ENDLESS MYTH第3話ー14
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熊のような拳が、鳴る稲妻の如き閃光を一閃した。
ニノラの豪腕はだが反重力によって剥がされるように、高速で弾かれた。
面長の男の重力を操作するちからが獣の力を所持す黒人青年を、自らに触れさせる前に弾き返したのだ。
空中で体制を立て直せなかったニノラは、そのまま数キロ先の森の、ビル程もある巨木に身体を打ち付け、広大な幹の上に崩折れた。
それが常人場馴れした視力で見えるファンは、自らの能力を誇らしげに、鼻を優越感で鳴らすと、苦戦する、同じ定めの沼に浸かる者たちを一瞥した。
「なにも今、ここで焦燥的に戦わなくてもいいだろ? 狙いは1人だ。それを叩けばいい」
余裕の笑みを浮かべるファンの言葉には、やはり妙な説得力がある。
彼の言う狙いとはもちろんメシアのことである。
戦いに視野の狭さを露呈した両陣営は、能力の発動を一度、停止すると中空に立ち止まった。
大木の幹に這わされたニノラが転送して、マキナのそばに転送してきた。
ファンを睨みつける黒人の眼には、嫌悪感と敵意が炎を成り瞳を縁取っていた。
ファンは面長の顔を眼下の黒人に嘲笑の眼を落とした。
「護れるか、俺の親友を」
親友という部分を強調するように、嫌味にいう男を、更なる敵意で睨みつける、自然と力が入る腕には、獣のごう毛が逆だって生えてきた。
ニタリと笑んだファンは真っ先に転送してその場から消滅した。
続けて異形の異星人たちも続けて転送して、その場から消滅するのだった。
【咎人の果実】が姿を消しても、未だに黒雲が分厚くなっている虚空を見上げた。
そこへ転送してイ・ヴェンスがニノラの横へ現出した。
「あの口ぶりだと、救世主が危ないんじゃ」
視線を苔が覆う大地に視線を落とし、ゆっくりと呼吸を整え、腕の獣の化を沈静化させたニノラは、大男を見上げた。
「メシアを探そう。奴の言い方だと、近いはずだ」
「で、でもいなくなった人たちは」
小声でマキナがいうと、転送してきた小柄なジェイミーが、脳天から抜ける声で言った。
「大丈夫でしょ? それよりここから早く移動しましょうよ。雨に濡れるの嫌よ」
と、自らのことばかり言うのだった。
ニノラは稲妻が走る空をもう一度見上げて、大きくため息を漏らすのであった。その吐息には、これからの戦いへの憂いがこもっていた。
「他の連中なら大丈夫。まだ彼らの意識を感じる」
そういうとニノラは中空へ飛行して行く。黒雲のスレスレで停止すると、下に広がる変異した世界を望んだ。
ビルほども高く伸びて、小さい街ほどもある巨大な幹。
それらが大地を生い茂り、森が圧倒的な自然をその眼に突き付けてくる。
そしてその間には、もはや遺跡と化した、ニノラが見たこともない巨大なビルが点在していた。
この広大な大地のどこかに、自らが求める救世主がいる。それを見つけなければ物語は終わりを告げ、すべてが消えてしまうのだ。
ENDLESS MYTH第3話ー15へ続く
ENDLESS MYTH第3話ー14