I miss you.

.

「僕さ、君のこと好きなんだー」
こいつは、いつも突然。ほら、また。
思わず声の出しかたさえ忘れてしまう。
少しの間を置き、軽く咳払いをした。いろんな考えが頭の中を一瞬で過る。
「嘘つけ」
動揺を必死で隠し、鼻で笑う。
好きとか安易に言うもんじゃない。
「嘘じゃないよ」
いつもと同じ、でも、どこか少し低めの落ち着いた声。
私より背の低いせいか上目遣いで、危うく惚れるところだった。
どーだか、私は目をそらし歩き出す。
駄目だ。これ以上一緒にいると捕まってしまいそう。
後ろから聞こえる足音。自分のものじゃない影。
駄目だ、もっと早く。
「ねぇ」
歩みを止める。ゆっくりと深呼吸をして振り返る。
「君の好きなひとは誰?」
私の好きなひと?
そんなの、守崎に決まってる。だって彼氏なんだから。
そう、だよね?
落ち着いて口を開く。大丈夫、まだ捕まってない。
「そんなの、」
「そんなの?」
下から覗きこむ瞳。真っ直ぐで、目をそらすこそさえ許されないような。
あぁ、駄目だ。私はもう、捕まっていたらしい。
「淕空に決まってるじゃん」

.

「きもい」
そう言って通りすぎたのは、ついこの間まで私の隣にいた彼の声だった。
思わず後ろを振り返る。が、こちらをうかがう様子もなく教室から出ていってしまった。
気のせい、かな?
夏休みが明け、はや2週間。そろそろ学校生活にも慣れ始めた頃。
突然、淕空に避けられるようになった。原因は分からない。
ただ、とにかく私に近づこうとしない。
何もわからず、自分から話しかけることもなかった。
そして、久々に淕空がなんの躊躇いもなく私の横を通り過ぎたと思ったら、これだ。
一体何なんだろう。
とりあえず、トイレにいこう。この煩さの中じゃ考えるものも考えられない。
立ち上がり廊下に出ようとしたとき丁度教室に入ってくる淕空とぶつかりそうになった。
身長があまり変わらないせいで顔の距離がものすごく近い。
夏の間にいつものように見ていたはずの顔はすごく歪んでいて怖かった。
汚物を見るような目。小さく開いた口から発せられた言葉。
ほんの数秒。いや、数秒もなかったのかもしれない。
でも、それはとても長く永遠のようにも感じられた。
微動だにしない私の横を彼はなにもなかったかのように通り過ぎる。
暫く呆然としていたが突然吐き気と頭痛が襲ってきた。無意識に走りトイレに駆け込む。
一番奥の個室に入り、乱暴にドアを閉めた。
息が、荒い。呼吸をするのが酷く辛かった。
鼓動が聞こえてしまいそうなほど静かな空間に少しだけ安心する。
数秒たち、呼吸はなんとか出来るようになった。
壁にもたれ掛かると丁度授業が始まったのか、号令をかける声が聞こえる。
でも、今は到底授業のことなんて冷静に考えられそうにない。
呼吸は整ったものの、涙が溢れて止まらないのだ。
わけもわからず涙が落ちて視界がどんどんボヤけてくる。
ぬぐってもぬぐっても落ちてくる。
何が原因で泣いているのか分からなかった。自分がここに来た理由。
呼吸が儘ならなかった理由。
全部遡って、淕空が原因だとわかった。
なにを言われたのか。目を閉じる。

──消えて

息を吸い目を見開く。途端、さっき見た彼の表情や声が蘇った。
また、過呼吸になる。吐き気がする。
ポケットの中に手を入れハンカチを取り出す。そのときなにかが落ちた。
音のした方見ると、そこにあったのは私のカッターで。
なぜポケットの中に入っていたかは分からない。
けど、そんなことどうでもいい。とにかく落ち着きたかった。
手に取り、数センチ刃をだす。
それを迷いなく二の腕に刺した。
刺しては見たものの、それが痛いのかどうかすらその時の私には分からなかった。
腕を見るとじわじわと血が滲んできた。そっと刃を抜く。
少しずつ精神の痛みが身体の痛みへと変わっていった。
血は止めどなく溢れているが、そのかわり涙は止まった。
冷静に考える。
淕空に言われたこと。その理由。私が何をしたのか。
考えても考えても答えは出なかった。
血の付いたカッターを見る。
それは、ただの物体で何の危険も感じられなかった。
取り出したハンカチで刃の部分をふきしまう。
いつの間にか授業も終わっていて女子生徒がわざわざ迎えに来てくれた。
「千万里ちゃん大丈夫?」
制服を整え、袖を伸ばし傷を隠す。
数回瞬きして、一応水を流してからドアを開ける。
「うん。お腹いたくなって。ありがとね」
笑って言うと、その子はそっか、と言ってそれ以上はなにも言わなかった。
手を洗うとき鏡を確認する。
目が少しだけ腫れているけど、これくらいなら大丈夫なはず。
教室に戻り、一番に目に映ったのは淕空。
友達と話しているようでいつもの笑顔。何らかわりない。
でも、その笑顔でさえも恐怖に感じる。
好きだった筈の淕空の存在そのものが凶器と化していた。

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「あのさ」
駐車場の屋根のした。雨の細かい粒の落ちる音が心地いい。
積み重なったブロックの上に座っている淕空。そんな彼の控えめな声は少し珍しかった。
「なに?」
傘を閉じ、彼を見るがずっと下を向いたままだ。どうしたのだろう。
彼は考えるように首をかしげ、それから横に振る。そしてまた傾げる。
なにか考え事をしているのは分かったが、それが何か分からない。
「え?なに?」
ハッと顔をあげた彼の耳は、どこか赤い気がするの気のせいだろうか。
「あー...やっぱ、うん。なんでもない」
「はぁ?」
この、なんでもないっての苛つく。じゃあ、はじめから言うなよって思ってしまうから。
それより、こんなに恥ずかしがると言うかウジウジしている淕空は本当に珍しい。
いつもはもっと自由奔放に溌剌としているのに。なんだか気持ち悪い。
「なに?そういうの嫌だわ-」
わざとらしくため息をつくと、彼は私を見たあと立ち上がった。
顔をあげたときの表情は、なにかを決心したような、けど少し怯えているようにも感じた。
「えっと、前兄ちゃんに君の話したんだって。そのときに言われた言葉ね」
空を見上げて深呼吸をしている。
「僕じゃなくて兄ちゃんの言ったことだから!」
「わかったから、なに?」
またも深呼吸。
「まんま言うよ。『2人って付き合ってんの?』って」
言葉がでなかった。そんなにためることだったかと思うより先に頭が真っ白になった。
何も考えることが出来ない状態のまま、考えようとして全て流れていき何も無くなる。

『2人って付き合ってんの?』

それは、誰かに聞かれたのか。それとも自分が問い続けてきたことなのか。
違う。付き合ってなんかない。
言葉は否定的なものばかり。だって、本当にそうだから。
付き合おうなんて、お互い一言も言ったことがない。
それに、私には付き合ってる人がいる。だから、淕空と私が付き合ってるなんてそんなことない。
じゃあ、なんで付き合ってるなんて思われるのだろう。
「大丈夫?黙りこんで」
覗きこんできた淕空の顔や声が、私を現実へと引き戻す。
「え、あぁ。うん」
ゆっくりと言葉や考えが巡り、戻ってきた。
正常な判断が出来るようになり、ようやく気づく。いや、気づいていたのかもしれない。
気づかないふりをしていたのだ。
数日間の淕空との時間。彼氏である守崎との思い出。私がとった行動。
私たちがおかした小さな過ち。
全てが駆け巡り、後悔や罪悪感など色んな感情が押し寄せてきた。
「ちょっと、まじで大丈夫?」
吐き気がして涙が浮かぶ。出来るだけ平常を装って。
「大丈夫だって」
心配そうな顔をして、そう?と首を傾げる様子を見るだけで、申し訳なさでいっぱいになる。
淕空には何も言ってない。守崎と付き合ってること。
知らないのをいいことに、彼と2人で帰り好きだといい、触れ合っている。
そして守崎も私と淕空がこういうことをしているのだと知らない。
知っているのは自分だけ。現実を知り、夢を見て、喜びを感じているのは私だけ。
本当に最悪だ。
今、自分がどんな表情をしているのか分からない。だから、上を向けない。
彼を見れない。
後ろから優しい声が聞こえた。
「で、どうする?」
考えている間になにか言われていたのか、なんのことだかわからなかった。
「なにが?」
するとさっきの優しい声とは真逆の呆れたため息。
「だから。付き合う?って」
また、思考回路が止まりそうになった。
冷静に考えろ。確かに、淕空のことは好きだけど。でも、彼氏がいるんだから。
じゃあ、振る?
無理、だな。無理だ。
だって、凄く好きだから。淕空のことが。
でも、どうにかしないと2人に失礼だから。だから、守崎に謝ろう。
それからにしよう。うん、それがいい。だから今は、
「保留!」
これが私のだした精一杯の答えだから。
そんな悲しそうな顔しないで。好きなんだよ、淕空のこと。
でも、守崎にちゃんと言わないといけないから。
「そっか。そうだよね」
淕空は立ち上がり、手招きをして私の家の路地へと向かう。
家の前で手をふり、去っていく姿を見届けたあと涙がこぼれた。
それをぬぐい、玄関の戸を開け、部屋に入り携帯を手に取る。
文字をうち、送信したあと涙が溢れた。
さっきとは比にならないくらいの涙の粒。
携帯の画面がにじんで見える。

『私の勝手な理由。ほんとにごめん。別れよう。ごめんね。』

電源を切り、顔の前で握りしめる。
大好き、だったよ。ごめんね。
真っ黒な画面に落ちる涙の音だけが聞こえる。
暫くして雨がひどくなり、音も声も想いも何もかもが掻き消され流されていった。

.

『淕空へ
急に手紙とかごめん。字汚いけど頑張って読んで。
私さ、まだ君のこと好きなんだ。
別に付き合ってほしいとかじゃない。
ただ、なんで1年の頃あんなに悪口とか言われないといけなかったかなって。
その理由が知りたい。
返事はどんな形でもいいから。待ってます。
                           千万里    』


はじめて使う便箋。はじめて開けた封筒。
これは、この日のためにずっと開けずに閉まっていたもの。
取り出したとき新品のにおいがした。
書くときはすごく緊張した。
うまく字がかけるか。
くどくならないか。
彼に伝わるか。
手紙にこんなに労力を使うのは、はじめてだった。
本当に好きな人に手紙を渡すのも、はじめてだった。
今日ははじめてのことばかり。
でも、バレンタインデーは年に1度しかこないのだから。
この機会を逃したらきっと後悔するから。
だから、今日は私の自由にさせて。
君が不愉快になろうが関係ない。
今日は女の子が大胆になれる日だから。

手紙を鞄のなかに入れる。
靴を履いて、身だしなみを整えて大きく息を吸った。
玄関の戸を開け、一歩踏み出す。
いつもの何気ない動作が、凄く難しい。
友達との待ち合わせ場所に向かう。
緊張を悟られないように。平然と。
「やっほー双葉」
小さな紙袋を持った彼女は、小走りで近寄ってきた。
滅多に穿かないスカート。いつもより丁寧に結んである髪。紅潮した頬。
可愛い女の子やってるな。
「千万里!やばいよ!今日だよ!!」
主語はないけど、何が言いたいのかは分かる。
「そだね。双葉は直接渡すし緊張するね。ファイト!」
笑いながら肩を叩く。
本当に、彼女は偉いと思う。
「千万里は?余裕そうじゃん」
余裕なんかじゃないんだけどな。
本当はまだ渡すかどうかも迷ってるくらいに弱虫なだけなんだ。
「私は直接じゃないからさ」
いーだろー、と必死に笑顔をつくる。
笑うのを止めたら、不安で泣いてしまいそうだったから。
「まぁ、お互い頑張ろ!」
無邪気な笑顔。本当に可愛らしい。
大好きなんだな。

雑談をしていたらあっという間に家に着いてしまった。
去年の夏、1度だけ来た。
駐車場を抜け、玄関の取っ手に紙袋を掛ける。
その瞬間、ものすごい疲労を感じた。
紙袋を掛ける動作、ただそれだけに。
でも、これは私にとって大きな進歩。
気づきますように。拒絶されませんように。
届きますように。
全ての願いと愛をこめて、きっともう二度と来ることがない場所に
手をふった。

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「お邪魔します」
軽く会釈をしてから足を踏み入れた。
玄関で野菜ジュースをがぶ飲みしている彼は、誰もいないのに、と小さく笑う。
休日に淕空と会うのははじめてだった。

理由は昨日、私が友達と一緒に帰って淕空をおいていったから。
ただそれだけ。それだけで彼は少し拗ねて突然、明日会おうと言ってきた。
本当に、自分が暇人だったことに感謝する。
朝、待ち合わせをしてから適当に雑談をしながら歩いていた。
公園で立ち止まり影でスマホをいじりだした彼を待つのに疲れて勝手に歩いていた私。
そして、数分後戻ると彼の姿はなくて。
とりあえず歩いて探しているとカーブミラーに走ってくる彼の姿が見えた。
『いた!』
『僕が迷子になってたわけ?てか、勝手にどこか行かないでって前もいったよね?心配するから』
夏なのに走ったせいか、彼は汗をかいていた。
自分のために走ってくれたのだと思うと、悪くないな。
彼の息が整ったあと、突然『暑いから、僕ん家いかない?』と聞かれた。
断る理由も無かったので、頷いた。

そして、現在に至るというわけ。
玄関に靴を並べ、台に上がる。そのとき裸足だったのはかなり後悔。
リビングに入ると凌空と兄弟のものであろう靴下が散乱していた。
私は姉妹だからか、あまりこういう光景がなくてなんだか微笑ましい。
「はいっ」
凌空がお茶の入ったグラスを渡してくれた。お礼を言って受けとる。
熱された体が一気に冷えていくような冷たさ。美味しい。
すぐに飲み干してしまった。空のグラスを台所に置く。
「これ、使っていい?」
彼がさっき置いたグラスを手に取りたずねてくる。
「いいよ-」
洗い物増やさせるのも悪いし。違う場所で飲むだろう。
私は彼がお茶を注いでいる間にリビングの方へ戻った。
するとしたの方に小学校低学年くらいの頃の彼の写真。可愛いな
そのとなりには、どこかのレジャーランドのような場所にいる家族の写真。
どこだろう?
「あ、それ。外国のディズニーランド行ったときのやつ」
「外国?行ったことあるんだ」
「うん。まぁ小さい頃すぎてなにも覚えてないけどね」
小さく微笑むように言う。私は何となく低学年の頃の写真を指差した。
「淕空ってこんな風に笑えたんだね、意外」
「失礼だなぁ。僕だって。笑えるんだよ-」
じゃあせめて、私の前でくらいホントの笑顔見せて欲しいな、とか。
  
それから彼の部屋を見せてもらい軽く話しをした。
「もう昼だ。塾行かなくちゃ」
「そっか。いや-、楽しかった。ありがとね」
サンダルを履いて玄関を出る。見慣れない景色で少し戸惑う。
「こっちこそ」
彼は歩く私を後ろから抱きしめる。また。
「ちょっ、ここ住宅街。よくない」
「住宅街じゃなかったらいいわけ?」
顔は見えないが、にやついてるのが分かる。わざとらしくため息をついてみる。
「呆れないでって」
体を離し、私の前に回り込んでいつものように笑う。
呆れてる風を装わないと、照れているのがバレてしまう。
その後他愛もない話をして、私は家路についた。

.

「ただいま-」
チョコ配りがやっと終わり、6時頃に家に帰りついた。
玄関のドアを開けると、夕食のにおいがする。肉のにおい、ステーキかな。
リビングに通じる扉を開けると、両親はすでに食事を始めていた。
「おかえり。ごめんね、先に食べちゃってるけど」
「いいよいいよ」
友達から貰ったチョコを冷蔵庫にしまう。
「あ、そういえば電話来てたよ-」
「誰から?」
「えーっと、あぁ。北原くんって子から」
え?声が出なかった。一瞬思考が止まり、すぐに考えを巡らせる。
北原って。淕空だ。電話で返事?早くない?待って。まだ、準備できてないのに。
「2回くらいかかってきたのよ。だから──」
「そうなんだ...」
正直、母の言葉が耳に入ってこない。電話しなきゃ。返事、きかなきゃ。
通話履歴から番号をメモし、自分の部屋へ駆け込んだ。
一階から母の声が聞こえる。
「ご飯まだいいから!!」
できる限りの声で叫んだ。声を出したら少しだけ落ち着いた。
部屋のドアを閉め、いったん深呼吸をする。まだ、息はできる。大丈夫だ。
メモをした紙を見つめ番号を入力していく。
入力が終わり、発信ボタンを押そうとしたところで手が止まった。よく見ると震えている。
自分でも気づかないくらいに小さく。
やっぱり、怖い。
最後に話したのはいつだったか。ヘタしたら1年以上前なんじゃないだろうか。
そんな昔に話したきりの彼とうまく会話が出来るのだろうか。
怖くて仕方が無い。
けど、返事を求めたのは自分だ。聞かなきゃ。
意を決して発信ボタンを押す。
スマホを耳に当てるとコール音のみが聞こえる。
あまりの緊張に雑音すら聞こえなくなっていた。
3コールほどして音が消えた。
電話越しに聞こえる空気の揺れる音。
緊張をほぐすかのように軽く咳払いをする音。
そして、前よりも低くなった彼の声がした。
「あー久しぶり。外囿さん、だよね?」
ああいつ以来だろう名前を呼ばれたのは。
外囿さん、か。もう千万里とは読んでくれないよね。
「久しぶり。そうだよ。電話してくれたんだって?出れなくてごめんね」
会話をしているという緊張感からうまく声が出せない。それを悟られないように言葉を発する。
「いや、全然大丈夫。それよりびっくりした。なんかごめん」
声が震えてる。泣いてるみたいな声だ。
多分彼も緊張してるんだな。淕空って緊張すると声が震えるから。
「なにがごめんなの」
ふざけたように笑う。けど、ほんとになにがごめんなんだろう。もうすでに振られているんだろうか。
別に付き合ってとか言ったわけじゃないんだけどな。
「いや、ね。自分勝手だったなって思って」
え?と純粋に疑問の声が漏れてしまった。
彼は小さなたどたどしい声で話し始めた。
「ほんとに僕自分勝手でごめんね。
ずっと言おうとは思ってたんだけど。
なんかタイミングなくてさ。ほら、君って周りとは少し違ってたじゃん?それでなんか気になって。
それを好きって勘違いしてたみたいで」
どうやら昔の話をしているようだ。手紙に書いたからだろうか。その返事をしてくれるらしい。
律儀なとこ変わってないよな。
私はただ、うんと頷いき、続きを待つ。
「勘違いだなって気づいたのが春か夏くらいで。
なんか男バレとかに結構言われて、それも嫌であんなことしちゃって」
春か夏って、まだその時は始まってすらなかったよ?君も普通に優しかったし。
それに、男バレに言われたって、冷やかされたってことかな。たしかに、バレてたみたいだけど。
嫌になるほど言われてた感じもないし、バレたと言っても確証のないものだったはずだけど。
色々彼の言葉に疑問は募るがとりあえず黙って聞いていた。
「でも、本当に今思うとなんであんな馬鹿なことしたんだろって思う」
馬鹿なことって悪口のこと、だよね。
馬鹿なことしたっていう自覚はあるのかと少し感心した。
「ずっと謝りたかった。ごめん」
ごめんと言う時の彼の声はさらに低く小さくて、なんだかすごく不思議な気持ちだった。

I miss you.

思い出がいつも、順番どおりだとは限らない。

I miss you.

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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