひとつ、大きな欠伸をした。つづいてゆっくりと体を伸ばす。途方もない眠りから太陽の元へと帰ってきたのだ。
パキパキ、ポキポキ、あちらこちらで骨という骨が私におかえりと、ただいまをしらせる。
いつの間にか空いていた窓からは踊るように風が舞い込んでカーテンを揺らした。
来る日も来る日も私を待ちわびた、そして私も待ち望んでいた存在は一足先に気がついていたようで。遅かったね、なんて控えめに柔らかな緑を揺らした。
だから私もささやかに笑む。
その緑が風に揺らぎ、雨に恵みと謂れのない暴力を受けながらも、陽の光と、それ以上の輝きで世界を包むひとりになればいいと願って。
梅雨
こんにちは、そんな出会いの時間が伸びて。さようなら、おやすみなさいの空はまだ明るかった。
朱に夕暮れ。影は優しく家路につく子どもの背中を見守る。
けれど濡れた緑の遂げるはやさに気づくものはいない。みんな生温い雨の隙間を縫って季節を駆け抜けていくから、まだまだ薄い色素が染まりだすその頃を見逃すのだ。
なんてもったいない。私は滴を浴びるのも構わず目を凝らして奇跡を目の当たりにする。らしくあれと蕾みひらく姿は、並び競う私たちよりもよっぽど美しかった。
秋
月を愛でる。稲穂が頭を垂れて、蝉は螺旋を次に託す。
緑は鮮やかに彩った。少女がひっそ熟れるように実る果実はみな甘い。私はその中でひときわ不格好な子を見つける。齧れば予想通りに舌が痺れてお世辞は音にならなかった。解っているのか恥じるように目を伏せる、もう緑ではない子に私は言う。
誇れ。カラスに見捨てられても、売られず腐り落ちても、ひとつの果実がみんなの中でひとつとして在ったと。
今度は照れて俯くその子はどんなものより赤く甘く、清かった。
冬
枯れた空気はしん、としずまり支度をおえた私は微睡むことが多くなった。
もうじき積もる白に思いを馳せる。また耐え忍ぶ眠りが訪れる。
しばらく緑ともお別れだ。少し寂しけれど、はじまりとは逆に私が置いていかれる番なので。置いていくよりも幾分気持ちはなだらかだった。
あのあと赤は渋く衣替えをしてゆっくりひとつの巡りを終えた。
今は裸ん坊のまま雪に包まれ束の間の夢をみていると思う。
だから私も安心して、いつかの蝉のように螺旋を託していけるのだ。
緑はもう、私がいなくても大丈夫。卑屈ではなく、意地の悪い寂しさでもなく、ただ、心のどこかで確信している。
だから私は、安心して逝けるのだ。卑屈ではなく、ほんの少しの寂しさとともに、あなたとの思い出とともに。
earth - 母なる大地 -
巡りふたたび春が来たら、太陽のもとで私は緑と螺旋状に久しぶりの再会を果たす…