けだるく
会いたいっちゃ会いたいんだけど。心あらず的な。
PCから流れるピアノジャズ、木製サイドテーブル上のレトロなスタンドランプからオレンジの光がほのかに漏れる六畳の室内。ブラウン色の二人掛けソファに座るユウトは、ふかしたタバコの火頭を細めた目で見つめながら、となりに座るショートヘアの女性を視界の隅で映していた。
「先月見た映画なんだけど、面白かったよ。ユウトも好きなんじゃないかな、でもユウト映画館あんまり行きたくないんだよね」
微笑んだまま少し早口で話す女性の視線を感じながら、ユウトは煙を肺に入れてウッドテーブルの上に置かれたガラス製の灰皿に灰を落とした。
「うん。観てるとき、ほかの客が咳払いとかしたら気になるから好きじゃない」
灰皿へ落とした灰に目をやるユウマの横顔を、ショートヘアの女性は微笑みを崩さないようにじっと見つめている。
「そうだよね、前に言ってたよね。じゃあDVD借りれるのってまだ先だし、なんだろ今借りれるのでオススメ……今度来るとき持ってくるね! ユウトの部屋落ち着くから、私もゆっくり見れるから嬉しいな」
女性は部屋を見渡しながら言ったが、ユウトは自分の部屋を褒められても特に表情を動かさず、軽く視線を部屋に向けてタバコの火頭を再び見つめた。
「…3ヶ月ぶりだよね、会えるの」
さっきまでよりゆっくりとした、少し低い声で女性がつぶやいた。眉根にしわを寄せながらも、微笑みを崩さないように懸命にしている。
「そうだな」
細めた目のままユウトが低い声でつぶやき、タバコをくわえた。
「私嬉しい。ユウトに会えて。家じゃ、こんな気持ちになれないし。もうずっとこんな気持ちになれてないから…ドキドキしたいから」
ユウトは女性に目を向けた。眉根を寄せたまま微笑む女性の目が、ユウトの目をまっすぐ見つめていた。ユウトはタバコを灰皿に押しつけて女性の首を手を回すと、女性がユウトに寄り添った。体の重みを感じたまま、ユウトは無表情を見せないように女性の耳元へ顔をうずめた。
始発電車の走る音を背に向け、駅の改札前でユウトはタバコに火をつけた。うっすらとした雲の伸びる淡い青空をまどろんだ目で眺め、ポケットで振動したスマートフォンを取り出す。
『ありがとう。会うの本当は嫌だったら言ってね』
受信したメッセージを開いたまま、ユウトが淡い青空に向かって煙を吐いた。まどろんだ目を空から地面へ落とし、小さくため息を吐いて携帯灰皿をポケットから取り出す。口の開いた携帯灰皿を見つめたまま、手にしたタバコの灰をアスファルトへ弾いた。
けだるく