僕を解剖したって、そこに僕はいないんだ。

リュックサックの底から、薬局で買ったカッターが出てきた。
結局パッケージはまだ開いてない。
家に着いたら、話し相手が出来たからね。

百円ショップのカッターなら、すぐに捨てられるのにな。
そこそこ値段がするから、もうちょっと置いておこうかな。
どこに置いたかも忘れちゃったけど。
特に切るあてもないけど。

最近した買い物っていうと、多分それくらい。
最近した買い物っていうと、多分そのくらい。

薬局の中を歩きながらさ、カッター工場の人のこと考えてた。
カッターは別に紙を切るために生まれたんじゃなくて、
ただの元素の塊だよねって、なんかそんな気分で。

カッターを作った人の気持ちも考えてみたけど、
カッターの気持ちはやっぱわかんなかった。
道具っていうのはいろんな利用法があるもんだよね。
工夫って大事。

そもそもなんで薬局に行ったんだっけ。
多分ポイントを貯めてもらった金券があったから、
何か食べ物でも買いに行ってたんだっけな。

あんまり最近のこと覚えてないな。
あんまり最近のこと覚えてないな。

生まれてきたことも覚えてないし……。
助産婦さんの顔とか、病室の風景とか……。
だから、僕が生きてるってやっぱ勘違いじゃないのかな。

このまま何となく生きて、いつの間にか死んでるんだろうな。
生まれてきたときが記憶にないように、少しずつ記憶を失くして……。

僕が適当に生きるのを、否定できる人はきっといないだろうな。
僕が適当に生きるのを、否定できる人はきっといないだろうな。

ごはんをあっためようと思って、電子レンジを開けたら、
いつ入れたかも分かんないチャーシューが出てきた。
納豆のにおいになってたから、ごみ箱に捨てた。

僕を解剖したって、そこに僕はいないんだ。

僕を解剖したって、そこに僕はいないんだ。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-11

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