いつつの鐘 レインメイカー③

その③

そして一時間ほど経った教室

窓から見える
学園のロータリーには

続々と【○○方面行き】と標されたバスが
集まっている。


いま、教室で待機しているのは
万智と萌のみだ。


他の面々は皆
校庭やロータリーで
各々のバスを待っている。


『そろそろ行ったほうが良いんじゃない?』
万智がそう萌に話し掛ける。

『お父さんがもう来ているみたい、
今、職員室で仕事があるみたいで…
それが終わったら
とりあえず送ってくれるって。
あ、勿論…万智も一緒に!』

萌は安心しきった様な顔で
そう万智に答える

萌の父親は
警視庁のいわゆる【キャリア組】だ。

その父親が来ているという事は
やはり
先ほどの和美の電話の内容は
おそらく真実であろう。

そこへ
ガラリと教室の扉が開く

和美だ。


『なんで止めなかったの!』
開口一番
イキナリこれだ。

『だって私、ツグミ達の保護者じゃ
ないもん。』
万智は相変わらずだ。

萌はといえば
ハァハァとまだ息を切らして
そう万智に詰め寄る和美の剣幕に
ただビクビクしている。

和美
『友達でしょ?!
とりあえず助けに行かなきゃ!』

━━━━なぜこう熱くなるのか

万智が 《ふう》とため息をつきながら
逆に和美に質問する。

『あのね!アリスにしたらそんなの【ご馳走】が増えるだけだよ?だいたいどうやって?!
そもそもさ、友達友達いってるけど

私が忠告を無視して拐われたとして
あの【美人お嬢軍団】が命を賭けて
助けに来てくれるの?
絶対来ないよ!だから私も行かない。

バカは自分から危険に近づいて行くから
バカなの!自業自得!』

万智のその言葉に絶句する和美。


そこへ、パチパチと
拍手の音共に
入ってくる見知らぬ【外国人女性】
歳は30代半ばといったところか…

その後ろから
萌の父親も並んで入ってくる。

『お父さん!』

その姿を見て萌はとても嬉しそうだ。


萌の父親
『だいたいの事情は皆、知っているようだね
全員すぐに送り届けるから安心しなさい!』

萌がチラチラと
連れ立って入ってきた女性の
様子を窺っている

万智、和美にしても同様だ。

その視線に気付き
女性が話し掛けてくる

『その賢明な女の子のいう通りですよ、

━━━【セルフディフェンス】
人の事よりは先ず自分の事!
若い人の意見では
久しぶりに感心しました。』

それを聞き万智がそれみた事か!
と得意げに和美を見る。

『失礼ですが、貴女は?』
和美が冷静を装うように
そう女性に質問する。

『伺うなら…先ずは自己紹介してからが
マナーだと思うよ♪和美』

揚げ足を取るかの様に
万智がそう口にする。

その様子に思わず
うふふ、
と笑う女性。

『 私は【トウ】
英国警察(ヤード)から来ました、
もう、お分かりでしょうが
アリスと名乗った少女は
イギリス、いえ、各国で大規模な
誘拐を行う犯罪組織の指名手配犯
…通称【カミラ】と、呼ばれている
凶悪犯です。』

そして真剣な表情に変わり
喋り続ける

『もう、この現場には姿を見せる事は無いと
思いますが…もし、万が一見掛けても
絶対に近づいてはいけません。』

その言葉を受け
顔面蒼白になる和美と萌

『和美と言います、拐われたのは
私の友人なのですが・・・私に何か
出来る事は無いでしょうか?!』

トウ
『今のところ、まだ行方は判っていませんが
・・・・・貴女に出来る事は
貴女自身が一刻も早く安全な場所に
移動し、余計な行動を起こさないこと!』


【うんうん】と頷く万智を睨み付け
その態度に
ヒートアップした和美のビンタが飛ぶ

びゅん!と飛ぶその平手打ちが
万智の頭をすり抜けていく

・・・!

その光景に目を丸くする一同

『アリス、いえ
カミラでしたっけ?
こんな技を使っていました。』
万智がそうニッコリと笑う

トウ
『・・・あなた?!』

万智
『和美よりずっと【速い】萌相手にですけど♪』

その光景に驚きつつも
萌の父親が思い出した様に
とにかく、皆に告げる

『では、教室を調べますので
下校しなさい、部下に送らせましょう
行きなさい、萌。』


そして教室を後にする3人

正門前は臨時バスの山になっている為

普段は使用されていない
旧校舎裏口に萌達用のパトカーを
程無く用意してくれるという

『じゃ、ここで待ちなさい!』

そう娘とその友人達に指差すと
忙しく戻っていく萌の父

━━━━

それからすぐ間もなく

3人の前に

ふと
現れた一匹の【猫】がナァーと鳴いている

それを見て万智の全身の毛が逆立つ

『 和美・・・アレ見えてる?』
震える指で猫を指差す万智

『猫でしょ?』
大袈裟な様子の万智に呆れる和美

二人の様子を見ている
萌が不思議そうな顔をして呟く
『あの猫ちゃんがどうかしたの?』

『あの猫の【ガラ】に見覚えない・・?』

あっ?!と、和美が思い出す
『あの猫!あの時の側溝で死んでた!?』

そう、以前に萌が見つけ
ツグミが此処に埋葬した猫に
よく似ている


さすがに、と萌ですら
まさかね?と
いった微妙な表情をしている。


二人を前に万智が呟く

『 あの猫だけ・・・【影】が無いよ・・。』

夕暮れの光に照らされ
長く伸びる万物の中

その猫にだけは
まるで影が無かったのだ。

そして

━━━ついてこい━━━

とばかりに
3人の周りを回る猫

不思議な事に
3人同時に
猫のその意図がなんとなく解ってしまう

━━━ツグミの所に連れていくつもりだ!


『駄目だって!』
迷い無くその後について行こうとする
和美の服を掴む万智

萌はオロオロするばかりだ。

『行く!万智は残ってなよ!
私が死んでも自業自得でいいよ!』

『なんで?分かんないのバカッ?!』
流石の万智も声を荒げる。

その間もズルズルと万智を引き摺りながら
歩みを止めない和美が口に出す

『 万智がいう通り
【誰も助けてくれない】っていうなら・・
私が助けるよ!私が
【助けてくれる誰か】になる!』

『・・・・・っ!』
その言葉に一瞬躊躇する万智

『じゃ、もう勝手にすれば!』

そう言って万智が和美の服を放す


そして和美は猫の後を1人
スタスタとついて行き
その姿はとうとう万智と萌から見えなくなった。


・・・・・・・・・・
・━━・━・・・
・・・・・・
・・・
・・


━━

そして猫に導かれていく和美は
学園から少し離れた所にある
森の中にいた。


この森は
昼間でも鬱蒼としていて
気味が悪く
普段からあまり人は近寄らない

ふと猫の姿が消える

と、同時に前方に見える【小屋】
周りには野生の(ふき)だの(ささ)だのが
延び放題に繁っている所をみると
だいぶ人は訪れていないようだ。

それでも
小屋の入り口付近の
(ふき)が折れ曲がっている

折れている草の状態からみて
ごく最近のものだ。



あれか!
そう確信する和美の背後に
忍び寄る影がひとつ

カミラの眼が嬉しそうに
光っていた。

小屋のドアに手をかける和美

バンッと勢い良く開ける

ツグミを含め他に何人かの女生徒たちが
猿轡(さるぐつわ)と共に
手足を縛られている


恐る恐る
周りを見渡すと
他には誰も居ないようだ。


ウーウー唸っている
ツグミを縛っているロープに
手をかけた瞬間

壁に吹っ飛ぶ和美

『ようこそ』

カミラがとても
嬉しそうにそうニッコリと笑う。


うち据えた腹を手で抑えながら怒鳴る和美
『もう、警察が直ぐにくるんだから!』

その言葉を受けてもカミラに動揺は一切ない

『あなたの携帯ならとっくに
壊してありますよ。』

昨日のアリス、いやカミラとの
揉め事の際、その手により
和美の期待していた
携帯のGPSは壊されていたのだ。
通話も圏外になってしまっている


『あの後、貴女(和美)にも
招待状を贈りたかったのですけど
どうやら邪魔者がやってくる、
という情報が入ってしまいまして・・
失礼しました。
でも、まさか貴女から
来てくれるなんて感激です。』

起き上がろうとした和美の頭を踏みつけて
そう話すカミラ



『みんなをどうするつもりなのっ』

気丈な和美が
痛みを堪えながら
カミラに問い質す

『殺しはしませんよ、残念ですけど
今回は某国の金満家の方々から
【毛並みのよい日本人種】の注文が
幾つか入りまして・・・
この私にそのお役目が回ってきただけの
話なんです。』


『人身売買!?この時代に?!』
驚く和美


『別に珍しい事じゃないんですよ
世界中に変態は居ますからねぇ♪
ま、彼女達は【健全】な【性玩具】ですから
まだ幸せな方ですよ♪

でもね、貴女は別!

何せ私にアレだけの事をしたのですから
貴女には
色々と面白い趣向を考えていたのですよ♪
それが無駄にならずに本当に嬉しい!』


その人間にものとは思えぬ
冷たい微笑みにゾッとする和美

『とりあえず・・私を打った腕は・・・
右手でしたっけ?』

その右手に突き刺さるナイフ
そのままダンッ!と
和美の右腕を踏みつけると
ボキリと嫌な音が響く

『大丈夫ですよ!折れたくらい♪
貴女の四肢は
とりあえず全部切り落としますから♪
あ!【ダルマ】って知ってます?』

ニヤニヤと笑いながら
話し続けるカミラ

その和美の惨状をみて
ショックのあまり
小屋に拉致されている女生徒たちは
次々に気を失っている

ふぐふぐと
何かを猿轡の中から
叫び続けていたツグミでさえ
もう限界は近いようだ。


『では、右腕を切り離しましょうか?
今は良いクスリが有りますから
そうそうは死ねませんよ♪』

斧を壁から外すと

和美に向かい大きく振り上げるカミラ

その斧が勢い良く降り降ろされる!



━━━ッガインッッ



和美と斧の間に猛烈なスピードで
窓口から飛び込んできた

【一本の槍】

それがギリギリの所で
和美の腕を救う


・ッ?と槍の飛んできた方向を
睨み付けるカミラ

もはや流石の和美も気を失っているようだ


『 そこまでよッ!』

学園のブレザーに身を包み
蕗の葉 で顔を隠している
【チビッ子】が
そう言い放っている


なんだ?と、
眼が点になるカミラ


ツグミがフガフガと
ようやく猿轡の一部を噛みきり
プハァっと息を吸い込むと
大きく怒鳴る

『和美ッチを連れて逃げて!
万智っ!私はいいから!』


『マチ?どなたの事ですカナ?』
チビッ子が呟き
そして続ける

『そこの外国人!あなた此処の
(ふき)を折りましたね・・・』

カミラには
いったいチビッ子が何を言っているのか
まったく理解出来ず
茫然としてたが
ようやく我に返ると

『・・・草?何の事?コイツらを
助けに来たんじゃないの?』

そう不思議そうに【チビッ子】に質問する


『 違います、そんなバカ共については
私はまったく関知しません』

チビッ子がカミラにそう答える

『では、なんなの?』
カミラが冷たい眼でそう返してくる

『 わたしは【(コロ)戦士(ボックル)】・・・!
フキに代わって~【お仕置きよ】!』

そう独特のポーズを取りながら
カミラにいい放つチビッ子

とりあえず
殺しておくか・・

カミラが小屋から斧を片手に
物凄い【威圧感】を伴いながら
ゆっくりとチビッ子の前にと出てくる



━━━━最終編に続く

いつつの鐘 レインメイカー③

いつつの鐘 レインメイカー③

全四話です。その③

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • アクション
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-07-11

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